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 さて、ついに騎士団入団試験の日がやってきました。

 屋敷の中も早朝からいつも以上に慌ただしいですよ。皆さん忙しそうです。

 私?

 私は今、書斎で朝ティーをしています。

 本当は試験を見に行きたかったのですが、危険だからと書斎に閉じ込められている訳です。


 ちなみに、試験受験者は予想以上に多く約3000人。つまり倍率十倍である。

 試験方式はまず、100人ずつ、30組に分かれて、予選を行い。それに勝ち残った者たちで本選を行うというもの。

 もちろん、試合の勝敗が合否に直結するわけではないが、勝ち残った方がアピールの時間が多くなり、目に留まる。だから全く無関係という訳では無いのだ。


 予選の方式は、一時間フィールドに立ち続けたものが勝ち残ると言うバトルロワイヤル方式。殺傷力の高い真剣とかは実弾は使用不可で、無料で木刀などを貸し出すことにしました。


 予選会場は第一、第二兵舎の二つ。それぞれに六つのフィールドを作ったから、一度に12組、計三回のサイクルになる。

 第一回が9:00~10:00。第二回が10:00~11:00。昼を挟み、第三回を13:00~14:00と予定している。


 それぞれの会場には試験官一人と副試験管二人を配し、試験官はもしも時に動ける戦闘力の大きな6人を選んだ。


 A・Bフィールド試験官。ババローネ・アンゴラウス。

 C・Dフィールド試験官。デイル・ホーパー。

 E・Fフィールド試験官。ノエル。

 G・Hフィールド試験官。グレン。

 I・Jフィールド試験官。エリック・アンゴラウス。

 K・Lフィールド試験官。ポポ・ポポーロ。


 本当はレインハルトを入れたかったのだが、今日は外せない用事があるとかで、断られてしまったのだ。

 残念である。

 あと、デイル執事長は実は戦える執事だったらしい。


 そして、私は、ここで現場の連絡を待つという社長ポジション。

 ちなみに、現場との連絡はこのピンク色の水晶。―――通信ダイヤルと言う魔法具で行うてはずだ。


 そして今9:05分だから暫くは暇になるなと思い、ミランダに頼んで朝ティーを始めたところである。

 私は、白銀性のティーカップを口に持ってきて、優雅に一服―――――は出来なかった。


 『こちらノエルです!』

 「何か問題でもありましたか?」

 『いえ、問題どころではありません!E会場、予選通過者が出ました!』


 (ちょっと待った!まだ5分しか経ってないのだけど!五分って言ったら、一分が60秒だから300秒。一人頭三秒で倒したってことになりますけど!

 人間じゃないよ!

 何それ人間じゃないよ!)


 ・・・・・落ち着こう。

 取り敢えずは落ち着いて事実を受け止めよう。

 それに、よくよく考えたら、鉄を木刀でぶった切る男がいるんだ(←レインハルト)。五分で100人切りとか全然可愛いものじゃないか?

