夢師と女の子
私が薄れる意識の中。覚えている事があまりにも少ない。
「グギャアアアアアア」
動物の声ではない叫び。
どこからそんな声がでているのか、分からない。ただ、寒かった事は今でも覚えている。
寒い……。
足の感覚が、分からない。
手が、寒い。吐く息が白い。
それもその筈。今は冬で辺りは真っ白で、雪が積もって足跡すら分からない。家に帰る時に遭遇したのだ。
そんな私は毛皮のコートを着て、手袋をしていた。今はコートも手袋もない。無惨に裂かれ、身を守るものなんてない……。
なのに私は生きている。
寒さで感覚は少しずつ失うのに。
何故か生きれると思った。それは私に掛けられた黒いコートのお陰だからかも、知れない。
「随分と成長したな。………時間はかけられないのに」
私の頭を触れる手がある。
薄れそうになる意識を、頑張って無理に起こす。緑色の瞳と目が合い、優しげに微笑まれたような気がした。
「大丈夫。君を死なせはしないよ。……方法がこれしかなくて、申し訳ないが」
何を謝っているのだろか。
そんな疑問を頭の隅に置いていた。ほとんど薄れているからよく、分からない……。
そう思っていたら、体の中が入り込んでくる。
ドクン、ドクン。と脈打つ音がいつも以上にうるさく聞こえる。
だけど……。
温かくて心地いいのが分かる。
吹雪いている中で不思議な感覚だと思いながら、私はふっと力が抜けた。
それが当時、8歳の私の記憶だ。
~§~§~§~§~§~§~§~§~
「おはようございまーす」
「おはよう、シャリーちゃん」
カラン、カランと綺麗な鈴の音が店内に響く。
私が働いて10年。ここウィグセルと言う街角の一角にある、小さなお店。お店の主人であり恩人のフリーネルさんが、今日も笑顔で手を振っている。
「どうだい、ここ最近よく眠れているのかい?」
「早めに寝ているのに、全然寝たという気がしなくて」
ガックリと肩を落とす私に、ポンポンと労わる様に頭を撫でて来る。
10年前にこのパン屋のお店の前に、黒いコートを包ませた状態で私が置かれていたと言う状況。何が起きたのか分からなくて、自分の名前以外に思い出せる事は何もなかった。
何処から来たのか。
そして傷だらけでいた私の事を、フリーネルさんは何も聞かずにそのまま私を育てた。18歳になってすくすく育つ私を嬉しそうに見ている彼女は、本当に優しくて……こんな訳の分からない私のことを、娘のように育ててくれる。
恩を返したいと思いたくて、フリーネルさんにしつこくお店の手伝いをすると言った。最初はそんな事をさせられない、まずは体を休める事が大事、と何かと理由をつけて遠ざけて来た。
でも……。
それでも諦めない私に、ついにフリーネルさんが「参った」と言って小さなお手伝いから始めた。
今ではこのパン屋の看板娘、だなんて呼ばれているからちょっと嬉しい。
「んー。原因が分からないのは怖いねぇ。最近、夢師達がよく見かけるから、シャリーちゃんは夢に襲われてるのかも知れないね」
「……それって夢魔の事ですか?」
夢魔。
それは眠っている間に相手にとっての理想の人物と過ごす夢の事。
でもただの夢じゃない。その夢にのめり込め過ぎれば、心が壊れ記憶を壊れるのだと言う。
最初は普通に起きて、とてもいい夢だと思う。
それが段々、起きて来なくなる。次第に無呼吸になり、そのまま静かに安らかに死んでしまうのだと……。
とても幸せな夢。
幸福を得られる夢だと言い、悩んでいた事もその時に悔しかった事などもあった筈なのにそれらが綺麗になくなった。まるで、その部分だけの記憶が無くなったかのような不思議なもの。
静かに死ぬ直前、両親や親友達に「今日、夢であの人と出掛けるの」ととても幸せそうにして眠るのだと言う。
そして、そのまま……安らかに亡くなっている。
