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『溺愛以外お断りです!』10◆ミレーネ視点




「どう思う?」


 部屋に入ってソファに腰掛けるなり、後ろから降って来た夫の声に私は大きな溜め息を吐いた。


「どうもこうも無いわ。イメルダの表情がすべて物語っていたでしょう?」

「さぁ。僕には君の友人の心境はお察し出来ないから」


 そう言ってわざとらしく両手を広げて首を振るリゲルを無視して、壁際で控えるメイドに水を持って来るように頼んだ。


 この男と一緒に居ると口数が増えて喉が渇く。

 クレサンバルの第二王子が滞在するということで、ファーロング家の使用人たちも緊張した様子だけど、当の本人が私にこのように邪険に扱われるのを見たら驚くかもしれない。


「レナード王子は噂通りの秀才くんだな。俺とは違って発言が思慮深いし、あれは相当猫っかぶりだろう?」

「まぁね。相変わらず当たり障りないことしか言わない面白味のない男よ。イメルダは彼の何に惹かれたのかしら?」

「彼女の前でしか見せない姿があるのかもしれない」


 何が楽しいのかリゲルはやけに上機嫌だ。


 私はまだムカムカする気持ちを落ち着かせるために、メイドが運んで来た水をグイッと飲んだ。グラスを机に戻して自分の部屋を見渡す。年月を掛けて集めて来た宝石たちは、今日も変わらず美しい姿で迎えてくれる。


(………あんな顔をさせるなんて、)


 紆余曲折を経て結ばれた二人がまだ結婚していない事実にも驚いたけれど、どうやら原因はレナードの方にあるようだった。婚約者の堅い返事を受けてわずかに翳ったイメルダの表情を思い出す。


 ───レナード・ガストラ

 ラゴマリアの太陽だか何だかと褒め称えられる彼が、マルクス・ドットから婚約破棄されたイメルダを新しい婚約者として選んだことは、少なからず国民を驚かせた。


 否定的な意見を書かないように各報道機関には圧力を掛けたけれど、若い二人の選択を快く思わない集団が居るのは仕方がないことだろう。


 伝統と格式を重んじる王家が、王太子妃候補として迎え入れた相手が婚約破棄された令嬢。しかも二人には、婚約前に密会をしていたという噂まで立っていた。



「だから、貴方が守らなければいけないのに……」


 知らず知らずのうちに唇を噛み締める。


 久しぶりに会った友人からは、彼女の特徴だった明るい笑顔が消えていた。野原に咲く花のようなイメルダの幸せを守るために、黙って身を引いたというのに。


「ダメだわ、むしゃくしゃする」

「うーん…ミレーネ、君はちょっと失礼じゃないか?」

「何のこと?」


 気が立ったままでリゲルを睨み付けると、視線の先で困ったように微笑んだ夫は、机の上に投げ出した私の手を取って口付けた。


「せっかく妻の家に伺っているのに、君は昔の婚約者とかつて想いを寄せていた友人の話ばかりする」

「………っそれは、」

「妬けるね。あまり俺を放ったらかしにしないでくれ」

「ごめんなさい……分かったわ」


 そうでも言わないと掴まれた手を離してくれそうにないので、私は降参を示して首を振った。


 本当に面倒な男と結婚してしまったと思う。クレサンバルから付いてきた時から只者ではないと分かっていたけれど、彼が一緒に居たら勝手な行動も取れそうにない。



「レナード王子の本心はどうなんだろうな?」

「本心……?」

「ああ。何かきっと思うところがあるんだろう。まさか何も考えずに彼の婚約者を待たせてるわけではないし」

「どうかしらね。何であれ、あの男は性悪なのよ」

「へぇ、君よりも?」


 興味深そうにリゲルが笑顔を見せる。

 私はその頭を撫でながら頷いた。


「ええ。レナードは私以上に嫉妬深くて強情よ。だから私たち二人は折り合いが付かなかった」



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