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土蜘蛛

「御大将!」


 味方の将 三田村の首を引っさげた遠藤が織田家武将を装い、信長本陣に近づいてくる。

 が、遠藤を知っている男が織田の軍勢の中にいた。

 竹中半兵衛の弟 久作だ。


 聞き覚えのある声に、久作が反応した。

 甲を目深に被り、近づいてくる男の顔を確かめようと目を細める。

 揺れる甲から覗いた男の顔。紛れもない遠藤直経だ。


「その男、敵将 遠藤直経だ。

 信長様に近づけてはならぬ」


 久作が叫んだ。

 その声に不破矢足が駆け出し、遠藤に刃を向けた。


「邪魔だ。

 どけっ!」


 遠藤は手にしていた三田村の首を不破に投げつけると刀を抜き去った。

 が、その頃には投げつけられた三田村の首をかわした不破の刃が遠藤を襲っていた。

 首を掻っ切られ血しぶきを吹き出す遠藤。

 普通なら、これで倒れ込むはずの致命傷だが、何事もなかったかのように信長に向かおうとしている。

 不破が再び背後から遠藤の背に刃を突き立てた。

 口から血を大量に流しながらも、遠藤は動きを止めない。

 

「土蜘蛛か。

 笑止」


 その遠藤の姿を見た信長はそう呟き、にやりと笑ったかと思うと、刀を抜き去り、遠藤に向かって駆けだした。

 信長はすれ違いざまに遠藤の刃をかわし、何もない遠藤の頭上の空を斬った。

 すると、今まで傷も無いかのように動いていた遠藤の体は一気に地面に崩れ落ちた。

 信長は自らの刀を鞘に納めると、遠藤が握りしめていた刀の柄に目を向けた。

 そこにお札のようなものが巻き付けられている事に気づいた。


「ふん!

 どこで手に入れたやら。

 自ら触れぬものを操り人形に持たせるとはのう。

 されど、この程度でのものでわしを倒せると思うておったとは、なめられたものよ」


 そう言うと信長は遠藤の刀を蹴り飛ばした。




「くっ!

 しくじったか」


 森の木の上に潜んでいる土蜘蛛が人語で呟いた。


「それに邪魔者たちが近づいておるか」


 そう言うと土蜘蛛はその視線を戦場から森の中に向けた。




「おそらく、見晴らしのいい場所にいるはずです」


 空真が言った。

 木の上?

 そんなところの敵を柳生や藤井では狙えない。

 一番の適任は私?

 ここで大事な卑弥呼様の矢を使うの?

 迷っている内に先に進んでいた柳生様が立ち止まった。


「ここまでよく来たな。

 邪魔できぬよう、信長の前にお前たちを処分してやる」


 そう言って、柳生様が刀を抜いた。

 柳生の体からキラキラした糸が延びている。


「操られている。

 土蜘蛛はあの木の上」


 糸の先を指さした。

 少し先の大木、地上から20m以上はありそうな幹の部分に、いくつもの目を持ち、胴体だけで1mくらいの蜘蛛がいた。


「やはりあの女、この糸が見えるのか。

 邪魔な奴」


 木の上の土蜘蛛が言った。

 柳生が狙いを私に定めたのか、私に向かって駆け寄って来る。


「ぬうっ」


 柳生を操る糸を切ろうと藤井が柳生に向かう。

 が、相手は柳生宗厳である。

 藤井の刀を自分の刀で受け止めたかと思うと、攻撃に転じる。

 二人の刀が甲高い音と火花を散らす。

 ただ頭上の空を斬るだけと分かっていても、全くそんな隙ができない。柳生の剣技が鋭すぎて、藤井では受けるのが精一杯だ。

 どうやら、操られる前の技量が操られてからも活かされるらしい。

 空真が手にしていたお札を土蜘蛛目がけて投げるが距離があり過ぎて届かない。

 そこに新たな糸が降りてくるのが見えた。

 狙いは藤井らしい。

 刀を使う二人を敵に回したら、勝てやしない。しかも、その一人は剣豪柳生宗厳である。

 これは卑弥呼様の矢を使うしかない。

 自分の弓矢の腕で、命中させる自信は無い。

 でも、やってみるしかない。

 そう思って、矢を構えようとした時だった。


「それ、貸して!」


 さなが言った。

 弓矢の腕は私以上。

 卑弥呼様の矢は誰が使っても、同じ効果。

 だったら、迷う必要は無い。


「はい!」


 押し付けるようにして、さなに渡した。

 さなが素早く構え、狙いを定める。


 さっきまで格闘していた柳生と藤井が戦いを止め、私たちに向かって駆けだして来た。


「早く、さなちゃん」


 私の声は絶叫気味。

 そんな中、さなが土蜘蛛に向けて、卑弥呼様の矢を放った。


 ヒュン!


 土蜘蛛は二人を操る事に集中していて、矢が向かって来る事に気づいていないのか、逃げようとしない。


 グサッ!


 そんな音を立て、逃げようとしなかった土蜘蛛の胸の辺りに卑弥呼様の矢が突き刺さった。


「しまった。結界を破るとは。

 呪術が施された矢であったか」


 そう言い残すと、土蜘蛛は木の上から素早く逃げ出して行った。


 あれ?

 光の粒となって、消えないのはなぜ?


 そんな事を思いながら、さっきまで土蜘蛛がいた木の上を見つめていた。

先日、ブクマ登録下さった方、ありがとうございました。

これからも、更新頑張りますので、よろしくお願いいたします。

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