第2話
本当に煩わしかった、この肥えた身体も愚鈍な脳も全部。けれどどんな妄想をしても自分を変えられない、いや努力をすれば変えられるだろう。そんなことは分かっている、分かっているのだが自分には努力する才能がなかった。
奨学金を貰うため成績を妥協して入った大学を単位ギリギリで卒業し無名一般企業の営業として就職し、半年で辞めた俺はTシャツからはみ出る腹をさすりつつ空に向かってボヤいていた。天涯孤独であるが呑気なものだと自分の頭の足りなさに嫌気がさす。
「ああ、いっそ魔物が降ってきて身体中あの危険な煤だらけになれば3日はニュースになれるかな」
俺は顕示欲も一丁前に持っていた、なんの得にもならないものだ。世間を騒がせる魔物と魔法少女たちの闘争は、社会との繋がりを切ったような俺にも届いていた。
「ゴク」
格好をつけるためか、日夜飲み干しているエナジードリンクを呷る。酒は帰ってからだ。
ベチョ
「なんだ?鳥の糞か?ついてないな…」
頭にそっと伸ばした手には何か握りしめることが出来そうな物体が載っている。
「うわぁ?!?!え、なにこれ、虫??え??」
気色悪い?そんな言葉じゃ収まらないぞこれは!?ぬめるような質感のせいで手からするりと抜けて俺の胸元に噛み付いた。
「は、離れろ!?痛てぇ、痛たい!助けっ」
言葉とは裏腹に噛まれている否、喰われている箇所は痛くない。神経というか心というかそういう場所が酷く痛むのだ。しかし、どこか安堵していた。突然の死かもしれないがどこか劇的で、俺の人生はこの瞬間のためにあるように思えた。
そして、視界が暗転する。
●●
なんだこのまずいやつ!ニンゲンは美味いはずなのに、夢とか希望とか欲望に溢れていてもっとジューシーな筈なのにこのニンゲン美味しくない!
「聞こえてんぞ」
なんだ!?なんなんだ!?
「せっかくかっこよくキメて死のうとしてんのになんなん?お前?」
え?
「でも、いいなこの新しい感じ、生まれ変わったみたいに身体が軽い。相変わらず目は見えんが」
オレが、喰われて…
「ああ、喰い返してんのか俺が」
ドクン
「どうせ夢だ、暴れてみるかぁ!」
身体か軽くなるのに体積が増していく、知覚出来る場所が増えていき頭が冴えていく。
軽率で愚かな脳味噌は死んだ程度じゃ治らない、それをこの数時間後身を思って知ることになる。