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断章1話 【母の復讐】

 地球にて。時は、久也が酒を飲んで死んだ日に遡る。



 私は竹城和子たけじょうかずこ45歳、バツイチ。久也の母である。



 思えば、今日は朝からついてなかった。



 休日なのに仕事だし、


 毎朝チェックする占いも最下位だし、


 電車は遅延するし、


 私のミスじゃないのに上司に怒られるし。



 でも、まさかこんな事になるなんて思っていなかった。


 こんなに辛い日になるなんて、思っていなかった。



 昼過ぎ。病院から電話があった私は、急いで久也のいる病院へと向かった。


 普段は乗らないタクシーに乗り、人生で初めて「お釣りはいらないです」と言ってタクシーを降り、いい大人なのに全力でダッシュして病院へ入る。


 でも、結果は変わらない。


 どれだけ走り、


 どれだけ急いでも、


 久也は死んでいた。



 なんで? どうして?


 昨日まで全然元気だったのに。


 今日も朝、寝ているあの子に手を振ってから家を出てきたのに。



 そして、明日も、明後日も、


 私は久也の母でありたかったのに。


  

 

 なのに、久也は死んでしまった。




「うわぁぁぁぁ、あぁぁ、あぁ……」




 しばらく、息ができないほどに泣いた。




 それからの事はあまり記憶にない。




 なんか色々あって、お酒ばかり飲んでいた事は覚えている。





 息子がお酒で殺されたのに、皮肉なものね。




「あーあ」



 今日もお酒を飲んでいた。


 仕事を辞め、今は貯金を崩して生活している。


「こんな世の中、終わればいいわぁ」


 ベロベロに酔い、焼酎瓶を振り回しながら独り言を言った。


 この世の中は、終わっている。


 この世の中は、実に理不尽で不平等だ。


 なぜならあの日。


 息子が死んだ原因は【友達と悪ふざけでお酒を飲んだから】だと言われたのだから。


 しかも警察の取り調べに対し、クラスメイトも教師も「いじめはなかった」と供述したらしい。


 さらに息子を殺した智とやらは泣きながらテレビに向かって、


「久也はいい奴だったんです。学校でも勉強教えてくれるような真面目なやつで……。でもある日、いきなり酒が飲みたいって言い出して……僕は止めたんですよ! でも、幸助のやつがふざけて持ってきた酒を……う、ううっ」


 とか言いやがった。


 分かりきった演技だ。



 だって、久也がそんなこと言うはずがない。


 

 こいつが久也をいじめてたんだ。



 こいつが久也を殺したんだ。



 許せない。



 こいつだけは、絶対に許せない。




 殺してやる。




 絶対に、殺してやる。





 ガンっと音を立て、酒の瓶を机の上に置いた。


 


 そして、溜まっていた苦しみを吐き出すように、叫ぶ。




「久也を殺したあいつも、いじめを見て見ぬ振りしてたあいつらも! そして何より……なにより、久也がしんどい時になにもしてあげられなかった自分自身も、みんなみんな殺してやる!!! 」




 そんな叫び声と共に、焼酎瓶をテレビに投げつけてやった。



 テレビはガラガラと音を立て、砕け散る。



「ふぅ」



 今日で、終わりにしよう。





 学校には、保護者の方々が集まっていた。


 今日は参観日なのだ。


 11月という、まだそこまで寒くない時期なのに厚手のダウンを羽織り、私は学校に向かった。




 授業内容は道徳らしい。


 先生は命の尊さについて、生徒達に熱弁していた。


「命は尊いものです。決して、軽いものではありません。そしてそれは、虫さんも一緒です。虫や動物も、生きている者はみんな尊いものなのです。ですからみなさんは、他のみんなの命を大切にしましょう」



 先生がなにか言っているのを、お母さん方も真剣に聞いていた。きっと、このクラスに酒を飲んで死んだ生徒がいる事を知っているからだろう。


 私はというと、久也を殺した犯人である智を探していた。


 どうやら一番前の席にいるらしい。


 私は智の元へ向かう。


「みんなは友達が困っていたら……あの、どうしたんですか? 授業中ですので、後ろに戻ってください」


 先生が注意してきたが構わずズカズカと進み、智の前にやってきた。智は死んだ目をした私に対し、びくっと体を震わせる。


 そして私は、ダウンを脱いだ。


「死ね」


 私はダウンの中に隠し持っていた、ガソリンが入ったペットボトルの蓋を開け、智の顔面に勢いよくぶっかけた。


「うわっ、何しやがる! 」


 そしてマッチに火をつけ、智に近づけた。


 すると火は、勢いよく智の服全体に燃え広がった。


「うわああああ!! 」


 クラス中に、叫び声が響く。クラスのみんなも各々悲鳴を上げながら逃げていった。


 火に囲まれた智は、あまりの熱さにその場から動けなくなっていた。


 黒い煙の中、私は清々しい気分で後ろポケットからナイフを取り出し、智に突き刺した。



 ぐさっ



「ううぅぅぅ」



 智が、声にならない声で倒れた。



 刺した手が、熱い。



 でも、これでよかったんだ。



 荒れ狂う教室の中で私はお酒を取り出し、一気に飲み干した。



 

 教室は火の海になり、私の体も真っ赤に燃えた。

 

 


 久也、今すぐそっちに行くね……。





 そしてその後、母はゆっくりと息を引き取ったのだった。



 

 


 




 

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