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いじめで酒を飲まされ死亡した僕は異世界へ転生する  作者: ミント
第一章【悲痛な異世界転生】
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第一章8話 【森のモンスター】

 俺は、しばらく森の中を歩いていた。


 目の前に木がたくさん並んでいる。もちろん道などない。


 夜も更けているので辺りは真っ暗だ。しかし、俺は新しい魔法【暗視】の効果によって周りが鮮明に見えていた。


「魔法ってのはほんと便利だな」


 想像するだけで、まるで手足を動かしているかのように色々な魔法が使える。まだ試していないが、爆発する魔法とか雷を起こす魔法なんかもやってみたいものだ。


 生前、ラノベや漫画を沢山読んでいた俺は、このファンタジー世界に厨ニ心を燻られていた。


 せっかく魔法が使えるんだ。多少元人間であるせいで差別されたとしても、力でねじ伏せればいいだけのこと。俺、めっちゃ強いみたいだし。うん、大丈夫大丈夫。


 さて、これからどこで寝泊りしようかな。


 虫や動物が転生した世界。そうだな、ここは虫や動物達のあの世と言ってもいいだろう。しかもあいつらは、人間にひどい殺され方をしたという過去を持っているらしい。


 今から奴らの集う村や町に行ったとしても、もちろん俺は歓迎されないだろう。


 しかし、お腹が空いたな……。


 そういえばメランが、この世界の住人はモンスターと呼ばれる大きな生物を食べていると言っていたな。


 でも、もし仮に森でモンスターに遭遇したとして、果たして俺はそいつを倒せるのだろうか。


 本音を言うと暗い森の中で一人きりって、めっちゃ怖い!


 さっきはメランに殺されかけたり男三人に殺されかけたりして心が生まれ変わった感じがしたけど、時間が立って冷静になると俺、今後ずっと一人で生活しなきゃいけないんじゃないか? なにこの状況、凄い寂しい。


 生前俺を一人で育ててくれていた母は元気だろうか。きっと、悲しんでいるに違いない。あぁ最後何話したっけなあ。覚えてないや。


 とりあえず大きな岩に腰を下ろし、大きくため息を付いた。


 空を見上げると、地球で見たときよりも一回り大きな月が浮かんでいた。


「綺麗だな」


 今まで月を見上げたことなんて、あまりなかったかもしれない。


 そんな事を考えながら黄昏れていると、近くでガサガサと音がした。


 恐る恐る、音の鳴る方を振り向く。


「ガルルルル」


 すると、そこにはなんと熊がいた。


 しかも、俺の知っているサイズの熊ではない。4メートル以上ある木よりも背が高く、さらには横にもでかい熊だ。


 そんな熊が、俺を威嚇しながらゆっくりと近づいてくる。


 魔法が使えるとはいえめちゃくちゃ怖い。周りに敵でもいいから人がいてほしい。すっごい心細い。


 でも、そんな事も言ってられないそうだ。


 熊が俺の顔めがけてパンチを繰り出す。


 バァン!


 腕でガードしたが効果は薄く、パンチが直撃した俺は数十メートル先までふっ飛ばされてしまった。


 ふっ飛ばされたのは今日で何回目だろうか。何度ふっ飛ばされても慣れるものではない。結構痛い。


 しかし例の【オートヒール】の効果により、一瞬にして体が元通りになった。


 俺はふっ飛ばされ慣れたのか飛ばされた先で受け身を取って立ち上がることに成功した。すぐに顔をあげると、熊がもう近くまで来ており、第二波に襲われる。


「身体能力強化」


 咄嗟に魔法を発動させ、熊の拳を受け止めた。


 そのまま腕を持ち上げ、一本背負いで熊を地面に叩きつける。


 ドゴォォン!!


 大きな音を立て、比較的硬い土の上に頭を打ち付けた熊は、そのまま動かなくなった。


「ふぅ」


 一息ついて腰を地面におろした。


 これがモンスターか。初めはあまりの大きさにびっくりしたけど、これくらいの敵なら簡単に倒せそうだ。


 俺は初戦闘、初勝利の余韻にしばらく浸った後、熊の顔を拝みに行った。


「うげっ」


 顔を見てびっくり。大きくてわからなかったが、よく見ると人間と熊が入り混じったような顔をしている。


 今からこんな気持ち悪い顔をした生物を食べないといけないのか? いくらお腹が空いているとはいえ、あまり気乗りしない。


 とりあえず火を起こしてみるか。いや、先に薪を集めるのか?