それまでに目の下にくまが出来たり、やる気がなくなったりと周りでは心配し病院に行くように勧められるが、原因は分からずじまい。
恐ろしい病気だと広まっており、夢を食べて死に誘う事から夢魔と呼ばれるようになった。
その誰にも治せない病気を治していく人達が現れた。
それが夢師と呼ばれる人達。
黒いコート。左胸の部分に、クローバーの印が縫われた謎の集団。その理由として夜に依頼を受ける事があるからだ。
夢魔は、人の夢の中に潜む。
だから彼等はその人の夢に入り込み、その原因である夢魔を退治する。あとから分かった事だけど、その病気にかかった人は体の何処かに印があるのだと言う。
赤い蛇の入れ墨。
入れ墨をするような人でもないのに、首筋や肩などに現れる。不思議な事に本人には見えてないのだと言い、見た方も一瞬だった事から気のせいだと思う事が多い。
とにかく。
その夢師と呼ばれる人達は、原因不明の病気を治すとこの街でも広まっている。ヒーローのような騒ぎ方に私は半信半疑だ。
夢を見ただけで人が死んでいく。
そんなバカげた事はないだろう、と。そう思っていた。
~§~§~§~§~§~§~§~
「キャッ……」
今日もお店のパンは全部売れた。
お店の前を通る子供達が嬉しそうにしているのが、嬉しくてこっちも嬉しくなる。
後片付けを終わらし、さて帰ろうかと思っていたら……店先で倒れている人が居る。行き倒れ……? ピクリとも動かないから凄く心配になり声を掛けてみる。
「あ、あの……。大丈夫、でしょうか?」
当然だと言うべきか、反応が返って来ない。
どうしようかと思っていたが、すぐに今日残ったパンを取り出した。お店に出すのに形が悪かったり、ちょっとした焦げがあったものは売らないようにしている。
うん。味が悪いわけじゃないから別に良いよね!!
そう思っておずおずとそのパンを出し近付く。あと少しで届くと言う距離に来た時、ガバッと倒れていたであろう人物の顔が、上がりそのままバクバクと凄い勢いでパンを食べ始める。
「ふぱーー。生き返ったぁ~~」
「それは良かったです」
結局、新作にと失敗した分も合わせて全部を平らげた男性。隣で水を渡せば遠慮もなく全てを飲み干す。
「ありがとうございます。いやー、この世に女神がいるのだと言うのは本当のようだ」
聞けばこの10日間、何も飲まず食わずだったみたいで。
思わず「えっ」と言わなかっただけでも褒めて欲しい。人がそんな長い期間飲まず食わずなんて有り得ない。
だけど彼は辛そうに今までの事を話した。
慣れない雪山で疲れたとか、大きな熊に襲われかけたとか凄い事をしているのだと何処か線を引いたように聞いている。
「さぁて、そろそろ仕事をしないと」
バサリと上着を着るように羽織られる黒いコート。
ニコリと笑みを浮かべ覗かせる緑色の瞳。ドクン、と何故だか初めて見た様な気がしなくて……。思わず近付いた。
「あ、あの……?」
困り気味の声に、自分の行動を思い出してすぐに離れる。段々と赤くなる顔を抑えるように顔を伏せる。
「あ、助けてくれたのに名前を言って無かったね。私はダリュー。ダリュー・ウェルネル。よろしくね」
「シャ、シャリー……です」
おずおずと顔をあげ、改めてダリューさんを見る。
男性にしては綺麗な黒髪で、1つに結んでいる。優し気に微笑む笑顔が、なんだか懐かしく思うのは……私の勘違いなのだろうか。
「シャリー、さん。そう……良かった」
「えっ」
何でそんな事を言ったのか。
そんな疑問が浮かぶ中、確かめようと立ち上がるのと謎の雄叫びが聞こえたのは同時だ。
ダリューさんはそのまま声のする方へと向かう。しかも、簡単に建物の屋根まで飛んでいき姿が見えなくなるのは早かった。
(は、初めて来たんじゃないんだ!!!)
