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第二章7話 【再会】

 翌日。


 朝早く目を覚ました俺は、部屋の隅っこで水を生成し、顔を洗う。


 地面にバシャバシャと水が落ち、足にひんやりとした感触が伝わってきた。


 コンクリートで固められた灰色の壁が水で変色してしまい、カビが生えきそうな汚い見た目になる事が最初は嫌だったのだが、これも3日目になるとかなり慣れてきた。


 顔を乾燥させて一息付き、草藁まで戻る。


 仕事まで時間があるので、【ステータス】を確認。とにかく今は、自分の魔力残量を知っておきたい。


「ど、どこにあるんだ……? 」


 色々なところを触って残りMPの欄を探すが、どこにも見当たらない。


 仕方がないので諦めて、まずは下級魔法の情報を頭に叩き込む事にした。


「それにしても、寒いなぁ……」


 この部屋、朝は結構寒い。対策として毛布が欲しいところなのだが、下級の錬成魔法(小錬成)では毛布の錬成はできないらしい。


 下級魔法に一通り目を通し、一つ一つゆっくりと魔法を発動させてみる。とりあえず詠唱さえ唱えれば、あとは【ヒール】と同じ要領でぽんぽん出せるみたいだ。まぁ発動には集中力が必要だし、まだ頭で理解しているだけで体に染み付いていないから、実戦で使えるようになるまで時間がかかりそうだが。


「ふぅ、今はこんなもんかな」


 そろそろギルが迎えにくる時間だ。ソフィア達を起こさないと……。


 そう思って隣で寝ているソフィア達を見ると、何故か2人は草藁の上で抱きしめ合っていた。


「会えて嬉しいわ、、ルック……」


「うへへ、あったかぁい」


 恐らくだが、ソフィアは夢の中でルックと再開していて、シアはソフィアを抱きしめて暖をとっているのだろう。


 2人とも目を閉じているので、多分寝ていると思う。


 すると不意にドアが開き、ギルが部屋にやってきた。


「お、おはよう」


「おぉ、起きてたのかボウズ……ってこいつら、何やってんだ? 」

 

 ソフィアとシアを指差すギル。


「分からん。寒いんじゃないか? 」


 適当に言って、俺はソフィア達から目を逸らした。布面積低めのボロい服一枚で女の子同士がイチャイチャしている所を堂々と見れるような青春時代を送っていない俺には、刺激が強すぎる。


「あぁルック! そんな、今ここでなんて……! 」


「ぐひひ……」


 い、一体何が起きてるんだ……!?


 俺が恐る恐る様子を見ようとした、その時。


 ざばぁぁぁぁん。


 ギルが容赦なく冷水をソフィア達にぶっかけた。2人とも一瞬びくっと体を震わせたが、まだ起きてくる様子はない。


「お前、鬼だな」


 ジト目を向ける俺に対し、見向きもしないギル。ギルは相変わらず仮面をつけているので、表情はわからない。


「んぅ……ルック? 」


 ソフィアがゆっくりと起き上がった。目を擦り、寝ぼけ眼で周囲を見渡す。


 「あ、そっか……」


 ソフィアはどこか寂しそうな表情でボソリと呟き、寝ているシアをゆする。


「ほら起きて、シア」


 するとシアは目を閉じながら、


「んー? シアはずっと起きてるよー? 」 


「起きてたのかよ!? 」


 思わず突っ込んでしまった。


 今までのはわざとだったのか……。


「なんで寝たフリしてたんだ? 」


「だってソフィアの脇のところ、あったかいんだもん」


「いや答えになってねぇよ」


「ふへへ」


 シアがにへらと楽しそうに笑った。寝ぼけてるのかな。


 とまぁこんな事が朝にあったりして。


 その後昨日と同じように仕事場に行って。


 酷い目に遭いながら、酷い事をしてくるクソ野郎の傷を無賃金で癒やし、


 昼はカピカピのパンを齧る。


 そんな、昨日と同じ今日に。


 何の前触れもなく、唐突に、偶然に。



 メランがやってきた。



「うげっ」


 メランが部屋に入ってきて第一声、俺とメランの声が被った。


 すると後ろから、知らない女性が一人。


「ん? どったのメラン」


 そこには、年上のお姉さんが立っていた。


 髪型はショートカットで、色は青に近い紺色。


 背は俺とほぼ同じで170cmくらい。すらっとした細身で、ちゃんと食べているのか不安になるほどに腕が細いが、出るところはきちんと出ている。


 やたら整った顔立ちだが正統派美少女と言うわけではなく、どちらかと言えばボーイッシュな見た目のお姉さんである。


 この人、どこかで見たような……?

 

「おぉ久也くんじゃないか! 偶然だねぇ。あっはっは」


 お姉さんは俺を見るなり豪快に笑った。


「ねぇミユリ、他のとこ行かない? 」


 ん? ミユリ……?