 もちろんサバイバル生活なんて経験がないため、どうやって調理すればいいのかわからない。かと言って生で食べるのは嫌だし……。


 悩んでいると、遠くから大きな足音が聞こえた。


 ドスン。ドスン。


 足音の方を見ると、木の陰に大きな足が見えた。しかし、遠すぎてどんなモンスターなのかがわからない。


 俺は新しく今習得した魔法【遠視】を発動し、モンスターを見た。


 それは、大きなカエルであった。背は熊と変わらないくらいだが、横に大きく見た目に重量感がある。そんな体を支える足は木の枝のように細く、そして長い。顔はカエルそのものであったが、つぶらな瞳が人間の目に似ていた。


 カエルは俺の方を見ると、細い足を屈曲させて踏ん張り、勢いよくジャンプした。


 そして俺の真上まで飛び、


「うおっと」


 俺を踏んづけようとするカエルを、間一髪のところでジャンプして右に避けた。


 そして俺は手に力を込め、精一杯振りかぶってカエルの腹を殴った。


 が、しかし。


 ぽよん。


「へ? 」


 確かに全力で殴ったはずなのに手応えはなく、しかも弾き飛ばされてしまった。


 スタッ


 着地してすかさず地面を蹴り、次は足を狙って殴りかかる。


「おるぁあ! 」


 ダァン!


 しかし先にカエルに蹴られてしまい、数十メートル先まで吹き飛ばされてしまった。


「ぐはぁっ」


 頭を激しく岩にぶつけ、あまりの苦痛に息ができなくなった。体中の骨が折れ、内臓が潰れている。


 こいつはやばい。今までの相手とはレベルが違う。直感でそうわかった。


 数秒経つと、体が元の状態に戻った。


「逃げないと……」


 立ち上がり、カエルから遠ざかるように走り出した。


 後ろを振り向く余裕もない。というか怖くて見れない。しかも前を見て走らないと、木の枝に引っかかってこけてしまいそうだ。


 数分後。あれから、どのくらい走ってきたのだろうか。森の中なので全く景色が変わらない。


「はぁ、はぁ」


 俺は激しく息を切らしながら、膝に手をついた。


 そして、後ろを振り返ると、


「ばあぁ」


「うわあ! 」


 びっくりして尻餅をついてしまった。


 そこにはカエル――ではなく、黒くて長い髪の女がいた。しかも、なぜか女はコウモリのように木の枝にぶら下がっている。


「よっと」


 女はしなやかな動きで地面に着地する。


 年齢は20代半ばといったところか。全体的に痩せ細く、顔はやつれて目には隈ができている。背が俺よりも高くて胸が大きく、やつれていなかったら顔も美人だろう。


 そんな彼女は、全身真っ黒な服を着て俺の前に現れた。


「うんうん、凄い魔力量だねえ君」


 女は俺を上からジロジロ見てきた。俺は急な出来事に言葉を失ってしまう。


「それにしてもさっきの驚き方。笑っちゃうなあ」


 そう言ってクククと俺を見下すように笑う。


 すると。


 ドスン、ドスン。


 さっきのカエルがジャンプをしながら近づいてくる。


 俺は反射的に立ち上がり、また走り出そうとするが、


「ちょっと待ちなよ。君に用があるんだ」


「は? 」


 俺は立ち止まって振り返り、彼女を睨みつける。この反応はこの世界に来て身についた防衛反応と言えよう。


「何言ってるかわかんねえけど、あのカエル見てから言えよ」


「カエル? ああ、あのモンスターの事かい? 」


 ドンッ!!


 モタモタしているうちにカエルが俺の目の前までやってきた。


 グワアアアアアッ!!!


 大きく口を開けて威嚇するカエル。


 どうやら逃げるのは無理そうだ。


「追いつかれちゃったねえ」


「誰のせいだ」


 グワアアアアアッ!!  


 カエルが女をはたくように手を振る。


 俺は身体能力強化の効果により、それがスローで見えていた。


 女は反応できていないのか、ピクリとも動かない。


 何だこの女は。カエルを見て平然としているから強いのかと思ったけど、このままだと死んじゃうじゃん。


 まあいいや、死んじゃえ。 


 ドンッ!


「ふんぬうっ」


 俺はなぜか、カエルの手を止めていた。どうやら彼女を見捨てることができなかったらしい。しかも身体能力強化の効果が、さっきより上がっているみたいだった。


「早く逃げろ! 」


「ククッ、そうさせてもらうよ」


 女はすんなりと距離を取り、離れたところで俺を見ていた。


 俺はカエルの手を弾き返し、新しい魔法【火砲】を腹に打ち込んだ。


 グエエエエッ!


