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41.契約書◆レナード視点



「………え?売買の契約書がない?」


 驚いて聞き返した言葉に、無精髭を生やした男は頷く。


 ニューショア帝国への潜入は、ラゴマリアから向かうトラックの荷台に紛れることであっさりと成功し、思っていたよりも早く西部の地域へ辿り着くことが出来た。


 近年急速に成長を遂げている中心部と異なり、西部はまだ発展に取り残されているような印象を受けた。路地を一本入ればそこはもう掃き溜めの集まりで、ゴミや糞尿が混じった饐えた臭いが充満している。


 聞き取りを行うこと三日。

 なんとか一人の売人と知り合うことが出来たが、どういうわけか彼はドット商会との契約書が無いと主張する。



「そういった面倒な段取りは踏んで無いんだ。ある程度の数が入れば、お嬢様に手紙を出すことになってる」

「お嬢様?」

「シシーお嬢様だよ。彼女はここらじゃ有名な高級娼婦の隠し子でな。ニューショアじゃ平民だったが、あっちの国ではどうやら公爵家に住われてるらしい」

「………!」


 ピンク色の髪に甘ったるい笑顔のシシーの顔が浮かぶ。

 彼女がドット公爵家に養子として迎え入れられたのは、自分がマルクスと出会う少し前の話。したがって、その経緯の詳細については知らないが、以前聞いたマルクスの話によると、娘をほしがる母親が身寄りのない貴族を保護する団体から引き受けたと言っていたはず。


「まぁ、こうして俺たちにも甘い蜜を吸わせてくれるから感謝はしてるんだけどな!母ちゃんによく似た可愛い顔してたから、きっと美人に成長したんだろうよ」

「……どうでしょうね。僕たちは関わりがありませんので」

「あんた、ラゴマリアの人間なんだろう?そのルシフォーン商会ってのは薬を仕入れる予定はあるのか?」

「今日伺った話を元に会長に確認を取る必要があります。よろしければご同行願えますか?」

「しかし……」


 チラッと後ろを振り返る男の手に、封筒を渡した。

 中身を確認した相手は「数日なら留守にしても構わないだろう」と笑みを浮かべる。


 ドット商会を取り締まる証拠が掴めれば良いと思って来たけれど、思わぬ情報に辿り着いてしまった。


 マルクスやその親たちは、自分たちが迎え入れた義理の娘のルーツを知っているのだろうか?


 知っていたらきっと養子など組まないのではないかと考える。誰よりもプライドの高い彼らのことだ、どういう手違いか分からないが、さぞかし驚くはずだ。公爵令嬢であるイメルダを切り捨ててまで選んだ女が、犯罪の片棒を担いでいるなんて。


 待機させていた車まで案内すると、売人は嬉しそうに座席へと深く座り込む。キョロキョロと車内を見渡しながら、これからの旅行に思いを馳せているようだった。


「今日旦那と出会えて良かった…へへっ、ちょうど暇をしていたもんで」

「僕も話が分かる方と知り合えて良かった、感謝します」

「そういえば、どこかでお会いしたことがありかすかねぇ?なんだか見たことがあるような気がして……」

「さぁ……気のせいではないですか?」


 ルームミラー越しに運転手に目配せをする。

 男は一つ頷くとアクセルを踏み込み、車は走り出した。



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