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いじめで酒を飲まされ死亡した僕は異世界へ転生する  作者: ミント
第一章【悲痛な異世界転生】
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第一章4話 【元人間】

「おにいさーん、生きてますかー? 」


 なんだろう。女の子の声が聞こえる。


 あれ、僕は一体、なにをしてたんだっけ。


 あぁ、目覚めなきゃ。


「もしもーし」


「ん、んん、、」


「あ、生きてた! 」


 僕は横になっている状態で少しだけ目を開けた。


 隣で僕を覗き込むように見ていたのは、僕より少し年下くらいの女の子だった。


 顔は中学生くらいに幼いものの、豊満な胸と茶色の長い髪のお陰で少し大人びて見える。


 その女の子は、僕が少し声を出しただけでとても驚いた表情をしていた。


 僕が完全に目を開けると、少女は不安そうな顔で僕を見つめてきた。


「大丈夫ー?立てそ? 」


「う、うんなんとか」


 そう言って僕は頭を持ち上げ、座ることに成功した。そして、その時気づいた。


 僕は、太くて長い木がたくさん並ぶ森の中にいた。


 少女の方に顔を向ける。改めて見て思ったのだが、服が少しボロい。


 身につけているのは茶色い生地の、破れた箇所を何回も縫い直したような服とスカート。


 髪も一つにまとめていて、良く見ると糸のような物で結っているだけだった。


 身長は座っている感じ、小さめのような気がする。


 少女はおっとりとした顔立ちでにっこりと笑い、僕に話しかけてきた。


「私、メランっていうの!あなた、お名前は? 」


「僕は、えっと、、久也? 」


「あーまだ記憶が曖昧なんだねぇ。無理もない! 」


 メランは上司みたいな口調で言った。


「えっと、ここは……? 」


「あ、なんでこんな所で寝てたのかとか、なんで私がいるのかって聞きたい感じ? 」


「う、うん、そう」


 僕は出来の悪い愛想笑いを浮かべながら頷く。


 まだ僕がなんなのかもはっきりしない。今はとにかくこの状況を知りたかった。


「私もここきたの最近だからあんまり知らないんだけどねー。んーとね、多分だけど、君が元いた世界とは違う世界かなー? 」


「違う世界? 」


「そう、私達、転生したんだよ! 」


 にっしっしっと笑みを浮かべる少女。


 その目に嘘はなかった。


 まだ記憶が戻らないので前世が人間だったことと自分の名前くらいしか頭にないのだが、それでもまた人間に転生できたことに、なんだか不思議な安心感があった。


「転生……したんだ? 」


「そう! 」


「えっとそれで、どうして君が? 」


「えっとねぇ、村の人達に木のえだを集めてこいーって言われて森に入ったら、たまたま見つけたんだよ! 」


「そうなんだ」


 この世界には村があるのか。どうやらこの子がこの世界に僕を呼んだ的な展開ではないらしい。


「とにかく!知りたい事色々聞くなら村長さんから聞いてよ!私も転載した時は、村長さんからこの世界のことを教えてもらったんだぁ! 」


「君も転生者なんだね」


「そうそう。みんな転生してこの世界に来ているからね」


「へぇ、」


「とにかく立とう!そして村に行こう! 」


「う、うん」


 先に立ったメランに起こしてもらい、僕は立ち上がった。


 そして僕は険しい森の道を、ゆっくりと歩き始めた。


 どこまでも続く森の中、僕達はただ黙々と歩いていた。メランは別に怒っているわけでは無さそうだが、なんだか気まずい。


「メランって歳はいくつなの? 」


「え、歳?分かんないなぁ、何歳だろ?? 」


 メランが口をへの字にしながら頭を抱えて悩んでいた。その様子をずっと見ているのは悪くないのだが、僕も鬼ではない。


「わ、わからないなら全然大丈夫だよ⁉︎ 」


「うんごめん、わからないや」


 困った顔でえへへと笑うメラン。


 歩きながら話しているので横顔しか見えないが、自分の歳を必死に考えてくれていた事は、その横顔からでも十分に伝わってきた。


「ところでさ、喉乾いたんだけど水が飲める場所とかって、ない? 」


「あ、だったらこの近くに湧水が溜まる池があるよ! 」


「案内してもらってもいいかな? 」


「勿論だとも! 」


 元気よく返事を返してくれるメラン。


 僕はまだ自分の置かれた状況を理解できずにいたが、メランがあまりにも元気いっぱいなので、僕も元気になれた。


 数分間歩くと大きな石がいくつも重なった場所があり、その溝から綺麗な水が流れていた。そして下を見ると、小さな池があった。


 僕は池の水を両手いっぱいにすくって飲みほす。それを何度も繰り返すと自然と喉が潤った。


 湖の波が収まり、光の反射で自分の顔が映る。


 自分の容姿くらいは思い出していたのだが、とてもかっこよくなっている。


 前の暗い印象は全くなくなっており、爽やかで清潔感のある髪型、顔は爽やかイケメンになっており、体にも程よく筋肉がついていた。身長も170㎝はありそうだ。声色でわかってはいたが、また男になったらしい。


