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第二章5話 【それぞれの過去】

「この度は助けて頂き、ありがとうございました。久也くん」


 目を覚まし、すっかり元気になったシアは俺の目をしっかりと見てから深々とお辞儀した。


「お、おう」


 俺は照れ臭くなってシアから目を逸らす。


「久也くんは凄いスキルを持っているんですねっ! びっくりです」


「実は、俺も初めて使ったんだ」


「そうだったのですか……!? へぇ、」


 繋がれた手を食い入るように見つめて感心しているシア。実はシアの魔力はまだ充分に蓄えれていないので、俺と手を繋いだままだったのだ。


 なんか恥ずかしくなって思わず、魔力の供給を止めてしまいそうになった。


「ところで、魔力をこんなに頂いて、久也くんは大丈夫なのですか? 」


 ほんとだ。大丈夫かな……?


「……ま、まぁ、大丈夫だろ」


 エルメスが「凄い魔力量だねぇ」と言っていたし、当分は大丈夫……だと思う。


 俺が難しい顔をしていると、あれだけ散々人間が嫌いだのなんだの言い散らかしていたソフィアが、そっぽを向きながら不服そうに髪をいじりながら、


「ま、まぁ、今回はその、、あんたのお陰でシアが助かったわ。だから私も、少しは感謝してる」


 不器用に感謝を伝えてきた。


「なんだそれ」


 俺が不審そうな顔をすると、ソフィアは「あーもう! 」と急に怒り出して俺を見据え、


「私はね、受けた恩を返さないのが嫌いなの! だから感謝はちゃんと伝えるし、あんたが困っている時は一回だけ、仕方なく私が助けてあげてもいいわ! 」


「別に、お前を助けた覚えはないんだが? 」


 不思議な事を言うなぁとソフィアを見ていると、


「そ、そんな事、ないわよ……」


 ソフィアは俯き気味に、ボソッと何か言った。


「え? 何か言ったか? 」


「なんでもない」 


 ソフィアは切り捨てるように言って、少しの間目を閉じた後、


「ところであんたさ、他のスキルってどんなのがあるの? 」


「えっと……」


 ソフィアの質問に、言葉が詰まった。


 正直、どこまでが魔法で、どこからがスキルなんだかさっぱりわからん。


「ヒールとか? 」


「そんなの使えて当然じゃない。バカじゃないの? 」


 バカって……あぁもうツッコミするのもめんどくさい。


「オートヒールは? 」


「それも使えて当たり前」


「縛伏は? 」


「それは下級魔法。……はぁ、あんたほんと何にも知らないのね」


 呆れた顔で嘆息するソフィア。


「しょうがないだろ。まだこっちの世界に来てそんなに経ってないんだから」


「そうなんですか? それでよくそんなに魔法が使えますね……羨ましいです」


 シアが羨ましそうな顔で再度繋がれた手を凝視した。ほんと恥ずかしいからやめてほしい。


「久也くんは、人間の村の生まれじゃ無いんですか? 」


「人間の村? 」


「えぇ。ここからだいぶ離れていますが、この世界に間違って転生してしまった人間が集まる小さな村があるんです。普通は転生すると、同じ前世を持つ者がたくさん集まる村の近くに飛ばされる筈なんですけど……」


