ドレス
BLにチェックを入れたものの、BL要素は薄めです。何文字かわすれた。原稿用紙3枚くらい。たぶん。
思えば、冬になると悠くんはいつも裾の長いコートを着ていた。あまり生地の厚くない、風でひらひらと舞い上がるようなコートだ。僕は悠くんが小さい頃からの友達だけれど、こんな風にコートを着るようになったのはいつからだろう。
「悠くん、その服すきだね」
何の気無しに、そう訊いたことがあった。ブランコに揺られていた悠くんは、ぱあっと嬉しそうな顔をした。アーモンドチョコの欠片を飲み込んで、僕より少しだけ低い声で答えた。
「うん、これお気に入りなんだ。裾がひらひらして、かわいいでしょ」
思いもよらない答えに、僕は少し戸惑った。悠くんは僕より背が高くて、声も低くて、僕のような童顔ではなくて。かわいいものに喜ぶ悠くんは、僕の中にあった勝手なイメージと違っていた。
「かわいいもの、すきなの?」
「うん。言ってなかったね、そういえば」
一度も聞いたことがなかった。でも、ひとつだけ心当たりがあるとすれば、悠くんの携帯電話の待ち受けが、一時期かわいいキャラクターの絵だったことがあった。耳が長くて、目が大きくて、白くて、ふわふわなマスコットの姿は、黒と赤に染められたダークな雰囲気の本体には場違いすぎて、深く印象に残っていた。
「そのコート、かわいいの?」
「裾がひらひらしてるだけ、だけどね。ほら、こんな風に」
悠くんがブランコから立ち上がる。コートの裾からブーツの踵が覗いた。悠くんは片足を軸にして、バレリーナのような優雅さでくるりと回った。ふわり、と裾が持ち上がる。まるで耳触りのいいオーケストラの旋律のように、それは緩やかな曲面を形作った。辺りを駆ける風に、新緑の波が見えるかのようだった。
「ね?これがやりたくて買ったんだ」
高かったけどね、と溢して笑う悠くんを、僕の視線は透過してしまった。さっき見せつけられた一瞬が、僕の網膜を焼き尽くしてしまった。
空が暗色に染まって、電灯が僕たち二人を区切った。悠くんは帰り際の階段を駆け上がって、最上段で振り返る。
また明日ね、と微笑む悠くんに、小さく手を振って答える。悠くんはコートの裾をつまんで、少しだけ膝を折ってみせた。
月が眩しい。2つ目の缶コーヒーを飲み干す。
電車の30分くらいでだらだら書きました。
おしまい。






