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第一話 転送

 飛雄馬は全身から汗をかきながらこれから向かう先の生い茂る木々の間の空間を見つめ誰に語るでもない様相で喋り始めた。


「2021年1月2日23時頃のこと…

無名の発明王である私こと星野飛雄馬と猫のジェイコブは開発途中の時空転送装置の試運転の際、不慮の事故に遭遇することとなった。」

「無名なのに王なの?」

 ジェイコブの自分に向けた言葉など聴こえなかったように飛雄馬は語り続ける。

「何らかの不具合により一人と一匹は転送されてしまった。その先は南国の楽園を思わせるようなクソ暑くて自然豊かな居心地の悪い座標不明地点である。ジェイコブはことの深刻さをわかっていないようだ。着いたはいいが帰る術がわからないことに気付いていないようだ。俺と違って足取りが軽いことで何も考えていないことが容易にわかる。」

「勝手に決めてるし。」

 木々から這う根を跨ぎながら呆れたようにジェイコブは呟いた。

「流石猫。脳が小さいだけのことはある。」

「ヒューマより大きいかもよ。」 

 ジェイコブが切り返した。

「つい先程もこのアホな猫はこの状況下でさえ呑気な発言をしていた。」

 下唇を不自然に出した飛雄馬はピースサインの両手を頭の上に添え、指を2回曲げながらやや声を張った。

「『せっかく冬毛が揃ってきたのになんだよこの暑さ!』」

 大きな岩の上に飛び乗ったジェイコブは飛雄馬の顔の高さと同じ位置でしゃがみ込み変顔の相手を見つめる。

「誰のマネのつもりだよ…」

「冬毛で覆う意味がないほどストーブの前から動かず灯油が切れ始めるとギャーギャーとわめいて俺の研究の邪魔ばかりしやがりながらずっとNetflixで映…」

 ジェイコブが言葉を遮る。

「斬新な発明はいいから灯油切れ起こさない暖房器具を創ってよ…ってゆーかエアコン買おうよ。ヒューマの自称研究所は夏暑すぎて冬寒すぎなんだよ。」

 飛雄馬はジェイコブに顔を近付けた。ついさっきとは変わり表情は真剣である。

「ジェイコブ…黙っていてくれないかな。」

 ジェイコブの首輪を指差して静かに語りかけるように言葉を続ける。

「この首輪はキミのニャーニャーを人の声、日本語に変換する機械だ。キミのために俺が創ったんだよジェイコブ…今はオプション機能の録音ボタンをポチッと押してオンしてるんだ。

今俺は漂流日誌を記録している最中なんだ。事態は深刻だ。俺たちは生きて帰る事ができない可能性がある。俺は誰にも知られていない無名の発明家で人生を終えるなんて真っ平ごめんだ。だから記録するんだ。転送自体は成功した事を告げたい。もし、俺たちがここでのたれ死んでも、この首輪が残っていれば、いずれ誰かがメッセージを聞いてくれるかもしれない。

そして、星野飛雄馬の名は世に知れ渡ることとなり死後とはなるが発明王として歴史に名を刻むんだ。

だからお願いだからジェイコブ…

話の腰を折らないでくれよ。」

 飛雄馬の眼差しはやや哀しげにジェイコブに向けられていた。

 飛雄馬の漂流日誌はただの自分に対する悪口にしか聞こえなかったが、ジェイコブは何も返答せずに黙っていた。

 切り返すのも面倒くさかった。



 転送された瞬間は頭がクラっときた。研究室の仄暗さから、いきなり明るいところに来たせいで瞳孔が反射的に動いたせいだろう。目の前が光で霧がかりまず確認できたのは波の音。そして、暖かい空気が肌を撫でる感触だった。


