一章 11 『少女の願い』
「トモ ! 起きてってば ! 夕食 ! 」
「おきてるぅ」
「さっきからずーっとそれよ ! そろそろ起きて ! 」
はぁ、天使の声が心地よい。こんなの余計眠くなるに決まっている。
「トモったらもう、強硬手段よ ! 」
「うげっ…… ! ? 」
ボウリングほどの氷塊が生成され、トモの腹にストンと落ちる。
急な衝撃に、目がパッと開く。
「フェル……」
魔法を唱えたからだろうか、金色の美しい髪が重力に逆らって、少しフワッとしているような気がする。何より可愛すぎる。目に入れても絶対、痛くないだろう。
そんな彼女と目が合った。幸せだ。もっと早く起きなかったことを後悔するくらい、幸せだ。なんならずっと……
「うげっ…… ! ? 」
「何ボーッとしてるの ! 言ったでしょ…………ご・は・ん ! 」
「はいッ ! 」
下に降りると、メイリーとベルセルクが席で、待っていた。二人とも無事そうで何よりだ。
「トモ兄、大丈夫なの ? 」
「ああ……」
「相棒、その様子だと姫に起こされたな。おいらも前にメイリーのぬいぐるみを作っていてご飯に遅れて散々な目にあったんだな……」
「ベル、私そんなに酷いことしたっけ ? 」
「おいらの数百を超える裁縫の針が、宙に舞って敵意を向けてた衝撃の光景は忘れるはずが無いんだな。相棒もご飯前の姫には気をつけるんだな」
「言われなくってもわかってる。二回目をくらったときは、ほんとにやばかったぜ……腹の中にものが無かったことが幸運かな。」
「トモ一度寝たらなかなか起きないじゃない。明日から、朝も起こしてあげようかな〜」
「こっちも疲れてるんだって……いや、疲れてるけど、ちゃんと起きるんでもうしないで下さい。あんなこと毎日されたら、腹筋バキバキになっちゃいます 」
「腹筋バキバキって、相棒 ! 腹筋バキバキになるのか ! ? 」
「ねえ ! 」
「「「ーーーー」」」
「ごちそうさま……私、もう上がるわ…… ! 」
しまったという表情で、口を閉ざす三人を横目にメイリーは、部屋へ行ってしまった。残ったのは、叩きつけられたナイフとフォークの余韻だけだった。
「メイリーが感情的になるなんて……久々に見たんだな……」
「じーと言い合いになっていたとき以来ね……」
「俺が見てくるよ……」
「ご飯はもういらないって、それだけ。部屋にも入れてくれなかったよ……メイリーが残したのは俺が食べるから。やっぱ年齢的にも難しいとこがあるんだよ、俺が言うのもあれだけど、あんまり気にしないであげてくれないかな」
年齢的ってのも、メイリーの素性からして、なんとも言い難いが、俺が解決すればいい問題だ。フェルやベルセルクにまで負担のかかる案件ではない。
「わかった。本当は、四人で明日からのことについて話したかったんだけどね……手短に言うと、トモは外出禁止。ベルは斧取ってきて。店はいつも通りよ。あと、注意を怠らないこと」
「えぇっ ! ? 外出禁止 ? 」
「わかったんだな。相棒はおいらが帰ってきたら、修行なんだな」
「じゃ、解散。メイリーのことだけど……」
「俺がもう一度行くからいいよ」
こうして、味気のない食事は終わった。
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風呂を上がって、水の滴る、濡れた髪をタオルで拭きながら階段を駆け上がる。
「なんて声をかけるべきだ ? 」
トモは、ドアの前で一旦躊躇したが、勢いで乗り切ると決め、ドアを開けた。ベッドの上で縮こまっている少女がそこにいた。
「なんだ、寝てるのか」
そう言って、すぐにドアを閉める。ですぐ開ける。再度開けた瞬間に、風が飛んできてトモは弾き飛ばされた。
「来て」
少女がそう呟く。
飛ばされながら、小さなガッツポーズ。作戦成功だ。まあ、端から深刻なムードで話をする気ではなかったので少しくらいの痛みは、いいとしよう。
「今の風、フェルのとはちょっと違うなぁ。なんだか、軟らかい感じ」
「そんなこと、どうでもいいわ……」
「いやいや、風を知り、土地を知り、人を知るって言うだろ。俺は、故郷でそうやって生きてきたんだぜ」
「あのさ、トモ兄は今日も死にかけたんでしょ……なんで悪魔に遭遇して、逃げなかったの ? あまりに馬鹿だわ」
「街の人が助けてって縋ってきて……最初は、逃げたかったけどさ、『レイン』として救ってあげないと、と思って……まあ、勝てそうになかったから、時間稼ぎに徹する方針だったんだけど……気づいたときには死にかけてた」
「そんな服脱ぎ捨てて、逃げた方がいいわ。いつか死ぬわ……いつか死ぬの…………………… ! お願いだから、死なないで ! 死なないでぇ」
「ーーーー」
少女は、泣きじゃくり始めた。大口を開けて泣く姿は、普段の大人びたメイリーからは、想像出来ない、年相応のものだった。
「どもにいが、わだしの知らない間に、いなくなっちゃうんじゃないがっでぇ」
「メイリー、俺はいなくならない。いつだって『レイン』にいるから、ずっとそばにいるから、もうそんな顔するな」
泣き疲れたのか、メイリーはベッドでスヤスヤ眠っている。
「幸せそうに寝るなぁ」
椅子に座って、ずっとメイリーを見ていたが、寝てからというもの、とても幸せそうな顔をしている。どんな夢を見ているのだろうか ?
「起きているときも、こんな顔をしていてほしいな……」
メイリーの寝顔を見ているとそう思うばかりだった。
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