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一章 15 『知らない方が』

 日が落ち、辺りに夜の帳がおりた。家の中の明るさが窓から零れ、人通りのない街道を照らしている。


「あら、剣聖さん、こんな場所で座ってどうしたの ? 」


『レイン』入口前の木製の階段でオルフェウスが下を向いて、座っている。


「君は確か……」


「メイリーよ。それにしてもあなた、昼間とは大違いね」


 肩を落として、座っている剣聖には、昼間の威圧感がない。威厳があっての剣聖なので、とても残念に映っている。


「私のせいでトモが……」


「トモ兄がどうしたのよ。何をぼそぼそと……はっきり言いなさいよ ! はっきり ! 」


「死んだかもしれない……私は、何も出来なかった……」


「何であなたがいたのに、死人が出るのよ ! 」


 メイリーは、階段を駆け上がり、『レイン』の扉を勢いよく開く。メイリーの目に映ったのは、いつもと変わらぬ景色だった。


「おかえり、メイリー。ごめん、迎え忘れてた。フェルが寝ちゃって……」


「トモ、トモだよな ! 」


 オルフェウスが、紅の鎧がガシャガシャと音を立てながら、床をモップがけしているトモに、駆け寄る。


「どうしたんだよ、オルフェウス。俺が、この世にいるのが信じられないって顔すんじゃねーよ ! 」


「私のせいで、すまないっ……」

 オルフェウスは、腰を直角に折って深々と謝る。


「いやいや、さっきからどうしたんだよ ! それにしても……何でこんなに『レイン』が荒れているんだ ? もしかして、悪魔が攻めてきた ! ? んで、俺は、腹になんか喰らってダウン、そこを、オルフェウスがちょちょっとやって、フェルが俺を治療ってとこ ! ? これなら、俺の服の穴とフェルが寝ていることの辻褄が合うんだよなぁ」


 トモは、自分の考察をつらつらと述べる。その考察は事実とは異なるが、確かに、オルフェウスほどの力の持ち主を察知出来ない悪魔はいないこと以外は、辻褄があっていた。


「フェルは…… ? 」


 オルフェウスが、恐る恐る口を開く。


「寝てるってさっき言ったじゃん ! 多分あれは、エナの使いすぎだな。いや〜今回も助けられたかー。あっ、あと、寝言で俺の名前呼んでたんだよ ! 幸せ極まりないですわ」


 トモは、頭を掻きながら、明るく振る舞う。オルフェウスには、なんとも言い難い答えだったが。


「そうか……それは、良かった……。私は、そろそろ失礼するとしよう」


 オルフェウスが『レイン』を出て、城に戻ろうとしたとき、紺色の髪の少女が彼を止めた。


「お姉ちゃんのエナは満杯よ。トモ兄の言っていたことは、多分、間違ってるわ。何があったのか教えてくれるかしら ? 」


「まだ、幼い君にこんなことを言うのは変かもしれないが……君は、君のお姉ちゃんについてどこまで知っているんだい ? 」


「一つ言っとくけど、私は、子供扱いされるのが一番嫌いだわ。お姉ちゃんのことをどこまでって……それなりに知ってるつもりだわ」


「君は、とても賢そうだから、今から言う現実を、受け止めてもらえるかい ? 全て、私が悪いのだが……」


 オルフェウスは、『レイン』であったことを、メイリーに打ち明けた。自分が飛ばされる最中に見たものについては口に出さなかったが……


 メイリーは口を結んで、小さな拳をぎゅっと握る。


「どうせ、忘れてるからいいわ……」


「本当にすまない、最後に、二人には、『レイン』に来れて良かったと伝えてもらえるかな」


 そう言って、剣聖は静かに闇の中へ消えていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「まだ、お姉ちゃん起きないの ? 」


 未だに掃除をしているトモにメイリーが心配の声を掛ける。


「フェルはエナ切れなんだよ。前にもこんなことがあったから、でもエナは自然回復するから、もうすぐ起きると思うけど」


「私、見てくるから。トモ兄は、夕食作ってて」


 そう言って、メイリーは階段を上がって行った。


「俺が、夕食担当か、いつもベルセルクがやってるもんな。よーし、いっちょ、頑張りますか ! 」

 

 トモは、灰色のパーカーの袖をまくり、一人、慣れない料理に奮闘していた。







「お姉ちゃん、起きてるでしょ ! 帰ってきたよ。ってなんで泣いてるの ? 」


 フェルは、ベットに蹲りながら、めそめそと泣いている。


「私が、トモを……」


「何も覚えてないんじゃないの ? 」


「うん。だけど、起きたらトモが血だらけで、私がトモをこんな風にさせちゃったんじゃないかって」


「ううん、お姉ちゃん。『レイン』に悪魔が攻めてきたんだって。オルフェウスが全部倒してくれたのよ。そんなわけないじゃない」


「そう、なの ? 」


「お姉ちゃんが傷ついたトモ兄を治したの。ほら、トモ兄、悪いものをよく引き寄せるじゃない、霊媒体質っていうか……だから、しゃーない、しゃーない」


 落ち着いたトーンだが、それは、必死の弁明だった。


「でも……」


「全部、悪魔が悪いのよ……ほらっお姉ちゃん、トモ兄が一人で夕食を作ってるわ、先が思いやられるから、手伝いに行こう ! 」


 フェルたちが降りてきた頃には、テーブルに食事が並んでいた。


「男はやっぱり、スピード勝負 ! 」


 トモが人差し指を立てて、自慢げにしている。


 野菜を炒めたものに、肉を焼いたもの……


「「って、ただ焼いただけじゃない ! ! 」」


「チッチッチッ、わかってねぇなぁ、お嬢さん方」


 次は、立てた人差し指を横に振る。二人は、目を細めて見てくるが、そんなことは、気にしない。


「ベルセルクのは、凝りすぎてるからな。逆転の発想ってやつ ? 素材の旨みをご堪能あれ ! 」


「あれっ、美味しい ! ? 」

「トモ兄のくせに、生意気ね」


 料理は好評、食卓を囲むうちに『レイン』には、温かさが戻っていた。



 そうして、悪魔の出現ゼロでありながら、騒々しい一日は終わった。



次話は、三日後とかになるかもです。

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