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アメジストの恋 後編◆ミレーネ視点


 しかし、どういうわけかリゲルはそれから毎日私の元へやって来た。


 人間関係に波風を立てると自分のストレスが増えるので、出来るだけ他人には笑顔を見せていたけれどもう限界が近い。絶妙に嫌なタイミングで姿を現すから、尚更にタチが悪い。


 その日の私は、同じ授業を取っているというクラスメイトにしつこくホームパーティーに誘われていた。「他の女の子にも声を掛けている」「ずっと話してみたかった」等と並べ立てられる誘い文句をにこやかに躱しながら、早く立ち去るように念を送っていたのだけど。


「悪いな。彼女は今日、俺と予定があるんだ」


 第二王子は私の姿を見つけるや否や、間に入って来た。


「……り…リゲル王子殿下!失礼しました、そうとは知らずに僕は…!どうぞ後はお二人でごゆっくり……」


 焦ったようにバタバタとその場を去る男を見送る。

 壁に手を突いて何か言いたそうなリゲルを見上げた。


「すみません、殿下と予定があったとは私も知りませんでした」

「可愛くないなぁ。助けてあげたつもりなんだが」

「頼んでいませんけども」

「………本当にさ、そういうところだよ」


 溜め息を吐くリゲルは「素直にならないと恋人も出来ないぞ」と余計なお節介を述べる。


 知り合って一週間そこそこの彼に、私は自分の性格や恋愛事情を知った風に語られたくなかった。他者が語る私の印象は大抵、間違っている。過剰に誇張されたその言葉たちを訂正するのは、あまり好きな作業ではなかった。



「恋人ではないけど、好意を抱いた相手はいたわ」

「ラゴマリアの王子だろう?」

「いいえ。彼の新しい婚約者よ」

「………、」

「何かおかしい?誰を好きになるかは自由でしょう」


 リゲルは瞬きを数度して、開きかけた口を閉じた。


 どうでも良い相手に自分のことを話し過ぎたと後悔する。だけど、こうして伝えることで彼はきっともう私に話し掛けて来ないだろう。


 それで良い。

 馴れ合いなんて必要としていないから。


「お前、やっぱり面白い女だな」

「………は?」

「俺に対してもズバズバ意見するし、自分の失恋をそうやって語れるってことは、きっともう吹っ切れたんだろ?」

「吹っ切れた……?」


 吹っ切れているのだろうか。

 イメルダへ抱いていた淡い気持ちは、誰にも伝えないままに封印した。留学先でも時たま思い出すことはあっても、それは悲しみやレナードへの恨みではなく、穏やかな友愛に近いものになっていたと思う。


 大切な友人が自分の幸せを叶える姿は眩しい。

 そして同時に、心が温まるほど、嬉しい。


「……そうね、良い思い出になったのかもしれない」

「よし。それじゃあ今日は失恋祝いでお前の奢りだな!」

「何のことですか?」

「言っただろう?お前は今夜、俺と予定があるんだ」


 そう言ってニッと笑うリゲルを見て、私はポカンとする。


 こんな風に強引に予定を組まれたことはなかった。誘いの言葉も無ければ、私の容姿を褒めるお世辞もない。機嫌を伺うようなプレゼントも無いし、おまけに誘っておいて私に奢れとのたまう。



「ミレーネです」

「ん?」

「“お前”じゃありません。私の名前は、ミレーネ・ファーロングです」

「ははっ!良い名前じゃないか、ミレーネ!」


 驚くべきことだけど、私は自分が笑っているのに気付いた。

 こんな失礼なデートの誘いを受けていながら、無礼な王子に名前を呼ばれて上がる口角に、顔面の筋肉がおかしくなったのではないかと疑う。


 今度、イメルダとグレイスに相談してみようか。

 二人はきっと面白がるに決まっているけど。




 End.



これにて完結となります。

ご愛読ありがとうございました。


アルファポリスさんで行われているキャラ文芸大賞で、閻魔様に嫁入りするお話を書いているので、よければ遊びに来てください。ではでは。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が読みやすい [気になる点] 主人公がクズすぎ [一言] 自分勝手で自分に酔っているヒロインが他人の男を寝取る話。主人公に魅力がとくにないので無理がありすぎる
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