断章2話 【昔の夢】
先に言っておくが、これは夢だ。
僕、竹城久也。10歳。
なんの取り柄も無く、無能で、根暗で、人付き合いが苦手な僕には、友達がいない。
そのため、家に帰ると僕は一人で宿題を終わらせて一人でテレビアニメを見る。母はまだ仕事から帰らない。
父はというと、僕が物心つく前にこの家から出て行ったらしい。そのため父親という存在を知らないし、他人に憐れまれた時も自分を可哀想だなんて思ったことは一度もない。まぁ僕を憐れんでくれる友達もいないんだけど。
という訳で一人で寂しくテレビを見ていたのだが、なんとなく暇になった僕は家を飛び出し、夜の公園でブランコを漕いでいた。
夜、九時半過ぎ。
普段なら家にいる時間帯に外に出ているというスリルや解放感に、神経が昂る。
ギコギコと、僕のブランコの漕ぐ音だけが公園中に響き渡っていた。周りには誰もいない、貸切状態だ。
「ふふっ僕は自由だ」
楽しくブランコを漕いでいた、その時だった。
「ボウズ、こんな時間に何してるんだ? 」
「わっ! 」
突然、スキンヘッドで怖い顔をしたおじさんに声をかけられてしまった。周りに誰もいないと思ったのに……。
僕はブランコを降り、恐る恐るおじさんを上目遣いで見つめる。
「おじさんだぁれ? 」
「俺か? 俺はそうだな。夜の公園に出る、恐ろしい何かだ」
「怖いおじさんなの? 」
「あぁ、そ、そうだ。だから早く帰れ、ボウズ」
「うん」
そう言って帰ろうか悩んだが、おじさんはもしかしたら優しいおじさんなのかなと思い、もう少しお話ししたくなった。
「おじさん、家まで着いてきてよ」
「あぁ? 」
おじさんは少し不機嫌そうな顔をした後、
「仕方ねぇな。着いてってやるよ」
「やったー」
僕は嬉しくなって飛び跳ねた。
それから家に着くまでの数分間、いろいろな話をした。
学校で起きた(僕は関わってないけど)面白かった出来事や、勉強が難しくてついていけない事。運動が苦手でドッチボールな時にすぐ当てられてしまう事。人付き合いが苦手で友達がいないこと。
なんか次第に僕の苦手な事ばっかり話してしまっていたが嫌な顔は一つもせず、しかしぶっきらぼうに相槌を打ちながらおじさんは話を聞いてくれた。
マンションのロビーに着くと、おじさんは笑顔で僕の頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「じゃあなボウズ。もう夜に一人で出かけたりするなよ」
「うん! わかった! 」
おじさんは僕の頭から手を離し、ロビー玄関の自動ドアを開けた。
「今日は送ってくれてありがとう! 」
「おう」
「ねぇねぇ、またお喋りしてくれる? 」
「……あぁ。ボウズがいい子にしてたらな」
そう言っておじさんは歩き出した。
その時、丁度お母さんが帰ってきた。
「お母さん! 」
僕はお母さんに抱きつこうと――
「久也! 」
お母さんは僕の手をひき、強引におじさんから遠ざける。
「いたいよお母さん! 」
お母さんは普段とどこか違う、険しい表情をしていた。そしておじさんを睨みつけ、僕をおじさんの死角に隠れさせた。
「どうしてここにいるの? 」
「……すまん」
「二度と近づかないで」
「あぁ」
お母さんはおじさんに対し恐ろしく冷たい言葉を放った。
おじさんもこれに対しなんの反抗もせず、ただ暗い表情で俯いていた。
「お母さん、このおじさんは僕を家まで――」
「久也は黙ってなさい」
僕の言葉を怒りの篭った声で遮るお母さん。
正直、こんなに怒っているお母さんは初めてだった。
「ごめんなさい」
僕は夜に一人で外出した事を深く反省した。
その後すぐにおじさんは出て行ってしまい、僕は家に帰ってお母さんにこっぴどく叱られてしまった。
とまぁ、そんな昔の夢を見た。