やってみないと分からない?
ここで柳生に死なれたら困る。
拾ってくれた恩も返せていない。
それに、これから先、路頭に迷うかもしれないし。いや、それ以前に、ここで妖たちに殺されてしまうかも知れないし。こっちの方が問題だ。
今、柳生をなんとかできるとしたら、何もしていな私だけ。
しかも、倒れ込んだ柳生の近くには妖たちはいない。
一気に駆け抜ければ妖たちに邪魔されず、柳生の所までたどり着ける。
そんな事を思うと、体が勝手に動き始めた。
さなの横をすり抜け、身をかがめながら柳生の下に走り寄ると、近くに落ちている空真が放ったお札を拾った。
「ルリ殿。無理だ!
そいつは札を寄せ付けない」
空真の言葉が聞こえた。
「でも、やってみないと分からないじゃない。
直接、手でならできるかも」
そう言いながら、拾ったお札を柳生の背に乗るこなき爺に貼りつけようとする。
物理的に私が手で貼るのだから、跳ね返せないはず。
その考えは正しかった。
一瞬、抵抗のようなものを感じたような気もしたけど、お札をこなき爺の背中に貼りつける事ができた。
大きな岩のようだったこなき爺の姿が元の姿に戻っていく。
「何をする、この小娘!」
そんな言葉を吐くこなき爺に駆け寄って来た藤井の刃が飛ぶ。
柳生の背を離れ、こなき爺はその刃をかわした。
重しが外れた柳生が立ち上がり、切っ先をこなき爺に向けた。
「よくもやってくれたな。
我が刀の錆にしてくれよう」
「くっ!
柳生を倒し損ねたわい」
そう言うとこなき爺は峠道の横に広がる木々の中に駆け込んだ。
「待て!」
そう言って、藤井が駆け出そうとした。
「藤井殿。
それより、柳生殿が」
空真が藤井を止めた。
「不覚だったわい。
あばらを何本かやられてしもうた」
そう言って、柳生は片膝付いた。
どうやら、本当は柳生は戦えないほどのダメージを受けていたらしい。
そして、こなき爺が消えると雑魚の妖たちもいなくなっていた。
「あれはこなき爺が率いていた妖って事なんですか?」
私の率直な疑問だ。
「そのようですね。
しかも、最初から狙いは柳生殿だったようですね。
よほど、柳生殿の剣技が恐ろしいのでしょう」
空真が答えた。
「妖にとって、恐ろしいと言えばなんですが、あの念珠筒もそうなんじゃないですか?」
「あれはね」
そう言って、今度は念珠筒を使ったさなが答えた。
それによると、空真の念を込めた珠を詰め込んだ散弾銃のようなものらしい。
一気に小者の妖を多く倒す事ができるけど、一回しか使えない事と大物には効力が無いと言う欠点があるらしく、柳生の剣技には劣ると言う事だ。
「なら、あれは?
私、初めて助けていただいた時に、何か凄い矢を見たような気がするんですが」
イメージでは念珠筒よりも多くの妖を一気に消し飛ばしたような気がする。
「あれは私たちの力ではないのよ」
さながこれにも答えてくれた。
この世界には清子様と言う強大な力を持つ巫女がいて、彼女が放つ破魔矢は強力な妖でさえ一撃で倒す力を持つと言う。一たび、その破魔矢を雑魚の妖たちに向ければ、一気に多くの妖を葬る事ができるらしかった。
その清子様の素性は京の土御門家の娘で性格は自由奔放。今では家を捨て、巫女姿で摂津、河内、大和の辺りで何かを探し歩いているとの事で、この前はたまたま清子様が近くにいて、戦いに参戦していただけで、協力も連携もしていないとの事だった。
「だから、今回はあの矢が無かったんですね」
そう言って頷いている私に空真が言った。
「しかし、ルリ殿。
無茶はいけません。
今回はうまくいきましたが、私達の忠告には従ってください」
「分かりました」
と言いつつも、心の奥ではうまく行ったんだからいいじゃないと思わないでもない。
そんな思いを感じ取った訳ではないと思うけど、空真が腕を組んで唸った。
「うーん、でも、どうしてでしょうかねぇ?
私の札が落ちる姿を見て、こなき爺には法力を拒絶する結界を張る力があるんだと思ったんですがねぇ」
「思い過しじゃないですか?
だって、ちゃんと貼れたじゃないですか。
そもそも、手で直接貼りましたからね」
そう。それが私の本心。
「そうなんですがねぇ。
手で貼ろうとしても、はじかれるはずなんですが……。
もしかして、ルリ殿のお力ですかね?」
「私には何の力も無いですよ。
何かあるとしたら、それは空真殿のお力じゃないですか?」
そうなのだ。
私ただの女子高生。
時空をなぜだか遡ってしまったけど……。
って、”ただの”女子高生じゃないよね? それって!
もしかして、私には何かの力があって、それでこの世界に呼ばれたの?
だったら、それはそれで楽しいのかも?
この世界の乱を治める美少女ヒロイン!
なんてポジティブに考えなければ、いえ、妄想に浸らなければ、この怖い世界で平常心で生きてなんかいけなさそう。
それ以降妖たちは現れず、私たちは重傷の柳生を抱えながらも、無事峠を越えた。
峠を越えた先、そこは松永久秀が治める大和の地。
目の前に広がる広そうで狭い平地。
私たちはその地の北側に位置する多聞山城に向けて進んで行った。
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