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31.婚約パーティー



「……え?婚約パーティー…ですか?」


 私は手に持ったカップに口を付けずに机へ戻す。


 雨が激しく降り続ける昼時に父から伝えられたのは、週末に行われるというシシーとマルクスの婚約を祝うパーティーの知らせだった。


 郵便が届いていた、と差し出された淡いピンク色の封筒にはドット家の兄妹の名前が仲良く記されており、出欠を問う紙が同封されていた。


(私に…祝えと言うの……?)


 三年間の婚約期間を経て、皆に祝福されながら迎えた結婚式当日。困惑する神父のそばに立っていたのはマルクスとシシーだった。愛していなかったから心は傷まない。だけど、プライドはぐちゃぐちゃになった。


 マルクスのことだから、きっとレナードも招待しているはずだ。ミレーネとの話がどれほどの範囲まで広がっているのか分からないけれど、結婚式に呼ばれる予定だった貴族たちは彼らの破談を知っているだろう。


 デリックは来るのだろうか。

 マルクスと彼の間に繋がりがあるのか、私は知らない。バザーで会って以降はまともに顔を会わせる機会もなくて、何通か手紙をやり取りするにとどまっていた。



「あまりにも無礼な誘いだ。断って良い」

「いいえ…参加します」

「イメルダ、」

「何も辛いことはありません。きっと、私が顔を出さなければ影で悪口を言って嘲笑われるでしょうから」

「デリックくんも誘ってみてはどうだ?」

「……そうですね」


 私は頷いて席を立った。

 先ほどまで楽しく食べていた食事に、これ以上手を付ける気にはなれなかった。


 シシーがとうとう正式にマルクスの婚約者となる。皆の前で宣言した通り、彼は愛する人と結ばれるということ。薔薇色の人生が手に入って良かったわね、と声を掛けてあげるべきだろうか。




 ◇◇◇




 マルクスからの手紙はグレイスには届いていないようだった。怒りを全面に出して悪態をつくグレイスを抑えながら私は「呼ばれない方が絶対に良い」と宥める。


「つまり、これは嫌がらせの一種みたいね」

「ドット家にとってデ・ランタ家は不要ってこと?」

「いいえ。べつに私の家柄で呼んだわけではないわ。きっと可哀想な私を自分の目で見たいんじゃないかしら?」

「呆れた…死ぬほど性格が悪いわね」


 マルクスとシシーは私がどんな顔で姿を現すのか見たいのだろう。誰かの影に隠れるように、ひっそりと物悲しげに俯く私を見たいに違いない。


 でも、そんな姿を見せてなるものか。

 私は十分平気だってことを証明しなければ。


「何でもないって顔を見せて来るわ」

「イメルダ……気を付けてね」

「何も心配するようなことはないわよ」

「貴女のお父様も参加されるの?」

「父は……」


 ヒンスはおそらく欠席するのだろう。

 単純にこの時期の商会は忙しいし、大切な商売仲間や顧客であるならばともかく、娘に恥をかかせた商売敵の幸せをわざわざ出向いて祝福するほど暇ではなさそうだ。


「お父様は欠席みたいよ。でも、デリックも招待されていたから、彼が迎えに来てくれるみたい」

「まぁ!すっかり王子様じゃないの!」

「ね。一人では行きずらかったから、助かるわ」


 レナードとミレーネの婚約が取り消しされたことを、きっと彼も知っているはずだ。


 私たちは再び会って、どんな会話をするのだろう。契約で成り立つ恋人関係に同意したのは私自身だ。だけど、私はこの関係がいつまで続いて、どんな終わりを迎えるのかよく分からなかった。



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