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23.ドット家の兄妹



「カミュ……!カミュ、どこ…!?」


 必死になってコートをひっくり返すも、小さなうさぎはどこにも居ない。たしかにコートの右ポケットに入れておいたはず。歩いているうちに落ちたのだろうか?


 母がくれた最期のプレゼント。

 小さい頃からずっとお守りだった、友達。


「あら!そこにいらっしゃるのはイメルダ様?」


 その時、悲嘆に暮れて座り込む私の後ろから、高い声が飛んできた。


 振り返ると青い制服を着たシシー・ドットが笑顔で立っていた。私はびっくりして声が出なかった。そうだ、シシーはまだ学生だったはず。グレイスの妹と彼女が同じ学校に通っていたとしても、不思議ではない。


 近づいて来るシシーの後ろには、最悪なことにマルクスも居た。顔の作りこそ似ていない彼ら兄妹は、こうして二人並べばその意地悪な表情は瓜二つだ。



「………マルクス様、シシー様…ごきげんよう」

「ああ。実に機嫌は良いよ、天気も最高だ」

「私に何か御用ですか?」


 私の物言いに腹が立ったのか、マルクスは眉間に皺を寄せた。


「そんな態度は止せ。シシーが親切にお前に話を…」

「良いのです、お兄様。イメルダ様はきっとまだ私を許していないのでしょうから……」

「シシー…」


 彼らの茶番をこれ以上見続けるわけにはいかず、私はカミュの行方を思いながら「お話とは何ですか?」と尋ねた。


 シシーの唇が捲れ上がって笑顔になる。

 マルクスはその後ろで義妹の尻を撫でていた。


「イメルダ様が大切にしていたあの小さなぬいぐるみが…池に落ちているのを見かけたんです」

「………え?」

「校門を入ってすぐの銅像の後ろにある池です。日が暮れるともう探せなくなると思って、私心配で……」

「シシー!貴女がカミュを……!」

「やめろ、イメルダ!みっともないぞ!!」


 吠えるようなマルクスの声に私は振り上げた右手を握り込んだ。


 シシーは義兄の影に隠れて薄ら笑っている。楽しくて仕方がないのだろう。私はたしかにポケットにカミュを入れてこの教室にコートを預けていた。おおよそ、どこかで私を見かけたシシーがこの場所でコートから抜いたに違いない。


 私はこのコートを着て彼女に会ったことがあるから、きっと記憶していたのだ。この朱色のコートは、私の髪の色に合うと褒めてくれたのはレナードだった。



「シシー、イメルダは傷心なんだ。無礼を許してやれ」

「傷心なのですか?」

「彼女はレナードに片想いしていたらしい。ほら、レナードはもうすぐ結婚するだろう?」

「マルクス!いい加減にして!」


 秘めておくと言っていた事実をペラペラと喋り出すから、私は慌てて叫ぶ。


「隠すことじゃあない。恋するのは自由だ。男女の関係にでもなっていたら、俺だって黙っちゃいないが…」


 そう言ってニヤリと笑う黄色い目を見て、私は彼が、これからもそのネタを理由に私を強請るのではないかと恐ろしくなった。


 王太子レナード・ガストラを誘惑した悪女。

 その誘いに騙された愚かな王子。


 私がなんと言われようと構わない。だけど、レナードをこれ以上巻き込むことは出来ない。自分の気持ちを抑えることは出来ても、こうして周りから突かれると、心の中はざわざわと荒波が立った。


 目に涙が滲んだ。

 泣いてはいけない。婚約破棄されても涙なんか一滴も流れなかった。むしろ気持ちは清々した。それがこんな、少し弱みを握られたぐらいで、泣いてはいけない。


 耐えて、耐えて、どうか。



「お?イメルダ、お前もしかして泣いてるのか?」

「お兄様、ハンカチを渡されては?」

「あいにくだが持ち合わせてないなぁ…」


 顔を上げて、私を見下ろすマルクスを睨み付けた。

 コートを引っ掴んでそのまま扉へと駆け出す。


 先ずはカミュを探さなければいけない。

 こんな男の前で泣いてたまるか。



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