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『溺愛以外お断りです!』5



「イメルダ、無理に君が顔を出す必要はない」


 就寝前にレナードは私の部屋を訪れてそう言った。

 それが先ほど夕食の時間に話題に出たセイハム大公の話であることはすぐに分かったが、私は首を横に振る。


「大丈夫。何も問題はないから」

「無理をしていない?」

「………ええ」


 頬に手を添えて確かめるように覗き込むエメラルドの瞳を見つめ返す。


 変わってしまったことが多い私たちだけど、レナードのこうした仕草は昔と同じままだ。私がまだドット家と婚約していたとき、マルクスと三人で遠出をした際にも、振り返らずに進むマルクスの後ろでレナードは「大丈夫?」と聞いてくれた。


 だけど、私はもう子供ではない。

 彼に気遣ってもらっていた非力な自分では居られない。


「いつか会うことになる人だし、挨拶ぐらい平気よ」

「分かった。母はいつも突然で……すまない」

「ううん。王妃殿下の明るさには救われてるの」


 それから話題は、ガストラの台風と称されるフェリス王妃の新しい趣味に移り、彼女が特注で作らせたという小さな鳥籠を誤って国王が踏み潰したと聞いて私は少し笑った。


 もしかすると、レナードは食事のときの私の様子を見て思うところがあったから、こうして部屋まで来てくれたのかもしれない。そんなことは口に出さないけれど、彼はいつだってそういう優しさを見せるのだ。


「ありがとう、レナード。また明日」

「また明日。ゆっくり休んで」


 自分の方がきっと疲れているのに、扉が閉まる最後の瞬間までレナードは柔らかな笑顔を見せてくれた。


 私は去って行く足音を聞きながらずるずると床に座り込む。何も不満はないけれど、漠然とした不安は心の真ん中にもったりと居座っている。


 顔を上げて部屋の隅に置かれた小さなトランクを見た。

 それは、ラゴマリアの王宮に越して来たときに持参した荷物で、中には私が心の支えにしていた兎のぬいぐるみが入っている。今すぐ鍵を開けて小さな身体を抱き締めたい気持ちを、なんとか抑え込んだ。



(イメルダ……強くなって、大丈夫だから)


 この一年、何度も呪文のように繰り返してきた言葉。


 諦めていた最愛の人の隣を歩く権利を手に入れたのだから、私はそれに見合った人間でありたい。フェリス王妃はああいう風に言っていたけど、自分らしく生きるために私には強さが必要なのだ。


 誰に何を言われても、動じない心。

 レナードと生きるための覚悟が。


 ベッドに横たわってオレンジ色の月を見ているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちていた。短い夢をいくつも彷徨った気がするけれど、はっきりと内容は覚えていない。



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