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第二章11話 【化け物の正体】

 討伐班に入れられた俺達は、森に現れた巨大な魔物を討伐するべく、標的が潜む森の中……ではなく、王城の庭にある広場に集められていた。


 広場に到着すると、ギルが俺の顔に被せられていた袋と手足の縛りを解いた。


「いてて……」


 縄で縛られていた部分が青痣になり、ピリピリと痛むのを慰めるように摩りながら、俺は辺りを見回す。


 広場には総勢20人程度の冒険者っぽい格好をした、フル装備の人達が集まっていた。先ほど国王と対面した時にいた軍服を着た兵士も数人居るみたいだ。


 暫くするとエルメスが正面にある壇上に上がり、無気力な咳払いをした。すると、さっきまでざわざわしていた冒険者達の視線は自然とエルメスに集まり、辺りは静寂に包まれる。


「みんな揃ってるねぇ」


 エルメスは緊張感の無い声で俺たちを見回し、


「えー今回の作戦だけど、まず初めに偵察に行って……ってそんなのみんな、説明しなくても大丈夫だよねぇ。時間ないし、後の事はミユリに任せるとするよ」


 説明するのが面倒になったのか、エルメスは作戦内容の説明をミユリに託した。


 ……え、ミユリ?


 気になって振り返り、辺りをもう一度見回すと、


「はい、承りました」


 よく通る声でハキハキとした良い返事をするミユリ。どうやら一番後ろに居たらしく、声が聞こえてようやく姿を見つけることができた。どうやら隣にはメランもいるみたいだ。


「今回の標的は結構大きいらしいから、気をつけてねぇ」


 そう言って壇上から降りてくるエルメス。そしてそのまま何故か俺の目の前まで来て止まり、怪しい笑みを作りながら俺を見下ろしてきた。


「クククッ、今回は君にしようか」


 エルメスに反応して俺の体がピクっと震える。背が高いため威圧感が半端ない。


 そしてエルメスは不意に俺の頭に手をかざし、詠唱を唱えた。


「視覚共有」


 魔法が発動すると目の前が一瞬真っ白になり、頭がぐらりと揺れる感覚に襲われた。同時に俺は魔法の解析を開始する。


【視覚共有】


 相手の視覚を自分と共有する魔法。


 「視覚共有」と唱えると発動し、最大6時間継続する。


 高度な魔法操作が継続的に必要。故に戦闘には不向きである。


 レベルMAX

 消費MP 2 (毎分)



 ……嫌な魔法だな。これを使ってプライベートを覗かれでもしたら最悪だ。


 エルメスは魔法を掛け終えると「じゃあ後は任せたよ」と言って、今度は誰もいない地面を指差し、


「ゲート」


 また魔法を行使した。


 同時に魔法の分析を開始……失敗。どうやら高度な魔法を発動させたらしく、今の俺では解析できないらしい。


 エルメスが指差した位置には異次元に続きそうな感じの扉が出現。閉まり切っていた扉は出現と同時にギィィィと音を立てながらまぁまぁのスピードで開き、異次元へと続く道を示した。扉の向こう側は真っ黒で何も見えない。


「いくぞ、ボウズ」


 俺の手を引き、扉の向こう側へと足を運ぶギル。続いてソフィア、シア、メラン、ミユリも後からついてくる。


 俺は真っ暗な扉の向こう側へ、何が起こるかわからない恐怖を押し殺しながら入っていった。


「健闘を祈るよ、少年」


 最後に、エルメスの声が聞こえた気がした。



 扉を抜けると森の中だった。


 周りに道はなく、あるのは高く聳え立つ木と生い茂る草むら。朝なので結構周りは明るいが、推定2メートル以上もある森林が太陽の光を邪魔しているため、辺りは街にいる時より断然暗い。


 そんな森の中で俺含む6人が顔を見合わせて立ち尽くし、気まずい雰囲気を作っていた。


 ソフィアはメランとミユリを離れた場所で威嚇し、シアはソフィアが飛び出さないようにソフィアの前に立ち、ギルは何故かバツが悪そうにそっぽを向き、ミユリは平然とした顔で立ち、その後ろでメランが俺たちを威嚇する。


