柳生宗厳の怪我は落馬ですかっ!?
松永久秀の多聞山城。
石垣に高層の櫓、そびえ立つ天守は無いけど、一目見てお城と分かる立派な建物。
しかも、内部は美しい庭園を有し、建物の内装もそれに負けないくらい煌びやかな造りである。
そんな立派なお城の一室で、柳生が治療を受けている。
「しばらくは安静にしておいてもらわねば」
胸の辺りを布でぐるぐる巻きにされ、布団の上で上半身起こしている柳生に医師が言った。
「養生もしておられぬのだが」
「今はお身体が大事。
何かあれば、我らで対応いたしますゆえ」
そう藤井が言った時だった。
部屋の襖が勢いよく開いた。
「宗厳、大そうな怪我をしたと聞いたが」
そう言って、開けた襖から部屋の中に入って来たのは60歳くらいの男性だ。
その動きと言い、張りのある声と言い、元気で覇気さえ感じてしまう。
顔立ちもすっきりしていて、きっと若かった頃はイケメンだったかも知れない。
「これは久秀様。
お戻りでしたか」
柳生がそう言って、巻かれた布で動きにくい体の状態で頭を下げようとした。
藤井たちはすでに深々と頭を下げている。
この人が松永久秀?
鬼のような形相とはかなり違うような……。
なんて思い、ぼんやりしていると、松永の視線が私に向けられた。
こいつは何者?
なぜ頭を下げん!
そんな事を考えていそうな松永の表情に、慌てて頭を下げた。
「宗厳。
そのままでよい。
そのような身体で無理に頭を下げずともよい」
「ははっ」
「それより、見知らぬ顔が混じっておるようじゃが、異国よりの客人か?」
「はい。名をルリ殿と申されます」
「ルリ殿とやら、そなたは客人との事じゃが、どこに行かれるのか?」
なぜだか、松永に質問されてしまった。
令和の人間で松永久秀とお話ししたのって、私だけじゃない?
なんて呑気な事は言ってられない。
「はい。特に行く当てなく、柳生様たちとお供させていただいております」
「何?
ただのお供?
そなたは何かできるのか?」
何かって、何?
歌うたうとか?
高校の勉強内容を披露するとか?
答えに戸惑っていると、空真が答えてくれた。
「ルリ殿と出会いました際、清子様がおられまして、清子様が申されるに、このルリ殿は強大な巫女の力を秘めておられるとの事。
いずれ強力な力を持った巫女として、我らのお役に立っていただけるものと」
えっ?
巫女の力?
それって、マジの話?
それとも、この場を凌ぐための作り話?
なんて、戸惑っていると松永が言った。
「なるほど。
見習い巫女といったところか。
と言う事は、今は役立たずと言うことじゃな」
役立たずって……。
まあ、そうなんだけど。いや、こなき爺退治ではお札を貼っただけだけど、少しは役に立ったはず……。
「ルリとやら、ならばさっさと巫女として活躍することじゃな。
わしは無用な者を必要とはしておらぬ」
「は、は、はいっ」
そう答えはしたものの、本当に巫女になれるの?
自信がない。
「ところで、宗厳。
もしや、おぬし、この役立たずをかばって負傷したのではあるまいな」
「いえ。左様な事は無く、こなき爺の策に私がはまってしまったため、このような次第に。
しかも、ルリ殿の活躍無ければこなき爺を退治できませなんだ」
「左様か。なら、よい。
養生して、まずは怪我を治せ。
ただ、妖にやられたとは申すではないぞ。
柳生宗厳たるものが妖との戦いで重傷をおったなど、世間に広まっては困る。
大和平定の最中、不注意で落馬したとでもしておけ。
よいな」
「ははっ!」
柳生のその言葉を聞くと、松永は部屋を出て行った。
妖の策にはまったとは言え、名誉の負傷のはずだと言うのに、不注意で落馬って……。
なんだか情けなくない?
そんな事を命じる松永久秀って、やっぱ鬼?
そして、本当に清子様が私には強大な巫女の力があると言ったのかどうかは聞いてみても話をはぐらかされて分からなかったけど、とにかくここにいるには巫女になるしかない事だけは確実っぽい。
とりあえず格好だけでも巫女となり、破魔矢を放つため、私は弓矢の練習を始めた。
弦を引く力が弱い私が放った矢はへろへろと少し離れた地面に落ちるだけ。
これではだめだと何回も何回も引いていると、指が痛くなる。
そもそも筋力がいるはずと思い直し、筋トレを開始した私。
元の世界で大好きだった早川君にも会えないんだから、少しくらい筋肉ついてもいいよね? と、もうあきらめ気味。
その甲斐あって、少しは弓が飛んで行く感も出始めた頃、三好三人衆が京に攻め入ったとの報が届けられた。