 浜辺にいた。


 飛雄馬はジェイコブの背後から脇腹あたりを両手で掴んで持ち上げていた。

眼前には海。振り返ると森がある。海は透き通り、森の木の葉は大きく深い緑だった。瞬間に日本ではないと感じた。

 最寄りのコンビニ付近に転送するはずが、手違いでよくわからないところに着地してしまった。

 ジェイコブは映画『ザ•フライ』の影響で転送装置をひどく恐れていた。ハエと自分が一緒に装置に入ってしまった場合、転送先でハエ人間ならぬハエ猫になってしまうのではないのかと。飛雄馬はその考えを一蹴した。もし、それが起こったら転送装置とDNA融合装置の二つを同時に発明したことになって一石二鳥であるとジェイコブをからかった。



「猫人間にならなかったのは幸いだった。容姿に関してはファンタジーな感じでけっこうイケてるかもしれないが、ふたつの意識が混ざり合うってことにはゾッとする。そうなると俺は今まで通り俺であり続ける事ができるのか?」

「また海に出た…」

 飛雄馬の話を無視してジェイコブが呟いた。

 ジェイコブは飛雄馬の肩の上にちょこんと座っていた。お互いに暑苦しかったが、ジェイコブは降りようとしなかった。


 森の中で遭遇した猛獣に怯え続けていたのだ。


「木の上に寝そべってこっちを見てただけだった。キミがビビっているように相手も俺たちにビビって手も足も出なかったんだろう。あのケモノ、ネコ科っぽかったから、あのタイミングで同族同士お友達になっておくべきだったのかもな。」

 飛雄馬はジェイコブを軽く嗜めたが内心は自分自身も怖がっていた。だが、ジェイコブの身体の怖張りを感じてなのか、これ以上不安にさせる言葉は選ばなかった。


「同じ猫なら夜行性だ。夜が危ない。」


 ジェイコブの声はやや震えていた。黒く艶やかな体毛は普段より一本一本が立っていて、地平線まで降りてこようとしている紅く染まった太陽に照らされ輝いていた。

 慣れない環境のせいか太陽の動きが早く感じられた。心の奥底に潜む焦りや不安なども影響しているのかもしれない。

飛雄馬はジェイコブを抱えて砂浜にゆっくりと降ろした。くっついていると身体に走る緊張をジェイコブに察せられる可能性があるからだ。



 ニャーニャー翻訳機は声を変換しているわけではない。実際、ジェイコブが言葉を発するタイミングで口が動いているわけではない。ジェイコブの何かを外の世界に伝えたいという意識を日本語に変換している。開発当初は失敗の連続だった。意識の出所を探るのに脳波ばかりに着目していたせいだ。


 このスランプから脱出するきっかけはジェイコブの威嚇した体勢を見た時だ。


 その当時のジェイコブはまだ身体が小さかったが、それよりも圧倒的に小さいカマキリと睨めっこをしていた。

 顔を床面スレスレまで落とし腰を高く持ち上げ全身の毛を逆立たせたジェイコブは一切の隙も見せぬようカマキリを凝視していた。

 猫パンチの一発で勝敗は決まるのであろうが、現実はそうはいかなかった。ジェイコブの体はのけぞった体勢でカチコチに固まっていて、前足を自在に動かせる状況ではないことは側から見ても感じとれた。

 飛雄馬はひっくり返したバケツに座ってうちわを扇ぎながら傍でそれを見ていた。

 天性のビビりだな。

 二匹の邪魔をせぬよう笑い声は控えていた。

 こりゃジェイコブの判定負けで終わりそうだな。

 いつ二匹の間に入り試合を終わらせようかなどと、逆立つ毛をぼんやりと眺めながら考えているうちに意識が変性した。


 トランスした。

 目まぐるしくビジョンが展開する。


 ジェイコブの毛は一本一本がすべて独自の生命体であるように揺らめいていた。風になびく稲穂のようにも草原の草とも感じた。ジェイコブの身体を駆け回るホルモン物質と大地を流れる水やミネラルがリンクしカマキリは台風などの自然の脅威であった。根を互いに絡ませ大地から自身を太く頑強なものとする養分を取り込み密集した雑草群はひとつの生命体として生き残りをかけた自然界の戦いに挑むのだ。またその台風は破壊と同時に恵みをももたらし、雑草は冬に向けての身支度に種を創る。その茎にはオスを食い散らかしたカマキリが適切な産卵場所を物色し徘徊している。

