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43.オレンジリキュール



「イメルダ、来てくれてありがとう」

「いいえ。さっきフェリス王妃にも会ったの」

「へぇ……」


 あまり関心はないのか、デリックは私の顔も見ずにメイドの一人に飲み物を持って来るように頼んだ。私は持参した荷物を抱え込んで、座って良いものか悩む。


 広い部屋の中には向かい合って設置された長いソファー、そしてそれらに挟まれるように机が置いてあった。どういう用途の部屋なのか分からないけれど、部屋の隅には立派なグランドピアノも置いてある。


 私は窓越しに陰りつつある天気を気にしながら、持参したお菓子を机の上に置いた。



「ガストラ家の料理人が作る食事に勝るかは分からないけれど、うちの料理人が作ってくれたマフィンよ」

「気を遣わせて悪いね、ありがとう」

「グレイスとミレーネが来てから開ける?」

「いや……先に始めようか。今日は最後の集まりだから、アルコールを飲みたい気分なんだ。昼間から悪いけど、付き合ってくれるかい?」

「ごめんなさい、私は飲むと思考が鈍るからゲームが出来なくなっちゃう。やめておこうかしら」

「一杯だけで良いんだ。頼むよ」


 悲しげな顔で頼まれたので、仕方なく頷く。

 一杯でベロベロになるはずもないし、何かあったらきっとグレイスが冷水を掛けてでも起こしてくれるだろう。しっかり者のミレーネも居るとあれば、心強い。


 デリックは立ち上がると「飲み物をもらってくる」と言って部屋を出て行った。


 ソファに腰掛けて待ちながら、友人二人の到着がやけに遅いことが気になった。待ち合わせの時間はとっくに過ぎているし、グレイスはともかく、ミレーネが遅刻するとは考え難い。


(もしかして、何かあったんじゃ……)


 心配になって心がソワソワしてきた頃、デリックが再び部屋に戻って来た。手にはオレンジ色の液体が注がれた二つのグラスを持っている。



「あの…デリック?グレイスたち、遅いわね?」

「ああ。今さっき遅れるって連絡が入ってたよ」

「え、そうなの……?」


 差し出されたグラスを受け取りながら聞き返す。


「これね、南部で有名なお酒なんだ。オレンジのリキュールなんだけど甘くて飲みやすいよ」

「……やっぱり、二人が来るまで待たない?先に飲み始めていたら悪いし、」

「大丈夫だよ。君は真面目だなぁ」


 デリックは口に手を当ててクツクツと笑う。

 彼らしくない笑い方だと思った。


「イメルダ、そんなに難しく考えなくて良いんだよ。君はもっと自由奔放になった方が良い。あれこれ考えてたら、君の大事なレナードだってシシーみたいな女に取られるよ」

「………随分と…酷いことを言うのね」

「親切なアドバイスだと思ってほしいな。気を悪くしたなら謝る。男は少し抜けてるぐらいの女の子の方が好きなんだ」


 堅物令嬢じゃなくてね、と言って退けるものだから私はカッとなって手に持ったグラスを傾けた。舌に絡み付くような甘い液体が喉を通って流れ込む。


 デリックは面白そうにこちらを見ていた。


「どう…?堅物なんて言わせないわよ」

「そうだね、君はとっても情熱的で素敵だ」

「………?……デリック…?」

「どうしたんだい、イメルダ?」


 視界がぐにゃっと歪んだ。

 目の前に立つデリックの表情が読めない。


 全身の筋肉が機能しなくなったみたいに力が入らなくなって、私はその場にしゃがみ込む。床に突こうとした手がブルブル震えていることに気付いた。


「デリック……何か、」

「大丈夫。安心して、イメルダ」

「ねぇ…!デリック……貴方、何を…!」

「レナードにも、君の婚約者にも出来なかったことを僕はするから。溺れるぐらいの愛をあげる。ねぇ、だからどうかイメルダも僕を好きになってね……」


 何も見えなくなった目の向こうから熱い息を感じた。

 抗いがたい吐き気と頭痛に襲われて、意識を手放す。



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