鬼を撃破した破魔矢
空の彼方から迫って来る多くの妖たち。
地上では屋敷の壁を越えて、敷地の中にも妖たちがすでに侵入し始めている。
藤井や空真たちが妖たちを退治しようと敷地に飛び出し、それぞれの得物で攻撃を開始する。
さなは私から少し離れたところで、鎖鎌で妖たちに攻撃をかけている。
そして、卑弥呼様は?
私は周りを見渡した。
有脩は呪符らしきもので、空真のお札のように妖たちを倒している。
そして、有脩の父 有春は人型の紙を敷地にばらまき、何やら印を結ぶような仕草をした。すると地面に散らばった小さかった人型の紙は次々と12体の人のような姿に変化し、妖たちに襲い掛かった。
どうやら、12神将の式神らしい。
一方、目的の卑弥呼様の姿は無い。
これだけで戦力的には十分と言う読みだろうか?
それとも、私に授けた破魔矢で事足りると言う事だろうか?
その真意は分からないが、私も破魔矢を構えた。
その頃には屋敷の上空には多くの妖たちがたどり着いていた。
「消えろ!」
そう念じながら空の一角に向けて、卑弥呼様の破魔矢を放つ。
破魔矢が近づいた空間にいた妖たちが光の粒になって消え去っていく。
空の一角に妖がいない空間がぽっかりと空いた。
その威力はこの世界に来て初めて見た清子様の破魔矢と同等、もしくはそれを上回っているかも知れない。
これは凄い。
それが私の正直な感想。
ありがとう。卑弥呼様。
そして、その破魔矢にお金を出してくれる松永久秀様。
次の矢を構え、新たな狙いを定めようとした時、有春が驚いたような目で私を見ている事に気づいた。
有春は卑弥呼様の破魔矢を私が持っている事を知らなかったのかも知れない。
そんな事を思いながら、破魔矢を放った私を倒そうと向かってきている妖たちに次の矢を放った。
破魔矢の威力で一気に消え去る妖たち。
この破魔矢があれば、私も十分な戦力になれる。
「赤鬼だ!」
藤井の声がした。
妖たちの背後から、赤い肌、頭頂部に二本の角を持った巨大な如何にも鬼と言った妖が現れた。
藤井は躊躇なくその鬼に斬りかかった。
が、その刀は鬼を切り裂く事ができず、虚しくはじき返された。
「ぐはははは。
人間の刃などでこのわしの体を傷つけることなどできる訳がない。
そんな事も知らぬのか!」
「行け!」
有春の声と共に、12体の式神たちが鬼に襲い掛かった。
式神が持つ得物は人間の手で造られた刀とは違い、鬼に効力があるらしい。
鬼の体が明らかに傷ついていき、足が止まっている。
防戦一方。とは言え、容易に倒れそうにない。
妖たちも鬼を守ろうと、式神たちに襲い掛かる。
この妖たちを率いている鬼を倒せば、妖たちは敗走するに違いない。
貴重な卑弥呼様の破魔矢を使うとしたら、雑魚の妖たちに対してではなく、この鬼に対してである。
私は次の破魔矢を鬼に向けて放った。
自分に近づく一本の矢に気づいた鬼が、私に視線を向けた。
刀でさえ傷つける事ができない体。人の矢など話にならない。
鬼は顔にそんな余裕を浮かべている。
が、卑弥呼様の破魔矢はその鬼の胸に深く、深く突き刺さった。
その事が意外だったのだろう。
鬼が視線を自分の胸に向け、驚きの表情を浮かべている。
そして、矢が刺さった場所から眩い光が発せられ、鬼の体が小さな光の粒になって消え去って行った。
鬼が消え去れると、雑魚の妖たちは敗走し始めた。
「やりましたよ!
有脩様。
これも卑弥呼様の破魔矢のお陰です」
「そ、そうだな。
とは言え、卑弥呼様の破魔矢に頼っていてはいけない。
やはり、ここに残ってはどうか?」
そこに有春が割って入った。
「そなたは異国の者か?」
「はい。
ルリと申します。
今は見習い巫女です」
「見習い巫女?」
有春が私をそう言って睨んでいる。
なんで?
喧嘩を売られると困るので、視線を逸らした時、屋敷の片隅から一羽のカラスが飛び立つのが見えた。
でも、目が三つあったような……。