表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いじめで酒を飲まされ死亡した僕は異世界へ転生する  作者: ミント
第一章【悲痛な異世界転生】
9/39

第一章9話 【ギルの忠告】

 俺は、冷たくて硬いコンクリートの上で目を覚ました。地面には魔法陣の様な模様が描かれている。


 周りを見ると村とは違い、外壁がコンクリート打ちっぱなしで構成されており、ドアも生前使っていたものと同じだった。広さは十二畳くらいで、形は縦に長い長方形。


 俺はドアから1番離れた場所に 手足を縛られて転がされていた。体を見るといつの間にか黒い袴ではなく、ボロボロの絹で編まれたベージュ色の半袖シャツとズボンに着替えさせられていた。


 部屋に灯りは無い。しかし、外壁の上の方に鉄の面格子が付いただけの窓があり、そこから月の灯りが差し込んでくるためそれなりに部屋は明るくなっていた。


 そして目の前にはエルメスと、仮面を付けて深々とフードを被った怪しい男が立っていた。


 仮面の男はエルメスよりも一回り背が小さいが、筋肉質で男らしい体をしている。


 仮面は狐のような、猫のような……そう、夜の心霊特集なんかで見たことがありそうな感じの、そんな模様が描かれた仮面だった。その上からフードをしているので、いかにも暗殺者や魔法使いっぽい。


「準備ができました。始めますか? 」


 仮面の男がエルメスにお行儀良く伺った。


「うんうん、始めちゃって」


「畏まりました」


 男はそう言うと、俺の側までやって来た。


「何をする気だ? 」


 俺は男に、精一杯の睨みを効かせた。


 しかし男は、何だ起きていたのかという反応をした後、お祈りをするかのように胸の前で両手を合わせた。


鬼哭啾々(きこくしゅうしゅう)


 男がそう唱えると、魔法陣が赤く光り始めた。


 そして俺は光と共に宙に浮かんだ。そして、光は俺の首元に集まってゆく。


「ぐあぁぁぁぁ!! 」


 首元から左頬にかけて火で炙られているかのような激痛に襲われ、俺は体を唸らせながら悲鳴をあげた。


「じゃあ、後はよろしくねぇ」


「はい、エルメス様」


 エルメスは去り際に軽く手を振り、この場を後にした。


 仮面を付けた男は、まだ祈るように両手を合わせている。


 俺の首や左頬からは、黒くて呪われそうな煙が上がっていた。


「ぐうぅぅぅっ!!! 」


 俺は絶え間なく続く激痛に、ただ叫ぶことしかできなかった。





「はぁ、はぁ」


 どのくらい時間が経過したのだろうか。ようやく解放された俺は、地面を転がり息を荒げていた。


 未だに首から左頬までが熱い。昔、花火をした時に親指を少し火傷したことがあるが、それの比では無い。普通なら泡を吹いて倒れるほどの痛みである。


 しかし不幸な事に【オートヒール】の効果によって死ぬ事はない。しかも激痛のせいで気を失わないのだ。


 俺は、痛みによるこの世の地獄を味わった。


 別に、悪い事してないのに。


「ふぅ」


 男は疲れたのか一息付いて座り込んだ。


「本当に人なんだな……」


 男は小声でそう呟いた。


 ……こいつを殺したい。今殺さないと、殺される。


 そう思い俺は手足を縛られたまま無詠唱で男に【縛伏】を放った。しかし無詠唱だからか、威力があまり出ない。


「おっと」


 男は放たれた鉄の鎖を軽快に回避し、俺の顔を掴んで地面に叩きつけた。 


 バンッ


「くはぁっ」


「暴れるんじゃねぇぜぇ、ボウズ。大人しくしときな」


 仮面を被った怪しい男が喋ったとは考えられないような、陽気なおっさんの声が聞こえた。


「ボウズは今日からここで一生働く事になるんだ。暴れると後で痛い目見る事になるぜ」


「くそっ放せ! 」


「暴れないって誓えるか? 」


「……」


 俺は無言でキッと睨んだ。


「はぁ、なんなんだ全く。なんでこの状況でそんなに抵抗できるんだよ、どいつもこいつも」


 呆れた様にため息を吐く仮面の男。


「お前は何者なんだ? 」


 俺は鼻を地面に擦り付けられながら、男に問う。


「俺も別に、エルメスの仲間ってわけじゃねぇぜ。ただの奴隷だよ」


 男は低めのトーンでそう答えた。


 てっきりエルメスの仲間だと思っていた俺は、押し黙ってしまった。こいつも命令されているから、こうして俺を押さえつけているわけか。


「まぁ俺は奴隷だが、お前たち後輩の面倒を任されてる。だから俺の言う事には従ってもらうぜ」


 俺はこの男になぜか、自分と似たものを感じていた。この男はこの世の全てに見放され、それでも懸命に生きているかのような、そんな感じがする。


「わかった。もう暴れないって誓うよ」


 俺がそう言うと、男は手を離してくれた。


 その後すぐに縄を解いてもらった。俺は服についた埃を落とした後、男と対面して座った。


 気が付くと、首から左頬までの痛みが消えていた。【オートヒール】が仕事をし終えたのだろう。


「お前、名前は? 」


 俺は男に問いかけた。


 余談だが、本当なら「あの、名前を教えてもらっても良いですか? 」と相手の機嫌を伺いながら話しかけたい所なのだ。


 だが、何度も言う通りこっちの世界だと弱々しい態度は死に直結しかねないので、昔アニメで出てきたかっこいい主人公を思い出しながら会話している。


 とはいえ今までなら、相手を拘束しながら話をしたり、相手に拘束されながら話をしたりしていたのでまだ投げやりに言葉を使えたのだが、今のようにお互い座った状態で話すとなると凄い緊張する。


