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第二章1話 【人になった理由】

「おい、起きろボウズ」


 俺は、ギルの声で目が覚めた。


「ん、んん」


 しかし睡眠時間が短すぎるため、起きることが出来ず二度寝してしまう。


「おいボウズ!……はぁ」


 ギルは呆れてため息を吐いた。そして、


 ざばぁぁん


「わっ! 冷た! 」


 俺は頭から冷水をぶっかけられ、目が覚める。


 なんか大事な夢を見ていた気がするが、冷水の衝撃のせいで忘れてしまった。


「目、覚めたか? 」


「何しやがる! 」


「朝のシャワーだ。気持ちいいだろ? 」


「はぁ? シャワーってお前……」


 隣を見ると、シアとソフィアも同じように濡れていた。


 ボロボロで布面積が少ない服を着ているため、その、色々とあれである。


「何見てんのよ……いやらしい」


「久也くん、変態です」


 シアとソフィアは犯罪者を見るような目で俺を見ていた。


「いや、違うからな? 」


 俺はそっぽを向きながら言う。


「ってか、俺らびしょびしょのまま外出るのかよ」


「心配すんな。今乾かしてやる」


 ギルはそう言うと【乾燥】の魔法で俺たちの体を乾かしてくれた。ほんとに魔法って便利だな。


「じゃあ行くぞ」


 そう言ってギルは鍵を開け、部屋を出た。


 続いて俺も廊下に出ると、他の部屋からも人が何人か出てきていた。

 

 年齢は、全員俺と同じか少し年下くらい。男女両方共いるが、男の子の髪の毛が長いため、男も女に見える。


 しかも子供達は俺たちとは違い、足枷をつけられていた。服も俺たちより随分と汚れていて、表情も暗い。


 左頬を見ると【猿】と筆で書かれたような跡があった。よく見ると【豚】や【猪】までいるみたいだ。どうやら、これらはこの子達の前世を表しているらしい。


 だとしたら、シアとソフィアはなんで【人】って書いてるんだ……? やはり不思議だ。


 疑問に思っていると、背の高い軍服を着た男が廊下の入り口の方からヅカヅカとやってきた。


「おい! 早く来い! 」


 不良顔に金髪モヒカンという典型的ヤンキーの見た目をしたこの男は不機嫌そうに俺の前にいた男の子達を呼んだ。


「はぃっ」


「さっさと歩けノロマが! 」


 男は男の子の髪を強引に引っ張り、さらには壁に頭をぶつけさせた。男の子はゴンッと鈍い音を立て、倒れ込んでしまう。


「ううぅ」


「寝てんじゃねぇよ! 殺すぞ! 」


「すぃません」


 こんなひどい光景を目の当たりにして、改めて自分が奴隷になったのだと実感が湧く。


「何見てんだ? 」


 何も考えられなくなっていた俺がぼーっと金髪の男を見つめていると、目をつけられてしまった。


「あ、ぃぇ」

 

「申し訳ございませんローガーさん。こいつまだ新人でして」


 すかさずギルがフォローしてくれる。


「お前はアレか、医療班のゴミか。いいか、こっちに回されたくなかったらこのクズ共、ちゃんと教育しろよ」


「はい、肝に銘じておきます」


 ギルはそう言って丁寧にお辞儀する。


 ローガーとやらは不機嫌そうに舌打ちした後こちらにやってきて、シアとソフィアを侮蔑の目で見下ろしてきた。


「そういやこの生意気なクズ、顔の傷が治ってやがるな」


 そう言ってソフィアの顔をジロジロと見るローガー。


「ぁ、ぇっ、」


 ソフィアはいつもの強気な態度と違い、わなわなと足を震わせて声にならない声を漏らした。


 しかし、握りしめられた拳には怒りが混じっていた。そして瞳には殺意を込め、必死にローガーを睨んでいる。


「あ? なんだその目は」


 ローガーはソフィアの顔を右手で掴み、壁に叩きつけた。


「かはっ」


 鈍い音を立て、悲痛な声を漏らすソフィア。


「申し訳ございませんローガーさん。どうか、どうかお慈悲を」


 焦った様子でソフィアに駆け寄り、涙目で許しを乞うシア。


「あぁ、お前か。昨日もお前が一緒に責任取ったんだよなぁ。可哀想に」


 ローガーはシアに手を伸ばそうとした。その時。


「おいローガー、早く行くぞ」


 別の軍服を着た男に呼び出され、ローガーは手を止めた。


「ちっ、おいクズ。次そんな目してたら顔の皮膚全部取るからな」


 そう言って、他の監修や男の子達と共にローガーは地下から出て行った。


 俺はそんな光景を前にしても、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


「ふぅ、行ったみたいね」


 ソフィアは立ち上がり、何事もなかったかのような表情でサラリと言った。


「もうソフィア! 昨日も言ったけど、ローガーに絡まれた時はそんな態度じゃダメ! 」


 シアはまるで宿題を忘れた娘を叱るように言った。ソフィアはシュンとなってうなだれる。


 そんな2人に、俺は何故かモヤモヤしていた。


「なぁ。お前ら、あんなことされて平気なのか? 」

 

 俺は何も考えずに聞いた。


「別に。あれくらいでめそめそしてても、仕方ないじゃない」


「そうか……」


 さっきは足が震えていたはずなのに、それでも前を向いていられるソフィアの事が、俺はかっこいいと感じた。


「昨日はもっと酷かったですからね。頬をこう、ゴリゴリと爪で抉られて……だから私達の頬には人って書いているんです」


 だから人って書いてる……ってどゆこと?


「ん? どういうことだ? 」


「あんた、ほんと頭悪いわね。だから人間なのよ」


「あのなぁ……」


 せっかくちょっと見直したのに……。


「頬を抉り取って、線をいくつか消されたんです。丁度、この辺りですかね」


 そう言ってシアは【犬】という文字が書いてあったであろう横棒の線を指でなぞってみせた。


「な、なるほど、そういうことか」


 さらりとエグい説明をするシアに、とりあえず納得してみせる俺。


「それにしても……」


 この世界の女の子って、逞しいんだな……。


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