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元聖女は生き延びたい〜魔王との危険な賭け〜  作者: 浅海 景


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30 悪意の芽

朝食を摂り温かい見送りの言葉を掛けられて森の中を歩く。完全に家が見えなくなってからユーリはようやく言葉を発した。

「何をするつもりだ?」

断定的な口調にナギは微笑む。


「魔物の暴走は僕の指示ではないよ」

「………」

含みを持たせたナギの言葉にユーリは足を止める。

質問の答えは期待していなかった。ナギの気まぐれなのか、明確な意思があっての行動なのかを知るために探りをいれただけのこと。素直に答えるナギの目的は分からなくてもこれから起こることを知ったユーリに選択肢はない。


わざわざ魔物と戦わせることで何が起こるのか、知りたくもなかったユーリはただ方向転換して駆け出した。


森の外れには集落というには小規模だが、レイの住む家の周辺には数軒の家が点在していた。

最初に気づいたのは薪用の枝を拾い集めていた少女だった。森に近すぎないようにと言い含められていたが、たくさんの小枝に加えて大きめの枝を見つけて夢中になっていた少女は気づけば森に足を踏み入れていたのだ。


自分の頭上に影が差したため、太陽が雲に隠れてしまったのだと思った。少女が最後に目にしたものは、大きく開かれた口から覗く鋭い牙。無意識に上げた少女の絶叫はすぐに止まったが、人々は異変に気付くには十分だった。


その声はユーリにも届いていて、罪悪感に胸がちくりと痛む。全てが自分のせいだと思うこともまた傲慢だとは思っていたが、ナギの行動を止められない自分のせいだと思うことは止められない。魔王を制御する力がないのなら、出来る範囲で人の命を救う。生きるための手段がいつの間にか贖罪になっていることにユーリは気づいていない。ただ目の前の敵を殺し、命を救うことで自分の存在を許される、無意識にそんな風に考えていた。


(一体これで何匹目だ…)

内心で毒づきながら殺到する魔物の群れで剣を振るう。目の前の魔物に対抗するだけで精一杯のユーリの耳には悲鳴や怒声が聞こえてくる。どれだけ必死で頑張っても全てを食い止めることはできない。

「父さん?!くそっ、やめろー!!」

すぐそばで聞こえてきた声は昨日あった少年のもので、魔物の攻撃をよけつつ目を走らせれば地面に倒れた父親を庇うように両手を広げたレイの姿があった。


「氷の刃よ、敵を貫け!」

残り少ない力を振り絞って術を展開すると、魔物はあっけなく倒れる。鋭い痛みがふくらはぎに走って、魔物の生死を確認することもできないままユーリは再び剣を握り締めた。


魔物がようやく姿を消したのは日が傾きかけた頃だった。ようやく剣から手を離して地面に座り込むユーリの前にレイが近づいてきた。

「お姉さん、大丈夫?これぐらいしかないけど」

手渡された水と乾パンを喉に流し込むと、身体に沁み込むように少しだけ落ち着いた。怪我人も多いが、手当てを受け互いに気遣う様子に安堵する。


恐らく近くで様子を見ているだろうナギの存在が浮かんで、重い身体を無理やり起こす。

気遣うような表情のレイに一つ頷いて、無言でその場を後にしようとした時のことだった。

「お前、誰だ?余所者だな」

混乱の最中で気にするどころではなかったユーリの存在が、その一言で人々の視線を集めた。小規模な集落ほど排他的で疑い深い。


ひそひそと囁く声にはユーリを怪しみ、警戒する言葉が混じっている。

「違う!お姉さんは――っ!」

反論しようとしたレイの口を彼の祖父が塞いでいた。


(仕方ないことだ)

今の彼らに反論してもあまり意味がなく、不用意に余所者を庇って生活が成り立たなくなる可能性を考えれば、余計な口出しをしないほうが賢明だ。そう理解することと心に痛みを感じることは別だとしても、ユーリは早々にこの場を立ち去るべく歩きだす。


「魔物を引き寄せたのはあいつなんじゃないか?」

誰かがこぼした一言はすぐさま周囲に伝播して、ユーリは敵意に満ちた視線に晒された。


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