行き倒れ? だからつい、この街の事を知らないのだと思ったが彼は知っていた。気付けば周りは夜で、そう言えばと街中の明かりがあまりない事に気付く。
いつもならまだ明かりがあるのに、だ。
「な、なに……あれ」
何故だか追わないと行けないと、思った。
場所なんて知らない筈なのに、私は進む。そこに……居るのだと分かるからだ。
「おや、来てしまったんですか。いけない人だ」
合わせられた目は感情の読めない、冷たい感じ。
ゾクリと背筋が凍り、足が動かなくなる。知らない間にカタカタと震える体、だけど引けないと思いじっと見つめ返す。
そしたらフワリと笑顔を浮かべられた。
またドクン、と高鳴る胸の音が聞こえる。
「夢魔。これ以上、ここで活動できると思うな。……お前は狩られる側だ」
コツン、とダリューさんが持っている杖が床を叩く。
空気が変わったような感じに思わず周りを見れば、照明がつかなくなり代わりに青い炎が辺りを包みだす。
「コノ、ドウホウノ、ウラギリモノオオオオッ!!!」
「いや、誰がだよ……」
同胞……裏切者?
分からないことだらけの中、ダリューさんが相手にしている妙なものの相手を見る。
体長が5メートルはあろうと言う程の大きな体。鋭い爪、体を覆うのは黒い鎧のような皮膚。
対してダリューさんは持っていると思われるのは杖だけ。
他に持っている物はないし、私達以外に誰か居るような気配もない。静寂なこの街に響くのは見た事もない怪物と、それに対峙するダリューさんだ。
「ウガアアアア!!!」
振るわれる拳は早くとても人間が追えるような速度じゃない。
一瞬でダリューさんが居た場所がぺしゃんこになり、地面がめり込む。思わず目を閉じしゃがみ込み目を開く。
「あ……」
目の前にさっきの怪物の拳が見えた。
このまま死ぬのだと思ったが、それを受け止めた人が居た。
パシッと間の抜けた音が聞こえるのに、その衝撃で地面が割れる。思わず掴むものをと手を伸ばした先には、笑顔を向けるダリューさんだ。
彼が受け止めた腕とは逆の腕で私を支えた。
「ごめんね、また巻き込んで。でも今度も終わらせるから」
受け止めた側の腕を押し返す。それだけで、巨体の怪物は簡単に吹き飛んだ。どれだけの筋力の差なのだと思わず目を見開いていると、ダリューさんの容姿がいつの間にか変わっていた。
黒い髪から白い髪へと変わり、掲げた腕には既に剣が握られていた。
「今、開放してあげるよ。哀れな夢魔」
まさに神速とも言える一閃。
私にはとても見えない早さで放たれた剣技により、吹き飛ばされた側は反撃する間もなく呆気なく倒れる。その体がボロボロと崩れていく中、キラリと光る物がダリューさんの元へと向かって来る。
「回収っと」
キラキラと光るそれを収めるには小さすぎるガラス瓶。
だけど吸い込まれるようにして入っていき、ガラス瓶の中で綺麗に輝くもの。それを見て私はまたドクン、と何かに揺さぶられるようにして記憶が呼び起こされた。
「あの、シャリーさっ……」
呼ぶ声を塞ぐように、私はダリューさんの唇を塞ぐ。
衝動に駆られたこれがなんなのか、分からないまま。
~§~§~§~§~§~§~
「そうかい。やっぱり連れて行くんだね」
「あははは。ごめんなさい」
翌朝、土下座するダリューさんと呆れた様に見るフリーネルさん。
記憶を失った10年前のあの日。私は死にかけた。
夢魔は早い段階で治れば良いが、突然変異で夢を食べていた人間の体を乗っ取り怪物へと変身するのだと言う。そして、ダリューさんはあの時から姿も見た目も変わっていない。
それは……彼がヴァンパイヤだからだ。