 俺たちが全員扉を抜けると、自然に扉は消滅していた。


 ……なんだこの状況。まぁとりあえず、、


「お前ら、なんでここにいるんだ? 」


 俺はメランとの距離を取りつつ、ミユリに尋ねた。


「いやぁ帰るお金無くなっちってねぇ。お金稼ぎに来たってわけだよ」


 ミユリは右手で頭を掻きながら、苦笑気味に答えた。


「そうか。大変だな」


「本当だよ、誰かさんのせいで」


「うぅっ……ご、ごめんなさい」


 ミユリがメランに視線を移すと、メランは申し訳なさそうに俯いて謝罪した。


 そんなメランの様子を見てミユリは満足そうにニコッと笑った後、ギルの方を向き、


「それにしても久しぶりだね、ギル。元気にしてたかい? 」


「あ、あぁ」


 親しげに手を挙げるミユリに素気なく返すギル。


「え、お前ら知り合いなのか? 」


「うん、僕が前この国に来た時にちょっとねぇ。でも驚いたなぁ、まさかギルが久也くんの班の監視だったとは」


「あ、あぁ。偶然だな」


 親しげに話すミユリに対してなんだか歯切れの悪い返事を返すギル。これはなにか裏がありそうだ。


「まぁ過去の事は一旦水に流して、今日は一緒に頑張ろうじゃないか! という訳で早速、こっちに進むよ」


 ミユリはギルを宥めるようにそう言って、快活に歩き始めた。俺たちも後に続く。


 俺は途中ギルに小声で「なにかあったのか? 」と尋ねてみたが、「何もねぇよ」とはぐらかされてしまった。


「ところで、俺たちはなんで先に送られたんだ? みんなで魔物を討伐しに来たんじゃないのか? 」


 俺はここへ来てから気になっていた質問を、前を歩くミユリに聞いてみた。


「僕達の仕事は先に行って魔物の偵察、そのまま広い場所へと魔物を誘導、そして最後は注意を引きつけて囮になる事だからね」


 鬼畜な内容の作戦を淡々と説明するミユリ。なんか最後囮になるとか言ってたのが俺的にはめちゃくちゃ怖い。


「ま、マジでか……」


「まぁ奴隷にはうってつけの仕事ってわけだね」


「それでよくお前らこんなのに参加したな。奴隷でもないのに」


「これが一番お金が出る仕事だからね。それに、今回はギルがいるし、途中までは楽に行けると思うよ? 」


「ん? あぁ、それもそうだな」


 何せギルは強いからな。広い場所に誘導するくらいはなんて事ないのだろう。


 そんな事より、今考えるとミユリの方が危険な気がする。なにせこいつは前に俺の首を狙ってきた前科があるからな……用心しておかないと。


 それから暫く無言で歩いていると、急にミユリが立ち止まり、


「待って。何が聞こえる」


 ズシン、ズシン


 ミユリの言う通り耳を澄ますと地響きの音が微かに聞こえた。


「あー、今回はハズレ引いたっぽいね」


「うげっ」


 音の方向を見て引きつった表情のミユリと、あまりの衝撃に声が出てしまうソフィア。


 そんなにやばいのかと俺も【遠視】を使って魔物の姿を見てみた。


「でかっ! 」


 俺はあまりの大きさに衝撃を受けた。


 大きさは前に森で退治した熊の2倍くらい。縦にも横にも倍になっているので、かなりの面積だ。


 そんな大きな魔物はパンダを思わせる風貌をしており、例にもよってパンダと人間を混ぜた様な気持ち悪い顔をしていた。


「やっぱり気持ち悪い顔だな……」


「それを君が言うんだね……」


 俺が小声で呟いたのを聞いていたミユリが、なんか棘のあることを言ってきた。


「いや、俺あんなに気持ち悪くないだろ」


 あれ、言ってて自信無くなってきた。大丈夫だよね? 転生してイケメンになってるよね?


 そんな俺の不安を打ち消す様に、ミユリはとある真実を告げる。


「いや、そう言う意味じゃないけど……あれ、もしかして知らない感じ? あれら魔物と呼ばれる化け物達が、元人間って事……」


「……」



 ……はぁ?



「魔物が元人間……? ほ、本当なのか? シア」


 俺は一番信頼の厚いシアに、気づけば無意識で確認していた。


 シアはいきなり話を振られて少し驚いた顔をした後、


「あ、はい。本当です」


 さも常識と言わんばかりのキョトンとした顔で、こくんと頷いた。


「うそだろ……」


 急に頭が重くなる。


 じゃあなんだ、俺は今から同属を倒しにいくって事か? 


 というか俺はもう既に、2人も人間を殺していると言うことになるのか?  


 いや人間って言っても俺はあんな悍ましい見た目はしていないし、アレに自我や理性はなかったわけで、つまり俺はあんなモンスターではないはずで、アレも人間でない可能性の方が高いはずだ。でも、もしミユリやシアの言う通り、アレが本当に元人間なんだとしたら……。


 なんだか急に、罪悪感が込み上げてきた。


 ズシン、ズシンと、魔物が俺たちの元へ近づいてくる。俺たちは息を殺してこっそりとヤツに近づいていく。


「で、でも、なんでアレが元人間だってわかるんだよ。もしかしたら違うかもしれないだろ」


 俺はあの化け物が元人間などではないのだと、否定せずにはいられなかった。あんな化け物でも本当に元人間なのだとしたら殺したくないと、どうしても思ってしまうから。


「よくもまぁこの状況でそんな細かい事が気になるね」


 呆れた様な顔で苦笑するミユリ。


「いやだってアレ、元人間なんだろ? なんか俺、やりにくくて……」


「んーよくわかんないけど、気にしないで大丈夫っしょ。アレは言葉を話す事もできない、化け物なんだから」


 理性があるかどうかではなく、俺が気にしているのは元々人間だったのかどうかなのだけれども。って言ってもミユリはこんな気持ち、理解できないだろうなぁ。


 森の中に、騒がしい風が吹く。


 俺たち6人は固まって動いてはいるが、いつの間にか俺とミユリ、メランが一番後ろを歩いており、今一番前を歩いているのはギル、ソフィア、シア。どうやら無駄話をしている間に数歩ほど、先を越されてしまったようだ。


「じゃあなんでアレが、元人間だってわかるんだよ。やっぱりおかしいだろ」


 俺は半分縋る様な思いで、再度アレが元人間である事の証明方法をミユリに追求した。


「え? だってほら、そこにいるじゃないか」


 ミユリはまるで嘘なんてついていないかのような口振りでギルを指差し、


「言葉を話す、仮面を付けた化け物が」


 ただあの化け物と同じ魔物がそこにいるのだと、そう告げたのだった。


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