第一章7話 【村での戦い】
目の前に、鉄の鎖で縛られ動けなくなったメランが立っていた。
メランは手足をジタバタさせ、息を荒くして俺を睨んでくるが、鎖が解ける様子はない。
「くそっ、離せっ! 」
ジャンっと鎖の音が鳴った。
「なんか拍子抜けだな。もう終わりか」
俺はメランを挑発した。
「絶対許さない! お前なんか死んじゃえ! 」
「ほぅ」
メランの右手首に絡まった鎖を上に引き上げ、強く引っ張る。
「うっ」
さらに引き上げるとコンッと、メランの右肩が外れる音がした。
「ぐあぁぁぁ! 」
メランはあまりの痛みに、涙を流しながら叫んだ。
俺はそんなメランを冷たい目で見つめる。そしてその後、ミユリの方を見た。
するとメランが血相を変え、
「お願い、ミユリだけはやめて! 」
「は? 何で? 」
「お願いします! 私はどうなっても良いから! 」
さっきまでとは様子が打って変わり、上目遣いで懇願するメラン。「こいつ、態度がコロコロ変わるな」と思わず感心してしまった。
まぁ別に、死にかけのミユリを殺してもメリットはないだろう。
再度メランの方を向き、鎖の縛りを強くしようと手をかざした。
その時だった。
ドンッ
勢いよくドアが開かれた。
玄関にはスキンヘッドでタンクトップを着た筋肉ムキムキの屈強な男が現れた。
その後ろには刀を持った男や、さっき俺に【縛伏】をかけた村長までいる。
「メラン! 」
屈強な男が叫んだ。
「お前、よくも……! 」
屈強な男は筋肉を肥大化させ、怒りを爆発させていた。せっかく着ていたタンクトップも、この時メキメキと音を立てて破けてしまう。
そして、勢い任せに殴りかかってきた。
ドガァン!!
俺は避けることができず右の頬を殴られてしまい、左側の壁に思いっきり顔を打ちつけた。
「ぬぅ! 」
その次の瞬間、刀を持った男に腹を突き刺された。刀は腹を貫通し、壁に突き刺さる。
「ぐはぁ! 」
口から血を噴き出し、全身の筋肉が活動を止めた。同時に内臓が飛び出す程の、激しい痛みに襲われる。腹をみると、腸が飛び出していた。
「まだまだこんなこんじゃねぇぞオラァ! 」
その後、さらに屈強な男に再度顔面を殴られた。何度も、何度も殴られ、壁が耐えきれなくなって大きな穴が空いた。
俺は外の森まで吹き飛ばされて倒れた。冷たい土の感触が、肌に伝わってくる。
「う、うぅ」
俺は逃げようと立ち上がり、目の前にあった木にしがみついた。
すると腹に刺さった刀を抜かれ、次は木を掴んだ手を、腕ごと切り飛ばされた。
「ぐぁぁぁ! 」
俺はあまりの痛みにのたうち回る。
もう死んでもおかしくないほどの出血量であったが、【オートヒール】のお陰でみるみる傷が癒えていく。
「化け物め」
刀を持った男はそう言って俺の前に立っていた。
俺はこっそりと【縛伏】を無詠唱で使った。
「おぉっ」
鎖が地面から飛び出し、刀を持った男を縛り付ける。しかし、無詠唱だからか締め付けが甘い。
解かれるまでの数秒間。俺は全力で逃げようとした。
しかし、屈強な男に捕まり、両腕を持ち上げられてしまう。
「ぐっ! 離せ! 」
「しっかし凄いな。もう腕が再生してやがる」
「ふむ、これが元人間か。驚いたな」
いつのまにか鎖を解いていた刀の男も、俺を興味深そうに見ていた。
俺は絶望に陥りながらも、魔法についてメランが言っていたことを思い出していた。
魔法は、術者のイメージによって発動する。彼女はそう言っていた。
ならば。
「身体能力強化」
「ん? 」
俺は体の内にある魔力の波動に意識を集中させ、そしてイメージした。この屈強な男よりも、強い力を。
俺はイメージ通り身体能力の大幅な上昇に成功した。
そして強化された肉体で、屈強な男の顔面を蹴り上げた。
ズガァァ!
男は数十メートル先まで飛ばされ、家の壁に打ち付けられた。
次に刀で斬りつけてきた男の背後に素早く回り込んで後頭部を叩き、バランスを崩した所を背中を殴って地面に叩きつけた。
すると背後から村長が、
「籠鳥檻猿! 」
縛伏と違い、鉄の檻が俺の周りを囲う。
「甘くみるなよ小童が! 」
じじいは何か言っていたが、俺は気にも留めずに檻を拳でぶち破る。
ドォォォォン!
「なんじゃと!? 」
俺は檻から出た後、直ぐに村長に対し手をかざした。
「縛伏」
村長は鎖に縛られ、身動きが取れなくなっていた。苦しそうにもがいているが、鎖は解けない。
「おのれ人間め! すぐに後悔させてやる! 黒煙! 」
村長がそう詠唱を唱えると、黒い霧がかかった。
そしてこの霧は、俺の周りにだけ集まってゆく。
「火炎! 」
村長が唱えると霧が炎に包まれ、爆発した。どうやら霧の正体は、火薬だったようだ。
普通の人間なら跡形もなく木っ端微塵になるほどの爆発であったが、俺は【オートヒール】の効果により直ぐに回復した。
その間に鎖が解けた村長はどこかへ逃げてしまったみたいだ。
屈強な男は壁にもたれかかって伸びているし、刀を持った男は地面に転がって気を失っている。
村人は戦える者がいないのか、周りには誰もいなかった。
「ふぅ」
身の安全は確保できたようだ。とりあえず一段落と言ってもいいかもしれない。何も解決はしていないのだが。
さて、これからどうするか。
この村を壊滅させるのも悪くないが、魔力を無駄に使う事は避けたい。
ひとまず、ここから離れるとするか。
「それにしても服がボロボロだな。こいつの貰うか」
俺はボロボロになった服を脱ぎ捨て、刀を持った男が着ていた黒い袴を身に纏った。
そして俺は、森へ入って行くのだった。