夢師と呼ばれる彼等は、ヴァンパイヤで構成された組織。日の光に出ても平気なのと難しいのとが居るらしい。ダリューさんみたいに平気な人達が情報を集めて昨日のような夢魔を倒していくのだと言う事だ。
何故、フリーネルさんがそんな事を知っているのかと言えば……彼女もダリューさんと同じヴァンパイヤだからだ。
(そう言えば、あんまり容姿が変わっていないような……)
本人的にはそれなりに変えてるらしく、日々研究中との事。これ以上、この話題に触れるのはマズいと本能的に察して聞かない。
「全く、いきなり私に頼み込んだかと思えば……。アンタ、シャリーちゃんの事をハーフにしたね!!!」
「あー、いやー。あの時はその、どうしようもなかったと言うか……てへっ」
「気持ち悪いよ!!!」
パアンッ、と凄い音がダリューさんの左頬に放たれる。
フリーネルさんのビンタだと分かったがその威力が凄く、お店の壁にめりこんでいる。
……怒った女性は怖い。
「全く、アンタがそんな中途半端な事をするから夢魔は多くなるんじゃないか!!! 処理するのは当然だよ」
「うぅ、ぬ、抜けない……。馬鹿力め」
ドカッ、と動けないダリューさんに対して放たれる蹴り。
今度こそお店の壁が抜き抜けてしまい、ダリューさんがゴロゴロと派手に転がる。
ちなみにハーフと言うのは私の事だ。
死にかけた私を助ける為に、ダリューさんは咄嗟の行動として血を私に入れたのだと言う。……幼い私に対してキス、だ。口移しで血を注いだのと同時に、記憶を封じたのだからダリューさんに対して初めてでないのはこの所為だ。
だと、しても……。
だとしても、言いたい。恥ずかし過ぎる、ではないか。火照る顔をどうにかやり過ごしたいのに、私は思い出す。
昨日の、自分の行動に。
(わ、私っ……なんてことを!!!)
衝動的にとは言え自分からしてしまった。
でも待って欲しい。ファーストキスは既にダリューさんにされているのだから、これは別に……良いのだろうか。でも、気持ち的になんだか収まらない。
ど、どうしようっ。
「おーおー。朝から派手だな」
「来るのが遅いよ、ダートル」
そこに現れたのはダリューさんと同じ黒いコートの男性だ。
赤い髪を肩まで短くした野生染みたような印象だ。遅れて入ってくるのは、既にボロボロな状態のダリューさんだ。
「ん? 君がシャリーちゃん、か」
「へっ」
「ほうほう。ダリュー、お前こういうのがタイプか」
間近で私を見て言うダートルさん。
それをダリューさんが引き剥がし「寄るな」と声を低くして制止させる。
「うるさい。将来こうなるのは何となく分かっていたし、小さいあの時でも可愛んだ。無事でいてくれて本当に良かった」
「ロリコンヴァンパイヤ」
ドコン、と今度はダートルさんが吹き飛ばされる。
知らない間にお店が壊れていくのだが、良いのだろうかと思わずフリーネルさんを見る。
すると彼女の方はお店を閉める予定であるからちょうど良いのだと言う。
「え、え、それって」
「別にシャリーの所為じゃない。私達は長い間、同じ場所には留まらないんだ。気にしなくて良いんだよ」
な、なんだろうか。
ダリューさんから凄く甘い囁きが……。しかも、すんごい優しい手つきで撫でて来るんですけどっ。
「迎えに来てカッコよくしようとしたのに、道に迷うだなんて……災難だ」
良かった、と甘い顔をして私の事を抱き寄せる。
顔が真っ赤になる私に対してダリューさんは、余裕な笑みで迫ってくる。
「おい、本部行くぞ」
雰囲気に飲まれそうな所をピシャリと止めたのはダートルさんだ。
舌打ちが聞こえたダリューさんを恐る恐る見ると、満面な笑みで私を向けて危険性を問う。
「ごめんよ、シャリー。私の眷族にしたことで、夢魔にとって餌になってしまって……でも平気。昨日のあれで、ここ一帯の夢魔は倒したから」