 よし、落ち着いた。落ち着いたぞ私。


 「―――――それで、誰が通過したんですか?」

 『えと・・・アルフォンス。アルフォンス・レーバーです。』

 「は?ア、アルフォンス?今アルフォンスと言いましたか?」

 『え、ええ。どうかなされましたか?』


 どうかなされたって?そりゃ、どうかなされるわよ。

 アルフォンス・レーバー。

 ガンガンソードの主人公の名前ですから。

 まあ、同姓同名の全くの別人と言う線も考えられるけど。


 「――――ノエル。参考までにどんな外見か端的に教えて頂戴。」

 『はい、黒髪黒目の東洋人風の男ですね。身長は170程度。恐ろしい剣技でした。』


 うん、間違いない。アルフォンスだ。


 「ありがとう。時間取らせて悪いわね。二回目は予定通りの時間に始めるからそのつもりで。あと、今回敗北した受験者には救済措置を取るわ。三回目の時一緒にやって頂戴。」

 『畏まりました。それでは失礼いたします。』

 「ええ、頑張って!」


 私は通信を終え、ふうとため息を吐く。

 いきなりで慌ててしまったが、落ち着いて考えると悪い話じゃない。

 アルフォンスは主人公だ。

 つまり、主人公補正とかついてる可能性が高い。仮に付いてなかったとしても、「大器晩成」の器であることは間違いない。

 何より、私はアルフォンスの抱える闇―――不治の病の妹―――を知っている。その治し方も。

 それをうまく使えば、アルフォンスに大恩を売れて、忠実なコマに出来るはず・・・。悪くない、悪くないわね。

 出来ればもっと早く来て欲しかった、とか言う思いもあるが、取り敢えず今は置いておきましょう。


 私は緩みそうになる口元を隠すように、ティーカップを口に運んだ。

             ・

             ・

             ・

             ・

 『こちらAフィールドのババローネ。ジャンヌ・ダールク予選通過です。』

 『こちらCフィールドのデイル・ホーパー。倫道 秀虎予選通過しました。』

 『こちらF会場のノエル。赤羽 友加里予選通過しました。』

 『こちらグレン。Hフィールド、ユリウス・マーロン予選通過。』










 俺の名前はグリシア。ノルワルゼ商会会長の三人息子の一人、ドナルド様の側近だ。

 いわゆる、将来を約束されたエリートと言うもの。

 そんな俺は今、ドナルド様からある指令を受けている。すなわち―――

 アルバート・A・エリザベータの殺害。

 最も俺が殺すわけじゃない。俺はただの伝令役。結果の一部始終をドナルド様に報告するのが俺の任務だ。もう少し正確に言うのなら、俺と俺の同僚ダックの任務だ。

 二人で行け!と言われたとき

 たかが伝令に二人も必要ないだろと思ったが、俺達は素直に従った。

 ドナルド様の堪忍袋は何分小さすぎる。下手な忠言など身を亡ぼすのだけだと経験で分かっていたのだ。


 そんな事情があって、今俺たち二人は暗殺者と供に狙撃ポイントまで来たのだが、


 「おい、こんな遠くで本当に当てれるのか?」


 俺は金髪の――――小学生くらいの―――少女に暗に不可能だと言い聞かせる。

 どう考えても遠すぎる。

 肉眼は愚か、双眼鏡を使っても何とかしか見えないほどの距離。

 数値にすれば、数キロと言う単位。

 しかも、狙撃手は非力なガキ。

 ドラゴンにゴブリンが挑むようなものである。


 誰もが不可能と思う当然の帰結だが、言われた少女はあっけらかんと答えた。


 「射程圏内よ。」

 「射程圏内って、見えんのか。そもそも。」

 「見るんじゃないわよ。感じるのよ。肉眼に頼ってるようでは一流は名乗れないわよ。」

 「そうか・・・。そこまで言うなら、信じよう。」


 言ってることは一つも理解でき無かったが。このガキ―――ヘーゼル―――は、あのミスマダムが差し向けた切り札。もしかしたら・・・、と言う考えが頭をよぎったのだ。

 それ故俺はあえて深追いせず、双眼鏡で狙撃対象を探した。


 「あれか・・・。」


 書斎のような場所にメイドと二人でいる。

 都合がいいことだ、と俺は思う。

 あのウザったい程側を離れないレインハルト(番犬)が居ないのが特にな。

 またと無いチャンスだ。

 グリシアの口が歪に歪む。そこには人を殺すことへの罪悪感など微塵も浮かばない。ただ、この任務で得る自身の利益に愉悦の笑みを浮かばせるだけだ。


 「紅茶を飲むみたいだぞ。」

 「ああ、殺すならここ・・・・待て!」

 「あ?どうしたグリシア?」

 「あの女・・・カップの水面越しにこっちを見て笑ってやがるぞ。」


 そう言われ、ダックもよくよく見てみると確かに笑っている。それも、紅茶が美味いとか、そんな綺麗な笑いじゃない。まるで人間の命を握り締めてやったと言うような、豚貴族が奴隷に向けるような醜悪な笑みと通じる何かがあるのだ。

 少なくとも普通の貴族の令嬢が紅茶をたしなんでする笑みではない。


 ((いや、気のせいだ。この距離で気づけるはずがない。))


 「どうしたのよ?私は何時でも行けるわよ?」

 「お、おう!じゃあ、もう殺しちまえ。」


 ヘーゼルの頼もしい言葉に、ダックが裏返った声で答え、ヘーゼルはそれに引き金を引くことで答えとした。

 無音の内で放たれた銃弾は恐ろしい速度を持って対象へと吸い込まれる。

 予想以上の精度と威力にグリシアとダックの表情は勝利を確信したものへと変わる。

 これだけの速度、これだけ離れた場所からの狙撃、その上音まで失くした。気づけるはずがな―――。


 「馬鹿な!」


 紅茶のお代わりを頼むふりをして避けやがった!

 やはり気づいていたのだ。

 その上でわざと挑発してきたのだ。


 ((いや、落ち着け。そんな事出来るはずが無い。偶然偶々紅茶が空になっただけだ。))


 二人は大きく息を吐き、落ち着きを取り戻す。


 ヘーゼルは二人のように外面に出してはいないが、驚愕は二人以上であった。

 先の射撃に不備は無かった。むしろ自身の最善に近いものだったといえる。


 (それを・・・、あんなふざけた避け方で!)


 ただのギャラのいい仕事かと思っていたが、此処まで馬鹿にされてはスナイパーのプライドにかかわる事案である。もはや許すことは出来ない!


 この時点でヘーゼルはエリザベータを排除する対象から、敵へと認識を切り替えた。


 息を吐き、高まった気持ちを落ち着かせる。暗殺に置いて感情の高まりは邪魔でしかない。しかして、ここでやるべきは、まず心を落ち着かせることだ。


 「「「・・・・・・・」」」


 先程とは、全く違うヘーゼルの纏う空気に、ダックもグリシアも自然と口を閉ざす。

 死合前の緊張感。それを数倍にも濃縮したような空気が流れ。時間が止まったかと思うほどの静寂の中、ヘーゼルは指をわずかに動かし、――――殺意も音も存在そのものまで希薄とした――――鉛が放たれる。

 それは、どういった仕組か。加速度的に速度を増し、人間の反射速度を優に超えた速さで突き進み、鉛は容赦なくエリザベータの体に直撃。

 血吹雪と悲鳴の確信に、ヘーゼルは文字通り愉悦の笑みを浮かべ――――


 「―――――――そこまでだ!」


 剣圧一つで銃弾を灰に変え、

 屋根を蹴破り、部屋の中央へと殺意の具現が降臨する。

 その殺意は、圧倒的な鬼気を持って室内を席巻。明確な恐怖の二文字を場の三人に突き付けた。


 「何とか間に合ったのかな?ところで―――――」


 銀髪が揺らめき、一歩を踏み出す。

 向かう先は、ライフルを捨て、拳銃に手を掛けたヘーゼル。

 逃げようとする二人の雑魚を、足を切り刻むことで止め。さらに一歩。


 ダックもグリシアも、ヘーゼルすら恐怖を与える剣気を奏で、声すら奪う圧力で、紅蓮と空色の瞳が、ヘーゼルを捕らえた。

 ただ純粋に『殺意』を乗せたオッドアイは、端正な顔を怒りに歪ませ。


 「――――ドカスが!!俺のエリザにふざけたことをしてくれたな!!!」


 輝く霊剣に殺意を乗せて振りぬいた。


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