「そ、そうなのか……? 」


「はい。現に私たちも転生した時周りの人達全員、元犬でしたし」


「へえ……」


 ……もしかして俺、間違った場所に転生しちゃってないか? えっと確か俺が転生した場所といえば……。


「あ、そう言えば俺、あさり村って所で転生したな」


「あさり村……? 」


 シアが初めて聞いたような反応をすると、ソフィアが教えてくれた。


「あー、あのバッタが集まる村の事ね」


 言われてみれば、そうかもしれない。メランも元バッタだし。


「バッタか……」


 バッタとは夏休みの間一緒に過ごした楽しい思い出がある。もっとも、相手からすれば、突然連れ去られて拉致監禁されたようなものだろうが。


「なにか、思い入れがあるみたいですね」


 シアが俺の心を察したように言った。


「……まぁな」


「よければ聞かせてくれませんか? 」


「えぇ……」


 あんまり楽しい話じゃないしなぁ……。


「私、久也くんの事がもっと知りたいんです! 」


「うーん、じゃあ……」


 目を輝かせ、顔を近づけて興奮した様子でシアがこんな事を言ってきた。


 俺はその勢いに少し押されつつ、自分の過去を話し始める。



 バッタを飼っていたこと。


 そのバッタを学校に持っていってしまい、クラスの奴に殺されてしまった事。


 そのままいじめに遭い、最終的に殺されたこと。


 転生先でかつての親友だったバッタと再会するが、首を絞められて殺されかけたこと。


 そして、森の中でエルメスに捕まえられてここに連れてこられたこと。



「って感じなんだけど……」


 話が終わると、部屋が重苦しい空気になってしまった。


 するとソフィアがキッと俺を睨みつけて立ち上がり、


「何なのよそれ! 」


 急に、怒気を孕んだ声で叫び出した。


「さいっっていじゃない、そいつら! いじめとかそんなの……絶対許せないわ! 」


「え……? 」


「あと、そのメランって女もなんなの? 恨むならその智って奴を恨みなさいよ! あぁもう腹立つ!! 」


「ま、まぁまぁ落ち着けって」


 鼻の穴を膨らませて息を荒げ、鋭い口調のソフィア。


 こいつも俺の事散々言ってきてたけどなぁとか思いつつ、適当になだめること数分。


 ソフィアは落ち着きを取り戻したようで、深く呼吸をして腕を組み、その場に座った。


「全く、嫌な話を聞かされたわ」


「それは悪かったな」


「ほんとよ」


 ソフィアは頬を膨らませ、ご立腹な様子。


「それにしても、酷い話ですね。不愉快です」


 シアが冷たい声色でそう言った。


「そういうシアはどんな前世だったんだ? 」


 いつまでも俺の過去の話だと、なんだか居た堪れない気持ちになるので、慌ててシアに話を振った。


「私……ですか。そうですね……」


 シアは手を顎に当て、何から話そうか思案する。


「私はーー」


 それから、シアの過去の話を聞いた。


 シアは元々、野犬だったらしい。


 そんなシアはある日、町で昼寝をしていると何者かに怪我を負わされてしまった。


 それでも必死に餌を求めて町を徘徊していると、親切なお婆さんに拾われ、怪我の手当てをしてくれたのだ。


 そしてシアはお婆さんと一緒に住む事になったのだが、それから僅か一年でお婆さんは寿命を迎えてしまう。


 その後、親戚の人達がシアを押し付け合った。そしてーー


 ーー箱に詰められ、海に流されたのだ。


「っ……」


 あまりに残酷な結末に、喉がつっかえて声が出なくなる。


「何だよそれ……めちゃくちゃ酷い話じゃないか……」

 

「あはは。でももう、全然気にしてないですよ」


 ちょっと泣きそうになっている俺に気を遣ってか、シアがおどけたように笑ってみせた。


「それに、ソフィアに比べたら私なんて……」


 シアがソフィアの様子を横目で伺いながら、話を促した。


「え? わ、私も話さないといけない感じ? 」


 ソフィアがうろたえた様子でシアを見る。


「ダメ……? 」


 シアが上目遣いでソフィアに話すよう訴えかける。するとソフィアは諦めたように嘆息しつつ、俺を半眼で見つめ「別に、面白い話じゃないわよ」と言い残してから、ゆっくりと話し始めた。