 繁栄と衰退が波打ち混ざり合いあらゆる個体は干渉し合い溶け込んでゆく。意識に境界線はないのであるが、そこに敢えて境界線引くのもまた意識である。

 意識とは個体とそれを取り巻く環境が一体となった『場』である。


 飛雄馬はその日の明け方までプログラムを組んだ。トランスの余韻を失わないよう暗がりの静かな窓のない部屋とも呼べぬような空間で電子の迷路を設計した。

 一度寝るとトランス状態で観たビジョンはただの意味不明で矛盾を多分に含んだ妄想であると思い込んでしまう事をわかっていた。トランスは過去にも経験した事があったからわかる。

 トランス状態中の経験を生かすためにも今日中に設計し切る必要がある。



 飛雄馬は流木を手に取り投げ捨てた。そして、砂浜を徘徊してまた流木を探し回る。投げ捨てた先には同じように流木やら枝やらがいくつも転がっていた。

 転送地点で脱ぎ捨てたダウンジャケットを目にしてからというもの、飛雄馬はジェイコブの気などお構いなしに露骨に慌てふためいた。

 森に入りその茂みを抜けると海があり、また森に入り抜けると海がある。今日、それを何度繰り返したことか。何度も頭をよぎった事があるがその度にジェイコブをからかうことに意識をそらし自分の導き出すであろう答えを遮っていた。

 そうこうしてるうちに転送地点に戻ってきてしまったのだ。

 もはや事実を受け止めなければならないと腹を括った。


 ここは無人島だ。


「ヒューマ!」

 声のする方を眺めるがジェイコブがわからない。

日が沈むのはあっという間であった。

 暗闇に黒のジェイコブは見つけにくい。

月明かりだけを頼りにジェイコブが走ってくる様を捉える事ができた。口には何本かの枝を加えている。

 ジェイコブは枝を吐き捨て飛雄馬はそれを物色し始めた。

「ダメだ…軽い。」

 飛雄馬は両手で枝を折った。そして別の枝を手に取る。

「中身がスカスカで脆すぎる。こいつは湿気ってるな。森の中の枝は水気を帯びてるんだ。砂浜で干からびた芯の詰まった枝が欲しいんだよ。」

 飛雄馬の語気の強さにジェイコブは萎縮した。

「ごめん…」

「まぁいい。俺の探したやつに手頃なのがあるはず。」

 飛雄馬は言うより先に転がっていた流木と枝を漁り始めた。

 ジェイコブは何もできずにその光景を眺めていた。



 首輪を初めて付けた日の事をジェイコブは忘れない。

 その日はやたらヒューマが喋りかけてきた。

 いつも聴いてるヒューマの声の意味がわかる。

 今でこそ声に意味が乗っかっている事は当然だと思うけど、その時は混乱した。

 喋れるようになるのはまだまだ先だった。

 首輪を付けてからは映画をよく観た。

 部屋を暗くしてソファにもたれかかったヒューマの股ぐらにもたれかかって両腿を肘掛けみたいにして人間みたいに映画を観た。

 目で見てそれと同時に声を聞くのは勉強になった。

 勉強は苦しいってヒューマは言ってたけどボクは楽しかった。

 映画はウソの世界だとヒューマに教えてもらった。フィクションだ。

 大げさな世界を楽しむものなんだと。

 人間はパンチを喰らって宙を舞うことはないし、自動車は空を飛ばない。ドラゴンはいないし、人間はゾンビにならない。

 大げさじゃない映画もある。リアルっぽいフィクションだ。そういう映画も魅力的だ。

 今のボクとヒューマみたいに無人島に取り残された主人公の映画もあった。

 サバイバルをするんだ。

 板を木の棒でクルクルほじくって火を出すんだ!



