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25.恋人契約



「どうしよう…レナード、きっと誤解したわ…!」

「誤解?」

「貴方と私の関係よ!ごめんって言ってたでしょう?」

「そうだけど、誤解されて困ることでもあるの?」

「え……?」


 きょとんとした顔でデリックは首を傾げる。


「君はもう婚約してないわけだから、フリーだろう?」

「えっと…まぁ、ええ……」

「僕も未婚だから、何も問題ないよ」

「問題あるわ!レナードは…!」

「レナードは?」


 レナードは私の好きな人だから。

 喉元まで込み上がった言葉を押し返す。


 そんなこと私以外の人にとってはどうでも良いことだし、この気持ちを封じ込めると自分で決めたのだ。それならば、彼の誤解だって利用した方が良い。


「いいえ……問題ないわよね。ごめんなさい、貴方に変な噂が流れるかもしれないなんて思ったけど」

「レナードはそんなお喋りじゃないよ。それに、僕はそういった噂は大歓迎だな」

「……へ?」

「君のこと好きだから、大歓迎」


 そう言ってニコリと微笑むデリックに私は言葉を失う。


 セイハム家が代々美男揃いであるということは聞いていたし、それ故に女性トラブルが多いということも人伝に聞いていた。こうした言葉に惑わされてはいけない。


「あのね、そういうことは南部では普通に言うかもしれないけれど、王都では冗談で済まされないわよ。私だから良かったものの、他の令嬢に言ったら……」


 やれやれと顔の前で振る手を、デリックが掴んだ。

 掴まれた手を口元に持って行きチュッと口付ける。


 今度こそ絶句して何も言えなくなっていると、デリックは上目がちに私の反応を窺うような顔を見せた。


「他の令嬢に言ったりしないよ。君だけだ」

「嘘でしょう…?信じられない…」

「イメルダ、君はレナードのことが好きなんだろう?」

「………っ!」


 驚いて退いた拍子にドレスの裾を踏んだ。

 ひっくり返りそうになる身体をデリックが支える。


「無謀だよ。レナードにはもう相手がいる」

「知っているわ……!そんなこと…十分、」

「僕じゃダメ?」

「………、」

「こう見えて南部じゃ結構モテるんだけどなぁ。なんなら恋人のフリってことも……」

「恋人の…フリ?」


 私はその言葉にハッとした。


 恋人のフリ。それであれば周囲の人間に可哀想な令嬢呼ばわりされることもない。社交界で浮くこともない。マルクスやシシーにレナードへの想いを引っ張り出されて、笑われる必要もない。


 レナード本人だって、私が他の恋人を作った方が安心するのではないだろうか。いずれにせよ私は彼と結ばれることは出来ない。レナードの「後悔」という感情も、私が幸せである姿を見せることで軽減されるのでは?



「フリ……でも、良いの?」

「いつか本気になってくれたら嬉しいけどね」


 笑顔を崩さないデリックの手を握る。

 レナードとは違う青い瞳。


 こうして、罪深い恋人契約は結ばれた。



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