ここ最近の夢魔による事件は私の所為だ。
夢魔は人間を求める中でヴァンパイヤであるダリューさん達も欲した。だけど、対抗するには力が低い事から狙う事が出来ない。
だから、人間とヴァンパイヤのハーフである私を狙うのだと言う。
今まで大丈夫だったのはフリーネルさんが結界を張り、日々それらを抑えていたから。だけど、痺れを切らしたのか昨日の怪物は周囲の夢魔を集めて、自ら私を狩ろうとした。
そこを助けたのがダリューさんであり、彼からすれば迎えに来たのに速攻で狙われるのに我慢ならなくて、あんなに派手に立ち回ったらしい。
「派手にするから直すのにどんだけ時間が掛かったか」
「ありがとうございます」
「アンタの給料から大量に取るから安心しな」
「……はい」
悲し気に目を伏せたダリューさんが可哀想で、思わず手を伸ばして頭を撫でてしまった。するとフニャリと顔を緩ませ「へへっ、ありがとう」と凄く上機嫌になった。
「うわっ、引く」
「筋金入りのロリコンかよ」
やっとの思いで戻ってきたダートルさんが、今度こそ派手に吹き飛んだ。ダリューさんが殴ったのだろうと分かるが、そのスピードが速すぎで私では全然追えない。
ガラガラ、と音を立てて今度こそフリーネルさんと私とで働いていたお店が崩れ去る。
瓦礫とかが私に振って来ないのは、それ等のものをダリューさんが全て弾き返し傷1つ付けなかったから。
そんなこんなで私はダリューさん達と行動を共にする決意をした。
ハーフである事を隠してもいずれ夢魔が、集まるのであれば退治するダリューさん達の傍に居た方が良い。
あの時、私が居た街はその突然変異による夢魔に滅ぼされたのだと言う。
生き残れたのは私だけで、どうにか生きようとして倒れた所をダリューさんが助けに来た。
「あの、本部に行く前に……私の街に寄って貰っても良いですか?」
本来ならダリューさん達が集まる夢師の本部に行くのだが、どうしてもお母さんとお父さんのお墓を立てたいと思った。私がダリューさんに昨日、キ、キスした事で記憶が戻ったから。
だから街があった方角は分かる。難しいかと思っていれば、ダリューさん達は構わないと言ってくれた。
「良いぜ。この中じゃ純血種のダリューが一番偉いんだ。リーダーはダリューだよ」
「ロリコンだけどね」
「ロリコンだがな」
「………」
容赦ない言葉を言うフリーネルさんとダートルさん。
泣きそうなダリューさんはずっと私にくっつき「意地悪だ」と小さな抵抗をしている。
ウィグセルの人達には悪いと思いつつ、諸事情でお店をたたむ。これから私は両親のお墓を立てて、ダリューさん達の本部へと向かう。
そして……。
「どうしました?」
見上げる私の視線の気付いたダリューさんを見る。
キョトンとした表情の彼は…。彼を見てドキドキするのは眷族になった故なのか、彼の血を飲んだ事での副作用なのか。
「い、いえっ、何でもないです」
「そうですか……」
凄くガッカリした様子のダリューさんに悪いと思いつつ、歩くスピードを上げる。すると何故だかダリューさんもそれに合わせて近付いていく。
何度も同じ事をするから、むっとしままダリューさんを見れば彼は妖艶に微笑みそっと口づけた。
「いずれシャリーの全ては貰うよ。今は迷っていて良いけど……」
溺れさせてあげる、と。
耳打ちするようにして言われた言葉。ボッと赤くする私に、ダリューさんはクスクスと笑うだけ。
その熱を知られたくなくて、先に歩くフリーネルさんの後を必死で追う。
依存なのか、恋なのか。
今の私の気持ちは分からない。
分からないのに、ドキドキさせられるのが心臓に悪い。そんな気持ちのまま私は彼女達と旅に出た。