「ダメだ!乳酸が溜まって…」

 飛雄馬は酷い顔をし、吐き捨てるように言った。

汗と鼻水を垂らしながらも両手のひらは止まらず枝をクルクル回している。

 今となっては摩擦で木から火を起こすことなんて馬鹿げているように感じていた。大した段取りもせずそんな芸当ができるわけがない。パニックで間違ったインスピレーションを実行に移してしまった自分が嫌になった。


 ジェイコブの首輪から発する声ではない激しい鳴き声が聞こえた。

 飛雄馬の目の前で森に向かってジェイコブが威嚇の姿勢をとっている。

 ジェイコブの視線の先には光る二つの瞳が見て取れた。


 猛獣だ!喰らいに来た!


 猛獣は暗闇に溶け込み距離感が掴めない。

 森の中からこちらを伺っているのか。

 はたまたもう既に至近距離にいるのだろうか。


 火を灯す事を諦め、流木を猛獣に投げつけてやろうかと考えたが、手を止める事ができない。

 諦めがつかないその理由はかすかに煙の匂いを感じるからだ。


 ありえない…

 気のせいかとも思ったがたしかに少し煙い。

 この匂いに可能性を感じてしまう。


 一旦手を止めたら火が生まれる可能性は振り出しに戻ってしまう。

 いや…可能性は果たして上がっているのだろうか。


 ジェイコブが殺されてしまう。


 判断をしろ!

 飛雄馬は自分に言い聞かせた。


 投げつけた流木が猛獣に当たらなかったら…

 当たったところで猛獣がびくともしなかったら…

 そもそもこんな事をしてる場合じゃなかった。石ころをそこら中からかき集めておいて、それを思いっきり猛獣に投げつければ逃げていくのではないか…

 いや、そもそも猛獣だけに危機感を抱いたわけではなかったはずだ。無人島で生き残るためにはまず火が必要と思ったんだ。得体のしれない生魚を食べるわけにはいかない。ヤバい寄生虫を焼き殺さないと…ありえないことにジェイコブも火を通さないと魚を食べられない猫に育ててしまった…


 様々な選択肢と後悔が凄いスピードで頭を駆け回って気が狂いそうだった。もう狂っていたのかもしれない…

 ジェイコブの何倍もの太い威嚇する鳴き声が聴こえた様な気がしたが幻聴だったのかもしれない…

 幻覚かもしれないが流木と枝の当たる所から火花が見えた瞬間に意識がひっくり返って静まり返った。


 トランスした。

 フラッシュバックし過去の自分に意識が飲みこまれた。


 飛雄馬は暗がりの中パソコンのディスプレイの明かりだけを頼りに紙にペンを走らせていた。

ペンを止めたら閃きが溶けてなくなってしまう。パソコンで作業をしたいが、作業をペンからキーボードに変える合間に今頭の中にある発想が掻き消えてしまうかもしれない。

 すぐ後ろでジェイコブが寝ているはずだが、振り返って確認することさえできない。

 首輪の設計時に転送装置のインスピレーションを受けた。どちらも意識を捉え応用することにより創る事ができるはず。

 意識は波動の一種で電磁波のように捉える事ができるはずだ。

 ただ転送装置は起動する瞬間だけでも大電力が必要になりそうだ…

 いかん。首輪の設計に集中しろ。

「そうだよ。日が明けちゃうよ。」

 誰だ!?

 …お得意の幻聴か。

 しかしいい声だったな。

 ジェイコブの声に似合いそうだ。

「ヒューマありがとうね。」

 誰だ?

 飛雄馬は振り返ってしまった。


 振り返るとそこにパソコンのものより大きいディスプレイがあり映画が流されているようだった。

 映画をぼんやりと眺めて飛雄馬は思った。

 首輪が完成したらジェイコブに映画を見せよう。言葉の勉強にもなるし、一人と一匹で映画鑑賞も悪くない。人間の言葉を理解することが楽しさに繋がってくれたらどんなに素晴らしいことか。

 映画では半裸の髭モジャの役者が必死に木の棒を回して火を起こそうとしていた。木の棒には紐が巻かれ、クロスした別の棒に紐の両端が繋がっている機構であった。棒を上下することで容易に回転力が得られている。