 しかも相手年上っぽいし。仮面付けてるから歳分かりづらいけど。


 敬語で話せ馬鹿ものぉ! とか言われたりしないよな……。


「俺はギル。ボウズは? 」


「俺は久也ひさや


「久也……」


 ギルは何か含みのある声で俺の名前を反芻した。


「んで、ここはどこなんだ? 」


「ここはそうだなぁ、病院みたいなもん、かな」


「病院? 」


「あぁ。今からボウズはエルメスの奴隷として、この病院で働く事になる」


「ん?? 」


 俺は、想像していた事へのギャップに困惑した。


 あくまで俺のイメージだが、奴隷といえば遊び半分で鞭打ちされたり長時間重労働させられたりするのかと思ったのだ。まさか病院で働くとは。


「まぁ、それは明日になればわかることだ。それよりも」


 ギルの雰囲気が変わった。


「脱獄だけは絶対に考えるな」


 強い口調で、ギルは忠告する。


「いいかボウズ。ここからは絶対に逃げられない。エルメスには絶対敵わないし、俺にだって恐らく勝てない」


「そんなの、わからないだろ」


 自信があるわけではないが、一応反抗しておく。


「いいや、無理だ。ただでさえエルメスは半端なく強い。なんせ国王直属の近衛騎士団このえきしだんの団長だからな」


 エルメスが近衛騎士団の団長? なんか想像付かないな。


 というかこの世界、国があるのか。って事は凄い遠くまで運ばれたんだろうな、俺。


「さらにボウズには、俺がスキルで呪いをかけた」


「スキル? 」


「スキルも知らねぇのか、全くめんどくせぇな。スキルってあれだ、自分しか使えない、みたいな、みんなが使える、あの、魔法と違って、あんまり使える奴が少ない、あの、自分だけの固有魔法のことだ」


 ギルは訥々とした口調で説明してくれた。どうやら、説明が苦手らしい。というか、多分ギルもスキルの事をいまいち分かっていない。


「とにかく、ボウズは下級魔法しか使えなくなっている」


「下級魔法? 」


「下級魔法もわかんねぇのかよ。つまりだなぁ、えっと、、と、とにかく一番弱い魔法だ! 」


 めんどくさいのか、投げやりになって答えるギル。


「下級魔法はエルメスにキャンセルされておしまいだ。だから絶対逃げれない。わかったか? 」


「キャンセル? 」


「そろそろ殴るぞボウズ」


 表情は見えないが、ギルは冗談っぽく言った。


「とりあえず脱獄は不可能って事だ」


「わかったよ、脱獄はしない。約束する」


「ああ、わかればいい」


 安心した様子で頷くギル。


 先程はギルにめちゃくちゃ痛い思いをさせられたが、今では中々憎めない奴だなぁと感じていた。


「じゃあ行くか」


 そう言って、ギルは立ち上がる。


「どこに? 」


「お前が寝泊まりする場所だよ」


「どんな所なんだ? 」


「行けばわかる」


 ぶっきらぼうにそう言って、ギルは歩き始めた。俺も立ち上がり、後をついてゆく。


 部屋を出ると庭に出た。どうやらさっきまでは小さな小屋にいたらしく、病院と呼ばれる建物はすぐ側にあった。


 外は気持ちのいい風が吹いていた。辺りはまだ暗い。しかし、日が昇り始めたのか森でいた時よりも周りがよく見える。


 俺は【暗視】と【遠視】を使い、建物全体を見渡した。


 建物は、そこまで大きくないようだ。


 十二畳くらいの部屋が廊下を挟んで6つほどあり、玄関を開けると部屋を選べる形になっている。


 しかし庭は割と広い。入口が見えるのでそこまで広くないが、それでも建物に比べるとかなり広い方だと思う。


 入口の先には整備された道路に似た道が見えた。現代日本のような技術がある様には見えないが、一昔前の車も通っていない時代の日本はこんな感じなのかなと思った。


 俺は建物ーーではなく、近くにある洞穴から地下へと続く階段を降りた。


「住む場所って、地下なんだな」


「あぁ」


「お前もここに住んでるのか? 」


「まぁな」


 地下に降りると、真っ暗な廊下が続いていた。入口の割に広い廊下で、かなり長くもある。


 入ってすぐにあった部屋をスルーし、さらに奥へ進む。


 部屋はぽつぽつと不定期にいくつかあるだけで、それほど多くはない。


 しかし、奴隷の部屋にしてはしっかりとしたドアだなと思った。鍵付きだし。


 俺はてっきりアニメで見る様な、鉄格子でできた吹き抜けの部屋で、手錠で吊るされた人と目が合ったりして気まずい思いをするとばかり思っていた。


「トイレはあるのか? 」


「一番奥にある」


「へぇ、結構良心的なんだな」


「まぁ、汚いのは勘弁だからな。俺が作った」


「おぉ、」


 ギルって結構凄いな。


「着いたぞ」


 そう言ってギルは立ち止まる。


 目の前には普通のドアがあった。


「待ってろ、今開ける」


 ギルは鉄でできた鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。


 かちゃっ


 鍵が空き、扉を開いた。


「あれ、もう仕事なの……。ってかそこの男誰? 」


「すぅ、すぅ」


 部屋には何故か女の子が2人、大量の草藁の上で寝転がっていた。一人は今起こしてしまったようだが、もう一人はまだ寝ている。


「あぁ、今日からここに住む、えっと、名前なんだっけ? すまんもう一度教えてくれ」


「久也だ……じゃなくて。え、1人部屋じゃないの? 」


「あれ、言ってなかったか? 」


「聞いてねぇよ」


 ……ギル、頼むからそう言う事は先に言ってくれ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