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『溺愛以外お断りです!』6



 アゴダ・セイハム大公が王宮を訪れたのは翌日、三時を少し過ぎた頃のことだった。


 年齢のわりに体躯が良く、相手を威圧する鋭い眼光はデリックとは似ても似つかない。だけど、そのトパーズ色の瞳は紛れもなく彼がデリックの父親であることを示していた。


 コーネリウス国王と並ぶ姿を見たところ、私の父や国王よりは若く見える。まだ五十代の後半といったところだろうか。しげしげと観察を続けていたら、急にこちらを振り向いた大公の双眼が私を捉えた。



「おお……!イメルダ様!」


 大きな声で名前を呼ばれて、私は思わず身構える。

 そうした感情を乗せた顔はデリックに重なったのだ。


 大股で近付いて来た大公は隣に立つレナードに挨拶を述べて、私の方へ向き直る。私は意図せず全身の筋肉が引き攣るような感覚を覚えた。落ち着いて、と意識しながらなんとか口を開く。


「初めてお目に掛かります。イメルダ・ルシフォーンです」

「手紙を送って以来ですね!我が愚息が貴女にとても失礼な行いをしたこと、深く心を痛めています」

「……いえ…」

「親である私が言うのもなんだが、デリックはとんでもない放蕩息子でね。私も妻も昔から手を焼いていたんだ」

「………そうですか」


 うんうん、と頷きながら再びアゴダは「すまなかったね」と言い添えた。そしてすぐにフェリス王妃の方へ声を掛けて今度は彼女の新しい趣味について色々と質問を始めている。


 その切り替えの速さに驚きつつ、私はレナードを見上げた。


 エメラルドの瞳はまだセイハム大公の動向を追っている。この一年の間に、レナードは私が見たことがないような顔をするようになった。今までは温和で優しく、思慮深い様子が全面に出ていたけれど、最近は何を考えているのか分からない時もある。


「レナード……?」


 小さな声で呼び掛けると、ハッとしたような顔をして「ごめん」と返ってくる。私の心配が表に出ていたからか、レナードはすぐに安心させるように「大丈夫だよ」と付け足すと、用事があると言って部屋を出て行った。




 ◇◇◇




 国王の提案で、その日の夕食は大公も交えて囲むことになった。急とは言えども、南部からはるばる出て来た従兄弟への労いの気持ちがあったのかもしれない。


 まだ少し緊張するけれど、謝罪してくれた大公をこれ以上責めるのは違うと思うし、私はきっと前を向くべきなのだと思う。過去を乗り越えて成長しなければいけない。



「すみません……少し化粧室に、」


 不慣れな場で黙々とフォークを動かしたせいか、食べ過ぎて胸が苦しくなってしまったので席を立った。この後まだデザートがあるだろうけれど、少し時間を空けた方が良いかも。


 付き添うというメイドの申し出を断って廊下を歩く。

 そこまで体調は悪くないので一人で大丈夫だ。


 化粧室に入り、鏡の前でしばらく手を突いて下を向いていたら、幾分か気分は良くなってきた。念のためコルセットの締め付けも少し緩めた上で廊下へと足を踏み出す。


 しかし、食堂へ戻る前に私は暗い廊下に人影を見つけた。



「イメルダ様……!」


 驚いて喉が締まり声が出て来ない。

 視線の先ではセイハム大公が手を振っていた。



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