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元聖女は生き延びたい〜魔王との危険な賭け〜  作者: 浅海 景


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23 嫉妬

暗闇に浮かび上がる美しい光、癒しの術を展開するユーリの手の平から淡く発光する神力に見惚れたのは一瞬のこと、胸を焦がすほどの怒りのような感情が湧きおこる。

自分の感情が理解できないことが苛立ちに拍車をかけたが、まがい物の聖女を見て理由が分かった。


仲間を救おうとするユーリを見る目は感謝ではなく、どす黒い嫉妬に染まっている。自分が持っていないものを羨み妬む表情はとても醜悪だ。自分が抱いた感情も同じものだが向ける対象はユーリではない。癒しの術は魔力にとって浄化と同じような力であり、魔族であるナギにとっては毒と同義だ。

だがあの美しい力を自分に向けられないこと、それなのにユーリを貶めようと下賤な傭兵のために使われていることに嫉妬が芽生えた。


セーラが不審な動きを見せたかと思えば、そばに落ちていた短剣を拾い上げてユーリに剣呑な視線を向ける。

(ああ、なんて醜くて汚らわしい。これで聖女を名乗るなどおこがましいにも程がある)

そんなセーラに気づかずユーリはひたすら祈りを捧げている。自分の所有物に手を出されることも、美しくも静謐な雰囲気を壊されることも不快だった。

殺さずに昏倒させるだけに留めたのは、利用価値を見出したからであって温情などではない。ゴブリンから助けたつもりもなく、聖女を騙る女を下等な魔物の体液で汚してやるのも一興だと思いついたからだ。


用が済んだら犯して壊してやろうかな、そんなことを考えているとユーリの身体の力が抜けて柔らかい光がすっと消えた。

ジャンの呼吸が安定していることに、薄っすらと慈愛に満ちた表情を浮かべるユーリを見て心が冷える。先ほどとは違い今度はそんな者のために力を浪費するユーリに対してだ。

表情を硬くするユーリにナギは自分の手を差し出した。


「っ?!」

くらり、と眩暈を感じた時のように足元がふらつく。胃の辺りに不快感が込み上げてきたが、ブレた視界が鮮明になると見慣れた室内があった。戻ると言われたが転移魔術を使用するとは思わず状況の変化に頭がついていかなかった。

腰に回された腕に気づいて振り払おうとするが、逆に引き寄せられて金色の瞳が間近に迫っている。嫌な予感を裏付けるように笑みを深くしたナギからは先ほどまでの不機嫌さが消えていた。


「ねえユーリ、君の御願いを聞いてあげたから今度は僕の番だよね?」

「ちっ、……分かったから離せ」

思わず舌打ちしつつも短刀で手の甲に傷を付けるため、邪魔な身体を押し退けようとした。血を与えるだけなら密着する必要もない。だがナギはやんわりとだが確実に力を込めてユーリを拘束する。


「別にわざわざ傷を付ける必要はないんだよ。欲しいのはユーリの体液だから」

ぞわりと悪寒が走って反射的にナギの口を手で塞ぐ。くぐもった忍び笑いの後にぬるりと生温かいものが手のひらを這い、気持ち悪さから思わず手を引いてしまった。

楽しそうな嗜虐的な色を帯びた瞳が見えたのは一瞬のことで、抵抗もむなしくユーリは唇を塞がれ口内を蹂躙されることになった。


「はぁ、気持ち悪い……」

ようやく解放されたユーリは浴室にて戦闘で汚れた身体を清めていた。いまだに不快な感触が残る唇を乱暴に拭う。温かいお湯を浴びれば緊張に強張っていた体が少しずつほぐれ、ささくれていた気持ちも落ち着いていくようだった。長いため息を漏らせば、首筋にピリッとした小さな痛みが走り、首筋を撫でる。曇ったガラスを拭い確認すると赤い痕がはっきりと残っている。


唇が離れてやっと終わったと油断したのがいけなかったのだろうか。ついでとばかりに思い切り首筋に噛みつかれて、攻撃をしかけようとした瞬間に自由の身になった。出血していないことは確認したが、嫌なものを残されてしまったようだ。

過ぎたことは仕方がないと気にしないことにしたユーリだったが、気にすべきだったと後悔した時には手遅れだった。


「ん……っ!!」

「ジャン、大丈夫?体調はどう?」

セーラの気遣うような声に自分の身体に触れて確認するが、多少の違和感はあるものの激痛は消えて傷口も塞がりかけている。


「これは…セーラが?」

「…うん、ジャンを失いたくないと思って夢中で……」

治癒の術は使えないはずのセーラが自分のために必死で頑張ってくれたのだと思うと、愛おしさが込み上げてくる。以前から可愛いし何となくいいなとは思っていたが、セーラはナギに夢中の様子だったし、他にも気になる女の子がいたためただの仲間と見なしていた。


「セーラ、好きだ。愛している」

返事を待たずにセーラを抱き寄せて愛の言葉を耳元で囁き、唇を重ねようとするが―。

「あ…ジャン、待って。まだしなきゃいけないことがあるわ」

依頼人のことをすっかり忘れていた。保身のため一目散に納屋に逃げ込んだ彼らに怒りはあるが、優しいセーラはきっと彼らのことを気にしているのだろう。


微笑を浮かべているセーラの瞳に昏い光が宿っていることにジャンが気づくことはなかった。


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