「驚いたでしょー?まぁ私は発狂したんだけど。君は強い男だね」


「え、そうかな? 」


 発狂したっていうのが何故かはわからなかったが、あえて深くは聞かない事にした。そういう過去を話すのは、親睦を深めてからにしたい。


 メランがこちらに少し近づこうとする。


「痛っ」


 メランの腕に木の枝がささり、少し血が出ているようだ。


「あーあ、やっちゃったなぁ」


「大丈夫? 」


「うん、なんとか」


 腕の深くまで木の枝が刺さっており、とても痛そうだった。


「絆創膏持ってないの? あと薬とか」


「薬?なにそれ? 」


 どうやら薬を知らないみたいだ。


 もしかしたら前世は薬もないような国で育ったのかもしれない。そう考えると、これ以上薬の話題は失礼な気がした。


 メランはしょんぼりした顔で腕の傷跡をじっと見つめていた。


 その傷跡を僕もじっと見ていると、なんだか感じた事もない不思議な力が湧いてきた。 


「ちょっとこっち来てよ」


「え? う、うん」


 メランは不思議そうな顔をしてこっちに近づいてくる。


 メランから甘くていい匂いがした。僕よりも一回りくらい背が小さなメランが、上目遣いで僕のことを見つめる。その状況に、少し鼓動が早くなるのを感じた。


「じゃあ、傷見せてくれる? 」


「こ、こう? 」


「うん。そのままにしててね」


 メランの腕が僕の前に差し出される。


 胸が大きいため、腕を見ると胸がどうしても視界に入ってしまって全然集中できない。それでもなんとか気持ちを落ち着かせ、メランの腕に自分の手をかざして意識を集中する。


 不思議な力はなぜか感覚的に使い方を理解しており、そしてこの怪我を治癒できると確信していた。


 僕の手から謎のふわふわとした光が浮かび上がると、腕の傷が消えてなくなってゆく。


「すごい、、」


 心の奥底から小さな声を漏らすメラン。そんなメランを見て僕はとても嬉しくなった。


「これで大丈夫だね」


「うん、もう大丈夫! それにしてもすごいよ治癒の魔法なんて! 一体、どうやったの?」


「それが、僕にもわからないんだよね」


 あはは、と僕は少し上手になった愛想笑いを浮かべる。


「治癒の魔法なんて使える人聞いたことないよ! 」


 治癒の魔法なんて? 魔法がある前提のような言い方に、少し疑問を持った。


「この世界には他にも魔法があるの? 」


「うん、ここでは誰でも魔法を使えるのが常識みたい。私はまだあんまり使えないんだけどね」


 メランは人差し指で頬を優しく掻きながら、恥ずかしそうにそう言った。


「へぇそっか治癒の魔法かぁ、これは村長さんも喜ぶぞ〜」


 今度はにっしっしっと笑いながら喜ばメラン。僕もつられて微笑んだ。


 それからしばらく雑談しながら休憩して、また歩き出した。


 道中は特に、魔法のことを話してもらっていた。


 魔法は、術者のイメージによって火や水の魔法で攻撃したり、身体能力を向上したりできるらしい。


 その魔法を駆使して森に出るモンスターと呼ばれるでかい動物を倒し、それを食べて生活しているとも言っていた。


 だが村人は治癒ができないため、大怪我を負うとすぐに死んでしまうらしい。


 魔法の知識を少し得た所で、やっと村についた。


「ついたよ」


「おぉ、」


 田舎みたいな村を想像していたためイメージと違う村に少し驚いた。木造の家が密集しており、農業をしている気配はなかったが、代わりに果実が成る木があちこちにあった。


