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一章 12 『穏やかな朝』

「トモ兄、朝だわ、起きるのよ。」


「ふわぁ、おはようメイリー、あー首が痛い」


 パキパキと音のなる首をゆっくりと回しながら、立ち上がる。どうやら俺は椅子に座ったまま寝てしまったようだ。


「まったく、レディーの部屋で寝るなんて、品が無いわ。それと、涎を垂らしているのも、同じ屋根の下で生活する身として、見てらんないわ。あと…………」


 ゆったりとした口調で刺々しい言葉が言い並べられていく。幼い容貌でありながら、とんでもない口を持っている。最後に、昨晩はありがとうと言うあたりが可愛らしいのだが……


「メイリー、お前ってほんとに、毒舌、ひねくれ、ツンデレだな」


「毒舌、ひねくれ、ツンデレってなんなのよ、毒舌、ひねくれって悪い言葉が続いての、ツンデレって何よ ! トモ兄のことだから、さぞかし、不愉快な意味なんだわ。朝から、人を不快にするんじゃないわ。」


「まあ、大まかに言えば、可愛いってことかな」


 予想外の答えが返ってきて、メイリーは唇に人差し指を当てて、首を傾げる。どうやら、俺が、即答且つ、あまりに濁りのない声で言ったせいで、ツンデレについて審議をしているらしい。幼い子に対してこんなことを思うのは、悪辣だろうが、いつもストレートに痛いところを突いてくるメイリーが首を傾げて、困っている姿は、見ものである。


「急に、無垢な顔で話すんじゃないわ。トモ兄がどう言おうと、私は、私だからどうってことないわ。ただ、その……ツンデレが、可愛いって意味なら、それは受け止めるかしら。」


「それがツンデレ ! 」


「もうっ ! うるさいわ ! 私が指摘したことは、全部、事実なんだから、お姉ちゃんに会う前に、そのみっともない顔を洗ってくるべきよ ! それと、今日はお姉ちゃんと学校に行くわ。ベル兄が出て行ってるからトモ兄は一人ね。大丈夫か心配だわ」


「素直についてきて欲しいって言えよ ! 」


「私は、別についてきて欲しいわけじゃないわ。ただ、ほんの少し心配なだけよ。まあ、ついてきたいなら、早く支度をすることね」




 ベルセルクがいないのか……鏡の前に立って髪を整えながら、にやけている自分を見る。ベルセルクがいないということは、メイリーを送ったあとはフェルと二人きりだ。なーんて考えるとにやけが止まらない。


「ねえ、トモ」

「ひぃっ ! ? 」


 白のローブに身を包まれた小柄な少女が急に現れた。完全に不意をつかれ、恥ずかしくなり、赤面する。咄嗟に掛けてあったタオルで、顔を拭いているようにして、隠したが……ニヤニヤしていたのを見られただろうか。


「身だしなみに、気を使っているところ申し訳ないんだけど、今日は、その服、着なくていいわ。着替えてきて、メイリーが遅刻しちゃうから、三分後に出発よ」


「なんだよ、そこは、三分間待ってやる、だろ ! ? 」


「ほら、つべこべ言わずに着替えてくる ! 」


 フェルが腕を組み、頬を膨らませた、むぅーっとした顔で催促してくる。これを母性というのだろうか、なんだか母親のようだ……うちの親共が見たら、将来良い嫁になるとか言いそうな感じがする。


「っていうか、つべこべって……さくらっくまかよ ! 」


「さくらっくまって、なに ! ? 」


 急に、知らない単語が現れて、フェルは、目を丸くし、首をかしげている。そもそも、さくらっくまなんて言葉を知るはずもないのだが。


「さくらっくまっていうのは、俺がこの世界に……って違うか、なんていうんだろう」


 俺が、この世界に来たってことを伝えていいのか ? 俺を呼んだ奴の素性がわからない以上は、ペナルティーを踏まないように立ち回るべきか。


「まあ、さくらっくまっていうのは……」


「あっ、トモ、三分経ったわ」


 三分経ったと言うと、フェルは、クルリと背を向けて、

「ちょっと待ったぁー ! 答えは…………今すぐ着替えてくる ! 」






 気持ちのいい朝の風とともに、小鳥のさえずりが運ばれてくる。『レイン』の扉が軋むような音をたてながら開いた。


「お姉ちゃん、トモ兄は、お留守番 ? 」


「もうすぐ来ると思うけど……それより、メイリー、さくらっくまって何かわかる ? 」


 メイリーが首を傾げ、悩ましい顔をするのを見て、フェルは、メイリーでも知らないと察した。


「メイリー、そんなに考えてくれなくてもいいの。クマっていうのは、わかるけど、さくらってのがね〜」


「うん。でも、トモ兄のことだから、やましい言葉かもしれないわ。ほら、トモ兄の頭の中、割とピンクだし、お姉ちゃんもうかうかしないことだわ」


 あまりに、真剣な眼差しを向けられたのでフェルはクスッと笑ってしまった。


「男の人ってだいたいそんなものよ。トモはちょっと、自分の世界に入っちゃうことがあるくらいで、他のことは、安心よ」


「お姉ちゃんも、そこに気づいてたの ! 」


 人気のない街に、二人の少女の笑い声が響き渡った。




ほのぼのになりました。

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