「ダメだよメラン。もうここにお金払ってるんだから」


「むぅ……」


 駄々っ子のように頬を膨らませて拗ねるメラン。


「メラン、、ですって……? 」


 後ろから殺気を感じる。ソフィアだ。


「ねぇ久也、こいつが例の? 」


「あ、あぁ」


 俺の耳元に顔を近づけ、ソフィアが確認してきた。耳に吐息がかかってくすぐったい。


 するとメランがづかづかと近づいてきてベットに座り、真正面から俺を睨みつけてきた。


「お前、まだ生きてたのか」


 恐ろしい殺気を纏い、最初に軽く舌打ちしてからメランが問う。さっきミユリに「むぅ……」と、可愛く拗ねていた女の子と同一人物だとは到底思えない。


「それはこっちのセリフだ」


「あぁ? 」


 俺が少し強めに返すと、立ち上がったメランが左手で俺の首根っこをガシッと掴み、真上に持ち上げた。


「この状況分かってるのか? お前」


「う、うぅ……」


「ちょっと、やめなさいよ! 」


 ソフィアがメランの腕を掴み、必死に俺から引き剥がそうとする。しかし、


「縛伏」


 メランが詠唱を唱えると、ソフィアが鎖に縛られて宙に浮かされ、動けなくなった。


「くっ、解けない……! 」


「お願いします! 離してください! 」


 続いて、シアが涙目になりながらメランに懇願する。しかし、メランは俺の首根っこを掴んだまま離さない。


 しかも今ギルは部屋を出ているので、ここにはいない。


 ……やばい、苦しい、、


「まぁまぁメラン。その辺にしときなって」


「えー」


 ミユリがそう言ってメランの肩を叩くと、メランはあっさり掴んだ手を解いてくれた。


 ソフィアも拘束が解けて地面に落とされる。


「いやぁごめんねぇ。メランは君のこと、大嫌いみたいだからさぁ」


「い、いえ。ありがとうございます……」


「あははっ、敬語とかよしてくれよ堅苦しい。僕はこう見えて、君には感謝してるんだよ? 」


「感謝……? 」


「そうさね。君がこうしてこの国に売られたおかげで僕は、あの病気が治ったんだからねぇ」


「病気? あぁ、魔力欠乏症の事か? 」


「あぁそうそう。よく知ってるね」


「ま、まぁな」


 シアが同じ病気にかかったからなぁ……。


 って事は、俺をこの国に売ったおかげで飯が食べれるようになって、ミユリは回復したってことか?


 って事はあの村、貧乏だったんだなぁ……。


「もうミユリ、たくさん喋りすぎ! 覚えてる? こいつ、ミユリの事殺そうとしてたんだよ!? 」


「それはメランが久也くんの首を食いちぎった後、殺そうとしたからだろう? 」


「うぅ、それはだってぇ……」


 口を尖らせ、子供のようにいじけるメラン。


「ミユリを助けたかったんだもん……」


 ……ふむ、なるほど。メランがなんで俺の肉を食いちぎったのか、今ようやく理解した。


 あの時すでに、メランは魔力欠乏症の治療法を知ってたんだ。


 それでもあえて俺にヒールをかけさせてみたけど、ダメだったから肉を食いちぎってミユリに食べさせようとしたのか。なるほどなるほど。俺の肉を食べさせて魔力を回復するとは、凄い発想だな。完全に盲点だった。


 ……って、ちょっとまて。


「もしかしてミユリお前、俺の肉を食ったのか!? 」


「うん、食べたよ? 」


 信じられない事を言った俺に対し、あたかも当然の事のように返してくるミユリ。


「えぇ……ま、まじでぇ……」


 俺は今、それはそれはもう物凄い勢いでドン引きしていた。


「美味しくはなかったけどね」


「当たり前だ! 」


 悪戯っぽく笑うミユリに俺は、激しく突っ込みを入れた。


 まさか自分の肉を食べられる日が来ようとは……。まぁ、あの時のミユリは見るに堪えないほど悍ましい見た目になっていたし、その場凌ぎで人肉を食べるのも無理はないか。というか、この世界って人肉大丈夫なんだな。


 それにしてもこいつら、一体何しに来たんだろう……?


 見たところ二人とも、外傷がない。


 今見る限りミユリの体はあの時と違って随分肉付きがしっかりしているし、恐らくきちんとした食事も取れていることだろう。


 メランだってさっきあんなに暴れてたんだから、治療するところなんてなさそうだし……。


「それで? お前らはここへ何しに来たんだ? 」


「はぁ? お前なに惚けてんだよ」


「ん? 何のことだ?? 」


 本気で分からないと言った顔の俺に対し、メランは呆れ半分怒り半分の表情で舌打ちした後、


「右肩だよ右肩! お前が外したんだろうが! 」


「あ……」


 メランの右肩を脱臼させた事、すっかり忘れていた。だからさっき左手で俺の首根っこ掴んできたのか。


「あ……じゃねぇよ、全く。早く治療しろ人間」


 怒気を孕みながらそう言って、メランはベットに腰掛ける。


 俺は相変わらず口が悪いメランの事を特に咎めたりはせず、素直に治療に取り掛かる事にした。


「ヒール」

 

 わざとらしく詠唱を唱え、メランの右肩に手をかざす。


 メランが訝しげな目で俺を見つめてくる。


 ……あれ、もしかして無詠唱使える事バレてる?