 入り口あたりで急に僕の方を向いて立ち止まるメラン。すると少し恥ずかしそうな、嬉しそうな顔をした。


「あさり村へようこそ!久也! 」


 そう言ってふふーんと笑うと、そのまま歩き出した。なんだか言ってやった感を感じる。


 というかあさり村というのかここは。あさり要素ゼロなのだが。


 そのままメランに連れられて村長の家まで案内される。入り口から入ってすぐ左の家だったので、他の村人とは会うことはなかった。


 メランが玄関のドアを叩く。


「村長ー。メランですー」


 少し大きめの声でメランが玄関に向かって言葉を発する。すると数秒後、村長らしき人物がドアを開けた。


「おーメランか。ん、そちらさんは、、」


 そう言って村長に見つめられる。


 歳はかなり上だろうが高身長で筋肉が多めなのでとても怖い。白い髭を触りながら怖い目つきで僕を睨むように見ていた。


「ぼ、僕は今日あの、転生をしてきまして、それでメランさんに拾われまして、、」


 慌てておどおどした反応を見せた僕を見て、メランが笑った。


「あはは、メランさん、だって!大丈夫だよ久也。村長こんなだけどそんな怖い人じゃないから! 」


「わし、そんな怖いのか。んーそれはショックじゃのう」


 村長さんが少ししょんぼりとした表情を見せた。村長がいい人そうで、安心した。


「この久也って子がこの世界について知りたいんだって! あとこの村に住ませてあげたいなぁって思ってて、それで連れてきたんだ! 」


「おーそうかそうか。よし、じゃあこの子の家を建てないとじゃな」


 おぉ、僕のために家を……なんて優しい。


「じゃあ広場へ行って、村のみんなに挨拶をまず先に済ませないといかんな。それが終わってからおぬしが聞きたい事を全部教えてやろう。それでも良いか? 」


「はい、全然大丈夫です。よろしくお願いします」


 そう言って歩き出した。


 まだ十歩も歩いていないくらいで、早く何か大事な事を言いたくてうずうずしていたメランが村長に話しかけた。


「それでね、この子、治癒の魔法が使えるんだって! 」


「ん?なんじゃと? 」


「ねーこれってすごくない? 」


「……うーむ」


 急に村長とメランが足を止める。


 僕もつられて立ち止まった。村長がさっきまでの優しい表情とは全く違う、難しい表情をしていた。


 急に場の空気が冷たくなる。すると、


「治癒の魔法、、まさか……おぬし元人間か? 」


「あ、はいそうですけど、、」


「なんじゃと……! 」


 急に村長の表情が変わる。それも親の仇の相手が目の前にいるかのような、殺意のこもった目をしていた。


 その瞬間、いきなり村長さんが【縛伏】の呪文を唱えた。


 すると鉄の鎖が地中から現れ、僕はそれらに拘束されてしまった。鎖の縛りが強く、身動きがとれない。


「く、苦しいです村長さん! 」


 そんな僕の言葉に耳を貸す人はどこにもいなかった。


「今すぐこやつを牢屋に入れるのじゃ! 」


 村長さんがそう叫ぶと、その辺にいた村人が僕を担いで歩き出す。


「やめて!はなして! 」


 僕の声は、誰にも届いてないみたいだった。


 ただメランだけが黙ってじっと、僕を見つめているだけだった。


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