 野犬だったソフィアには、恋人(人ではないから恋人とは言わないが、恋犬だとややこしいのでここでは人を基準とする)がいたらしい。


 恋人の名前はルック。ソフィアとルックは生涯を共に生きる事を誓い合い、愛し合っていた。


 そんなある日。森の中で1人の若い男に捕まり、2人は連れ去られてしまう。


 小さな檻に入れられ、家の中で飼われる事になったソフィアとルック。必要最低限の餌と水でなんとか生きてはいるものの、以前のような自由は無くなった。


 そんな中、嬉しいことがあった。子供ができたのだ。


 しかし、そこで悲劇は訪れる。


 ある日の朝。ソフィアは甲高い悲鳴を聞いて目を覚ました。音の鳴る方を見るとそこには、腕の無いグロテスクな見た目をした子犬が一匹。そう、


 子供が、目の前で、殺されていたのだ。


 男は楽しそうな顔で手足を引きちぎり、内臓を潰しながら笑っていた。


 ソフィアは体が炎のように熱くなり、思考は真っ赤に染まり、溢れ出る感情のままに吠えた。


 すると男は不機嫌そうな顔をして近寄り、ソフィアーーではなく、ルックを連れ出した。


 そしてソフィアに見せつけるように、何度も、何度も、ルックの腹にナイフを突きつける男。


 ルックは何度も苦しそうに吠えた後、だんだんとその声は弱々しくなっていき、そして息絶えたのだった。


 ルックの声が聞こえなくなり、何もかもを失ったソフィア。しかし、まだ悲劇は続く。


 男はソフィアの体をじわじわとナイフで傷つけ、それを動画に残し始めたのだ。


 それから10日ほど痛めつけられたソフィアは、息を引き取った。


 しかし、喜ばしい事にこっちの世界でルックと再会。そして2人は元犬が集う村で結婚し、平和に暮らしていたのだ。


 そう、ソフィアが回復魔法を使えるようになるまでは……。


「まぁ、そんな感じでここに連れてこられたのよね」


 ソフィアは話が終わると、暗い表情で俯いていた。何か思い出しているのか、それとも思い出さないように感情を殺しているのか、その目には何も映っていないように見える。

 

「ひっぐ、……うあぁ……」


 そんなソフィアの隣で俺は、我慢ができずに泣いてしまっていた。


「ちょ、あんた、何で泣くのよ」


「だって、だって……」


 子供のように泣きじゃくる俺を見て、困惑するソフィア。


「ひ、久也くん。気持ち、分かります……うぅ……」


 隣で、シアも泣いていた。


「ちょっとやめてよ2人とも! 」


 ソフィアはどうしたらいいか分からないと言った様子で、あたふたしていた。


 ソフィアのあまりに悲しい過去を聞いて、悲しくなって、泣いて、泣きじゃくって、


 そして泣き止んだ俺は涙を拭き、覚悟を決めた。


「よしっ、絶対にここから出よう! ルックも今頃、心配してる筈だ! 」


「そうですね! 早くここから出ましょう! ルックも今頃はソフィアが心配で夜も眠れない筈です! 私達が連れ去られる時も、ずっと止めようとしてくれてましたから……」


「そうか……やっぱりいい奴だな、ルック……」


 まだ会ったこともないルックを思い浮かべて、俺はまた泣きそうになった。きっとルックは高身長でイケメンで話が面白くて優しくて俺なんかとも仲良くしてくれるいい奴に決まっている。くそう、待ってろよルック……!


「それは嬉しいけど……本当にいいの? 」


 ソフィアが申し訳なさそうに潤んだ瞳で俺に尋ねてきた。


 普段は口の悪いこいつにそんな顔されると、なんかドキドキする。


「当たり前だろ」


 俺は優しく微笑んで、そう返事した。


「よし、じゃあまずは食料問題だな。そうと決まれば今からでもこっそりここを抜けーー」


「まずは魔法ね」


「まずは魔法ですね」


 馬を仕切ろうとした俺の言葉を遮る形で、ソフィアとシアの声が被る。


「俺たち人間の言葉でな? 腹が減っては戦はできぬというのがあるんだが……」


「魔法が使えないと、戦はできませんよ? 」


「ご、ごもっともです……」


「今日はもう遅いですので、明日から頑張りましょう! 」


 という事で。


 俺達はこれから、仕事が終わりに魔法の修行をする事になったのだった。


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