 こんがり焼けた肉の匂いとともに、地面に転がるカエルの断末魔が鳴り響く。


 トドメに錬成魔法で生成した大きな岩を腹に落とす。


 グエエッ!


 目を飛び出して、カエルは死んだ。


 それにしても、今回の戦いで沢山の魔法を覚えることができたな。やはり、死の境地に立たされると人は強くなるということだろうか。


「いやあ、お見事。うんうん」


 拍手をしながら女は感心していた。


「何がお見事だ。危うく死ぬとこだったじゃねえか」

 

「あーそうだね助かったよ、うんうん」


 そう言って女は近づいて来る。


 なんだろうこの、得体の知らない威圧感は。


 俺の本能的な部分が、逃げるよう忠告している。


「いやあまさかここまで魔法が使えるようになっているとはね。報告とは全然違うみたいだ」


「はあ? 何言って」


「うんうん、わかんないよね。そ~だよねえ」


 彼女がそう言った瞬間、俺の周りからいきなり無数の槍が現れた。槍は俺の方に容赦なく飛んでくる。


「うおっ! 」


 間一髪ジャンプで交わしたが、次は鉄の鎖が俺を襲う。


「縛伏! 」


 俺は思い出したかのように彼女に向かって詠唱を唱えた。


 彼女にも鉄の鎖が襲う。しかし。


「キャンセル」


 彼女を襲っていた鉄の鎖は消えた。対して俺は鎖に捕まってしまう。


 手足を縛られ宙ぶらりんになった状態で、彼女に問う。


「お前、何者だ? 」


「私はエルメス。君を捕まえに来たのだよ」


 エルメスは不敵に笑いながら答える。 


 夜だからか、少し肌寒い風が吹いた。昼は暖かかったのだが。


「なんで俺を捕まえる? 」


 生前コミュ障&人見知りで気弱だった俺は、なんとか強気に話しかける。


「うんうん、気になるよねえ」


「いいから答えろよ」


「え? んー」


 エルメスはわざとらしく考えるふりをしたあと俺に手をかざし、


「スリープ」


 詠唱を唱えた。しかし何も起きない。


「あれ、おかしいなぁ」


 小首をかしげるエルメス。なにか考え込んでいるようにも見えた。


 チャンスと思い、俺はエルメスの背後に設置した槍を放つ。


「おっと」


 残念ながらやりは避けられてしまうが、俺を縛りつけていた鎖が解けた。


「不意打ちとはズル――」


 パチィィン


 すかさず【身体能力強化】を発動させた俺はエルメスを殴る。しかし、赤子の手を握るように軽く受け止められてしまう。


 そのまま回し蹴りや正拳突きなんかも全て受け流され、最後に仕掛けた【落石】も避けられてしまった。


「うんうん、いい攻撃だったよ。でもね」


 エルメスがニヤっと笑う。そして、


「歪曲」


「あぁぁぁっ! 」 


 急に俺の右肩が本来曲がらない方向にねじ曲がった。俺はあまりの苦痛にのたうち回る。


「痛そうだねえ、うんうん」


「ぐぅぅ、こ、殺してやる」


「まだ元気そうだねえ。ほいっ」


 エルメスが指をくいっと上げると、今度は左肩が捻じ曲がってしまった。


「ぐあぁぁぁっ!! 」


 筋肉が捻じ曲がり、骨がバキバキに折れる痛みに息ができなくなった。


 腕を見ると、いろいろな方向に捻じ曲がっているのがわかった。骨は所々飛び出しており、そこから血が噴き出している。紫色になっていたり、腫れて赤くなっている部分もあるみたいだ。


 とはいえ、傷ついた箇所は【オートヒール】の効果により治っていく。しかし、エルメスが【歪曲】を継続的に行使しているため、治ってはまたバキバキと音を立てながら捻じ曲がっていった。


「痛々しい腕になったねぇ。今どんな気分だい? 」


「うぅぅ」


 体力が弱って言葉が出ない。でも、意識は無くならないみたいだ。これも【オートヒール】の効果だろう。


「もう、殺してくれ……」


「うんうん、そろそろだねぇ」


 エルメスは俺に手をかざし、


「スリープ」


 その言葉を最後に、俺は意識を失った





 

 



 

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