「ねぇ、久也くんさ」


 俺がメランから目を逸らしてなんとも言えない顔をしていると、ミユリが話しかけてきた。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな? 」


「なんだ? 」


 するとさっきまで笑顔だったミユリから、スッと笑顔が消えた。そして、



「君はどうして、前世でメランを殺したんだい? 」



 こんな事を聞いてきた。


「ちょっとまってそれは……」


「いいんだソフィア」


 俺は咄嗟に反論しようとしたソフィアの言葉を遮った。俺の口からはっきり言っておきたかったからだ。


 ミユリは唇に人差し指を当てながら、ニヤリと笑った。


「これは何か誤解がありそうだね。まぁ僕も前々からメランの話はおかしいと思ってたんだ。学校に連れて行ってまでメランと一緒に居ようとした君が、どうして急に殺そうと思ったのかなぁってね。良かったら本当の事を聞かせておくれよ」


 そう言って唇に当てた人差し指を俺に向け、


「あ、そうそう。言っておくけど、僕には嘘が通用しないからね。僕ってそういう特性持ってるから」


 ミユリは得意げな表情で言った。


 そんなミユリに少し緊張しつつ、俺は真実を告げる。


「俺は、メランを殺してない。本当だ」


 俺はメランを横目に見据え、はっきりと言ってやった。


 ミユリは少し間を開けた後、


「ふむ、嘘はついてないみたいだね」


「嘘だ。信じらんない」


 否定したのはメランだ。


「でもメラン、殺してきた奴の顔は見てないんだろう? 」


「そ、そうだけど……」


「もしかしてメランは、僕の特性を信じてないのかい? 」


「ちがっ、そういうんじゃなくて…… 」


「だったら決まりだね。メランを殺したのは、久也君じゃない」


「ぶー」


 言い聞かせるミユリに対しメランは唇を歪めて不満そうな顔をしていた。ってかこいつ、俺を犯人に仕立て上げたいだけだろ。


 するとメランは胸の前で腕を組んで半目で俺を睨みつけ、


「言っとくけど、別に私を殺したのがお前じゃなくても、私はお前の事だいっきらいだからな。そこんとこ勘違いするなよ、人間」


「へいへい、わかってるって」


 俺は威嚇しながら言ってくるメランを適当に受け流した。


 それから十数分。無言でヒールをかけ続けると、見事メランの右肩は完治した。


 完治するとメランは、もうここに用はないと言った感じでさっさと部屋から出て行った。


 一人取り残されたミユリは最後、別れの挨拶をする。


「いやぁ世話になったねぇ、久也くん」


「いや、別に……」


 するとミユリは俺に近づいてきて取り繕ったような笑顔を作り、


「でも本当に良かったなぁ。君がメランを殺してなくて」


 そう言ったミユリの瞳には、光が映っていなかった。


 そしてこの時何故か、ピンッと糸が切れるような音が聞こえた気がした。


「ま、僕はこれで失礼するよ。じゃあね、久也くん」


「お、おう」


 妙な音に気を取られながら、俺は曖昧に返事した。


 ミユリは「ばいばーい」と背を向けながら手を振り、飄々と歩き去っていった。


 歩き去っていくミユリの指先には何故か、肉眼ではみることができないほど細くて透明な糸が垂れていた。


 

 ヒュルルルルルッ



 不意に俺の首元から、絡まった糸が解けたような、そんな音がした。


 いや、糸が解けたような音じゃない。


 糸が解けたんだ。


「久也くん、血が! 」


 急にシアが血相を変えて俺の首元を指差した。


「へ? 」


 首を触って確かめてみると、確かに血がついている。胸元の襟も、うっすら血の色に染まっていた。


「待っててください。すぐにヒールかけますから」


 相変わらず優しいなぁシア。でも、これくらいならオートヒールで完治しそうだ。


「ありがとう。でも大丈夫だから」


「ほんと、危ないところだったわね。大丈夫なの? 」


 ソフィアも一応心配してくれているみたいだ。


「ああ、大丈夫だ。ちょっとびっくりしたが」


「びっくりしたが、じゃないわよ。首が飛んでたら、オートヒールでも治らないんだからね! 」


 え、まじで……?


「すまん。気をつける」


 今後はまじで気を付けないとだな……。

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