第二章10話 【国王陛下】
翌日。
目を覚ますと、何も見えなかった。
身体も思うように動かない。
伝わってくるのはツルツルとした地面の感触。
どうやら手足を縛られて顔に袋を被され、さらに口に詰め物を入れられた状態で転がされてしまっているようだ。
「んん〜! ふんん〜! 」
隣でソフィアの叫び声が聞こえる。
……もしかすると、街に出されたのかもしれない。
しかし、あの残虐的な笑い声は聞こえない。聞こえるのはソフィアの叫び声だけ。
これからなにが始まるのだろう……。
「んん〜! ふんん〜! 」
ソフィアはずっと叫び続けている。凄い精神力だ。俺は怖くて声も出ないのに。
「んーんー! 」
シアの声も聞こえた。
「ん! んんー! 」
ソフィアが嬉しそうな声を漏らす。
「んーんー! 」
「ふんー! んっ! んっ! 」
「ん? んんー? 」
「うるさいなお前ら! 」
突然、ギルの声が聞こえた。
「んー! んんんー! 」
怒っているような、ソフィアの声。
「いいから黙れ。もう少しで国王陛下がくる」
「ん? 」
一体、国王陛下が俺たちに何の用だろう?
疑問に思っていると、扉が開いたような音が聞こえた。
同時に、周りから音が消え、それからコツン、コツンと足音だけが鳴り響く。その音は正面まで続くと、やがて静かになった。
「皆のもの、顔をあげよ」
【言語支配をキャンセルしました】
目の前に、ステータス表示と同じものが出た。どういう訳かかわからいが、とにかくいつの間にか言語支配を受け、それを勝手にキャンセルしてくれたらしい。
「ほう、こいつが例の人間……ぐっ、近くで見ると余計に気持ちの悪い魔力量だな」
正面から中年のおっさんの声が聞こえた。恐らく国王の声だろう。
「おいそこの仮面、袋を外せ」
「はい」
国王がそう言うとギルが俺の頭に被せられた袋を外してくれた。続いてギルは、ソフィアとシアの袋も外す。
目の前の壇上には国王が高級そうな椅子に偉そうに座っていた。その隣にはエルメスや他数名の兵士が国王を守るように立っている。俺のすぐ横にも数名の兵士が等間隔に並び、槍を地面に突き立てていた。
国王は俺の思っていたイメージとは違い、なんとも弱そうというか、そういえば中学の時こんな先生居たなぁという、そんな印象。ぽっちゃり体型に小さな身長、顔もなよなよしていて、さらには眼鏡をかけている。目が悪いのかな。
そんな国王が国王である所以はやはり、さっき勝手にキャンセルした【言語支配】だろう。ステータス解析すると、こんな感じ。
【言語支配】
他人を言語を以て支配するスキル。
発動条件は命令すること。
特性に絶対王者を併せ持っていると、効果は絶大。他人を支配する時に使用する。
レベルMAX
消費MP 0
なるほど、こんな最強スキルを持っているから国王になれたわけだ。
因みに国王は上級魔道士。それ以外は不明。魔法技術はそこそこと言った感じだな。
ついでにエルメスのステータスも覗き見ようとしたのだが、弾き返されてしまった。
「おや、3人とも人間か? 」
ソフィア達の頬の刻印を見て驚く国王。
「いえ、元人間なのはこの者だけですよ国王陛下。後の2人は元犬だと聞いております」
エルメスが横から説明を入れる。
「ではなぜ人と書いているのだ? 」
「ローガーに刻印を消されたとか」
「ああそういえば、前にもあったなぁこんな事。ぐふっ、あやつも趣味が悪い……」
国王が吐き気のするような見た目の笑みを浮かべる。
「それにしても哀れな奴らだ。回復魔法などという忌々しい魔法を覚えたばっかりに、こんな目に遭うのだから……。因みにわしも、元は可愛い犬であったのだ。それをそこの人間などというゴミクズに殺されて……ぐぬぬ、おのれ人間! 思い出すたびに腹が立つ! ぐふふっ、、ぐふるるるるる! 」
唇を尖らせて息を吐きながら舌を巻き、顔を振る国王。
「あまつさえ久しぶりに国に帰ってみれば、忌々しい魔力がこの王城まで届いてくるではないか! なんだこの魔力量は! 同じ領地にいるだけで気分が悪くなる! 」
ばんっと椅子の淵を叩く国王。手を見ると少し赤くなっていた。
「おっと、少々取り乱してしまったようだ」
国王は自分の胸を撫で下ろし、
「こやつらは今、治療班だったな? 」
「はい」
答えたのはギルだ。
「では3人とも、討伐班に入れよ」
「討伐班、ですか……」
ギルが思い悩んでいるかのように声色を変えた。
「以上だ。もう下がってよい。全く、気分が悪くて甚振る気も失せたわい……」
国王が最後独り言のようにぶつぶつと言ってその場を立ち去ろうとした、その時。
「緊急です! 森に巨大な魔物が出現しました! 」
突然後ろの大きなドアが勢いよく開かれ、完全武装した兵士が現れた。
「レートは? 」
「いえ、まだわかりません」
国王が尋ねると、兵士は首を振った。
「びゅふふっ、丁度良い。この者達を連れてゆけ」
「はっ! 」
国王が気持ちの悪い笑みを浮かべると俺たちはまた袋を顔に被せられ、どこかに運ばれていったのだった。