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エメラルドの恋 後編◆レナード視点



 イメルダ・ルシフォーンが婚約者になった。


 それはもう、自分の人生における一番の喜びと言っても過言ではない。正直なところ告白を受け入れてくれた日は嬉しすぎて一睡も出来なかった。


 様々な過去を抱えた二人なので、よく思わない人も一部には居るのだろう。婚約を取り止めた者同士がこうして身を寄せ合うことに対して、憶測が飛び交うのはある程度承知の上。



「それで、いつになったら赤ちゃんが出来るのかしら?」

「………ッブフォ!」


 王妃の爆弾発言に大正解の反応を返したのは彼女の隣に座る国王、つまり自分の父親であるコーネリウスだった。


 慌てて紙ナプキンを差し出す使用人たちを横目に、フェリスは「大丈夫?」と涼しい顔をしている。トマトスープを派手に撒き散らした父はまだ苦しげに咽せていた。


「母上、まだ僕とイメルダは結婚していません」

「あら?そうだったのね。私ったら勘違いしていたわ」

「勘違い?」

「ここのところよく王宮でイメルダを見かけるでしょう?だからてっきり、私に内緒でもう結婚したのかしらって」

「……何から説明すれば良いか分かりませんが、僕は一応この国の王子なので、結婚となれば式を開催してそれなりに人を呼ぶ必要があります。内密で結婚するなど有り得ない」


 隠すことではありませんから、と答えるとフェリスは何やら記憶を辿るように眉間に指を当てて見せる。


 母の突拍子もない行動にはいつもヒヤリとさせられるが、今もどんな発言が飛び出すのか内心ハラハラしていた。十分に大人と言える年齢なのに、なぜか中身は十代の少女のまま成長していない母親は、陰で「ガストラの台風」と呼ばれている。


「あ、思い出したわ」

「………?」

「ちょっと前のことだけど、貴方が一度朝帰りした日があったでしょう?私、実はその日はたまたま目が覚めていたのよ。キティがお腹を壊して鳴いていたから。あの時の相手はイメルダだったのね?」


 今度は自分が水を吹く番だった。


 母の隣で父が気の毒そうな表情を浮かべている。

 幸い、食堂の中には昔から王家に仕える気の知れた使用人たちしか居ないから良かったものの、これが外出先や、何かの集まりの場だったらと思うと気絶しそうになった。


 当の本人はまったく詫びる様子もなく、呑気な声音で「だってファーロング家の令嬢とはそういう間柄じゃなかったでしょう?」と付け加える。


「フェリス……レナードだって男だ、こんな場で君相手に話せる内容じゃあない。場を弁えるべきだろう」

「あら?じゃあ貴方は見たくないって言うの?私は早く可愛い赤ちゃんを抱っこしてヨシヨシしたいわ」

「そりゃあ、私だって同じだよ。だけどこういうのは本人たちの意思が大事だし、なにより二人はまだ婚約関係だから…」


 迷惑な子供のように好き勝手喋る妻を宥めながら、父コーネリウスは身振り手振りで早く部屋を去るように指示する。


 その命令に有り難く乗っかって物音を立てないように食堂を後にした。扉を開けるときに、長年ガストラに仕えるロンダが同情のような顔を見せたので黙って首を振った。



 純真無垢なガストラの台風は、数ヶ月後にイメルダとその友人のグレイス・デ・ランタ伯爵令嬢を伴って隣国クレサンバルに上陸するわけだが、この話はまた今度。



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