プロローグ : チトセ・テンセイ
ふと気がつくと、心地よい風が僕を包み込んだ。
目を閉じているけど、外が明るいのが分かる。
柔らかくて、少し青臭い匂いがする。
ポカポカ暖かくてずっと寝てしまいたい気分だ。こういう寝るか起きるかの中間を彷徨うのがとても気持ちいい。
今は何時だろう。朝くらいかも。
こんな日は一日中寝るのもいいし、どこかにフラフラと散歩したりするのもいいな。
そんなことを考えながら僕はまたうつらうつら夢の世界へと落ちていく。
………いや、ちょっと待って。僕外で寝たっけ?
危うく二度寝に入りそうだった眼を擦りながらなんとか持ち上げる。
光で真っ白に目が眩んだが、すぐに目が慣れた。
目の前にはとても広い青空が続いていた。
すごく、綺麗だ。
どうやら僕は仰向けに寝転がっていたらしい。
そのまま背伸びした後、ゴロンと寝返りを打ち、うつ伏せになってから立ち上がった。
僕が寝転がっていたのは地平線まで続いている草原だった。風が柔らかい草を撫でて、まるで波のようにそよいでいる。
上には雲ひとつない青空。地面には広大な草原。
なんとも壮大な光景だ。
……でも、ここどこ?
僕が覚えている中ではこんな場所来たことない。
ていうか、ここ日本?
日本にこんな綺麗な場所あるのかな。ビルと工場と住宅街のイメージしかない。それに比べてここは、今にもおんじとハ○ジが出てきそうな景色だ。
とりあえずそこら辺を歩いてみてここがどこなのか探してみよう。
運が良ければ誰かに会えるかもしれないし。
僕はそうと決めたら行動までが早い性格だ。
パッと前へ駆け出して何か探そう。
……としようとしたが、つんのめって顔面から地面へ転がってしまった。
痛みを堪えながら、顔を持ち上げて再び立ち上がる。
しかし、さっき立ち上がった時もあったけど、何故かバランスがとりにくい。
ぶつけた所を押さえた時に、僕はようやく気づいた。
なんか、ヒタヒタしてる。どう言えばいいのか分からないけど、毛がない感じ。
顔がハゲた?ヒゲまで?
頭の所へ手を動かすと、そこにはちゃんと毛が生えている。しかし、いつもの感じじゃない。ヒゲみたい。
もしかしたら手がおかしいのかも。
そう考え、手にパッと目線を移した。
同時に、僕は身の毛がよだつような衝撃を受けた。
自分の手ではない!
でも何回も見たことがある手だ。
さらに目線を下げ、足を見る。
すると、そこにも毛も生えていないスラリと伸びた長い足があった。
もちろん僕のではない。バランスがとりにくかったのはいつもよりずっと長いからだったのだ。
全身をその手でぺたぺたと触り、冷や汗と共に改めて確信した。
「僕、人間になってるうううううう!!!??」
僕が発したその言葉も、猫の言葉ではなく、人間の言葉だった。