「俺は飛んだ馬鹿野郎だ…」

 飛雄馬は自分の呟きの意味がわからなかった。

 板からは煙が立ち込め始めている。

飛雄馬はその光景に釘付けになって目を見開いていた。

 役者が咄嗟に煙の出どころにチリチリの細い藁のような何かをくべた途端に炎が生まれた。

「火種だ!」

 飛雄馬は叫ぶや否や立ち上がった。

「火種を作らないと!硬くてでかい木がいきなり燃えるはずがない。燃えやすいものから順次でかくしていかないと…」

 …

 なぜか惨めになり座り込んでまた映画を観た。

 画面は暗く夜のシーンのようであった。

暗がりの画面左端に二つの光る輝きがあり、右端には遠近法でアップにされた赤熱した紅い光が映っていた。

 画面中心の闇が揺らぎ小さな塊が確認できたや否や、その塊は紅く熱せられた光めがけて飛んできた。

 紅い光に覆い被さるとその塊は発火した。

「ジェイコブ!」

 飛雄馬の叫びもスクリーンの世界には届いていないようだ。

 ジェイコブは炎を纏い二つの光る輝きに突進していった。

 炎の灯りに照らし出されたヒョウのような獣は一目散に奥にある森の中に逃げていった。



 飛雄馬が目を覚まし起き上がりあぐらをかくと、その上にジェイコブが乗ってきた。

 あたりの景色にうっすらと色がつき始めた。

 日が明けてきていた。

 飛雄馬は炎が止み炭だけになりつつある焚き火に木を追加した。

 木を掴んだ時に手のひらに痛みが走った。

 乾いてはいたが血まみれだった。

 視線を動かすと引き裂かれたダウンジャケットの羽毛が焦げて黒くなっている光景が目に入った。

 昨夜はどこまでが現実だったのだろうか。

 膝の上のジェイコブは元々のスリムな身体が余計にスリムになって見える。

『冬毛がなくなって精々したぜ。』

 昨夜の一連の騒動が収まった後にジェイコブが発したキメ台詞…

 このキメェ発言も現実なのか映画なのか…

 そもそもあの程度で燃えていたら、今まで無事に生きている事が奇妙に思えてくる。

 今まで散々石油ストーブの目の前で丸くなっていたんだ。その時になんらかの要因が重なり丸焦げになってしまってもおかしくはない。


 一旦寝た事でトランス状態の余韻などは完全にリセットされていた。

 今の俺に大げさなフィクションは通用しない。

 今日またジェイコブにきちんと何が起こったのか聞こう。


 気付くと太陽は既に地平線から離れて浮かんでいる。

「やけに早く感じる。」

 飛雄馬は誰にともなく呟くとジェイコブを肩に乗せて立ち上がった。

「ヒューマ、ボク達お家に帰れるかな…」

 ジェイコブの質問に飛雄馬が答える。

「俺にいいアイデアがある。棒と板で火を起こすよりマシなアイデアだ。」

 飛雄馬は笑いかけ話を続けた。

「とりあえず火は絶やす事なく燃やし続ける。のろしをあげる事が重要だ。あと、浜辺に石ころを並べてデカイSOSを作ろう。」

「ここって船が通りかかるところかな…」

 飛雄馬は天を指さす。

「この世界はどこまでも監視されているディストピアだ。世界のどこかの暇人がグーグルアースの更新後にのろしとSOSを見つけてくれるさ!」

 ジェイコブが笑った。

 見つけてもらえるそれまでは木の実や魚を食べて生きていくのか。あのデカイ猫にも気をつけなきゃいけない。飛雄馬は水平線の彼方を見つめながら、今後の事に思いを馳せていた。

「ヒューマ…あれ…」

 ジェイコブは飛雄馬に話しかけたが、大きく見開かれた目は空に向けられていた。飛雄馬は目線を追った。


 空の彼方に何かが飛んでいる。

 比較対象がなく大きさがよくわからないが、ジャンボジェット並みに巨大である。

 しかしそれは鳥のように羽ばたいていた。

 逆光でシルエットしか確認できないが、それは見まごうことなく竜の姿であった。

読んでくださる方がいますように。



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