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009

009 準備


 翌日。

 目を覚ます。

 起きたら全てが夢でしたなどと言う都合のいい展開は無く、屋敷の中を朝から忙しそうに使用人が行きかっていた。

 私は今、昨日執事長にまとめさせた被害報告書と睨めっこしていた。


 ―――――被害報告書―――――

 1・父の書斎・図書室・寝室が徹底的に荒らされていた。

 2・本邸の周囲の庭が丸焦げ。

 3・別邸の被害は特になし。

 ・----------------------

 ・---------------

 ・-------

 ――――――――――――――――――――


 この報告書を読んで、疑問に思っていたことが二つある。

 一つ目は。

 あれだけの―――全焼しても可笑しくない程の―――火事が起こったのに、本邸の被害があまり多くない。ほぼ半焼か、それ以下である。

 どうしてだ?

 と、執事長に聞いてみると。


 「屋敷には火災・水害・地震・突風・雷、あらゆる被害に対しての対抗魔術が掛けられております。むしろここまで燃やされたと言うことが、相当な規模の魔術の行使があったと言うことでしょう。」


 と、言うことらしい。

 相変わらずアルバート家の警備力はパネェ。


 二つ目は。


 「この27・料理人がいなくなったというのはどういうことかしら?」


 「死んだ」ならまだしも、「居なくなった」とは少しおかしい。

 そもそも厨房の被害はゼロだった。

 全滅などしないはずなんだ。


 「ああ~、非常に申し上げにくいのですが・・・、料理人総勢100人はですね・・・、昨日夜逃げされました。」

 「・・・・・」


 言葉が出ないとは正にこの事だ。

 夜逃げ?え?・・・百人いて全員?え?・・・え?


 「追いましょうか?」

 「い、いえ、それには及ばないは。これ以上悪い噂は立てたくないし、追っ手を割く余裕も無い。ここは潔く諦めましょう。」


 屋敷の使用人・・・ミランダ辺りにでも作らせておけばいいだろう。


 「料理は・・・そうね。ミランダあたりか、手が離せないようなら私が――――」

 「いえ!それには及びません!料理などエリザベータ様の御手を煩わせることではありませんので。」

 「そう?一回作ってみたかったのですけど・・・・。」

 「何卒!何卒!我々にお任せくださいませ!」


 執事長の顔色が悪くなっているように見えるのだが、大丈夫かなぁ?

 まあ、確かに昨日からほぼ不眠不休で働いてるわけだし・・・。

 ここはやはり私が一肌脱いで、使用人のヤル気を上げよう!


 「遠慮しなくていいわよ。私も皆のために何かしたいの。」

 「ギブギブギブギブ。マジ死ぬマジ死ぬマジ死ぬマジ死ぬ。」

 「だ、大丈夫ですか?デイル。」


 ただ事ではない様子だ。


 「エ、エリザベータ様。心配には及びません。ああ!そう言えばミランダの奴が料理を作りたいとか言っていましたな。ここは是非、ミランダめにその機会をお与えください。ええ!そう!それが良いですぞ!それが良いですぞ!」

 「そ、そう、そこまで言うのなら。ミランダに任せようかしら。」

 「慈悲深きご配慮、ありがたく思います。」


 デイルよ、何故死線を潜ったような笑みを浮かべる。


 「まあ、それは置いといて・・・。話は変わるけど、ここ最近の領地の収支報告書全てと、現状の行政の仕組みをまとめて持ってきてくれる。」

 「畏まりました。しかし、どういった御用で?」

 「恥ずかしい話だけど、私はこの領地がどうなっているとか、行政の仕組みとか、全く知らないのよ。だから、それを読んで勉強させてもらうわ。」

 「なるほど、そう言ったことならばすぐにでも用意いたしましょう。」

 「頼むわ、デイル。これからも頼ってしまうことが多いと思うけど、よろしくね。」

 「勿体なきお言葉です。」


 執事長を下がらせ、代わりに後ろで護衛に勤しんでいるレインハルトに声をかける。


 「レインハルト、貴方確か市井の出でしたね。」

 「その通りです。」

 「そう、それなら屋敷の改修がしたいから、業者を呼んできてくれる。今日の昼あたりに時間を空けておくから、その時に来れるように。人手が必要ならグレンを連れて行って構わないわ。」

 「・・・・御意に。」


 レインハルトは護衛として、一瞬の逡巡を見せたが、今の状況では仕方ないかと分かってくれたらしく、渋々同意してくれた。


 「グレン!行きますよ!」


 グレンを連れ、レインハルトが部屋を出たのを確認して、私も一息つく。

 レインハルトのことは嫌いでは無いが、一日中見張られていると肩も凝るのだ。

 これが普通にだらっとできれば違ったのだろうが、令嬢として振舞わないといけないから、余計に肩がこる。

 少しばかりくつろぎたい気分である。


 エリザベータは手元にあった使用人呼び出し用の鈴を鳴らし、ミランダを呼んでもらう。


 「お呼びでしょうか、エリザベータ様。」


 オレンジの髪を後ろで一つにまとめた壮年のおばちゃん。

 ミランダを一言で表せばそんな感じだ。

 前世のお母さんと同じくらいの年齢で、勝手に親しみを感じているエリザベータ。

 そして、こんな身勝手な理由で呼び出したことに罪悪感を覚えつつも、鷹揚に話を切り出した。


 「ええ、お風呂に入りたいのだけど、準備して下さる?」


 「お風呂?とは・・・何でございましょうか?」





 私の名前はデイル。

 元執事長で、昨日再びその椅子に座ることになった老いぼれだ。

 まず、執事長の仕事とは何かについて説明しておこう。

 そのの仕事は多岐にわたる。

 執事とメイド、使用人の統括。政務の手伝い。主の予定の調節、把握。全て執事の仕事だ。

 まあ、儂も年だ。全盛期ほど動くことは出来ないだろうが、嘗てはスーパー執事と言われた身。孫のように可愛がったお嬢様の危機だ。身を粉にして働くとしよう。


 さて、儂の仕えるアルバート家だが、この度大変なことになった。いやマジで。

 賊の侵入を許し、前代未聞の被害を出したのはつい昨日の事だ。

 兵士、使用人含め、多くの仲間が死に、料理人はもれなく全員いなくなり、

 儂はお嬢様を絶対に守ろうと心に誓い、被害報告書をお嬢様に提出した。

 そんな時爆弾が投下された。


 「料理は・・・・そうね。ミランダあたりか、手が離せないようなら私が――――――」


 死刑宣告である。

 失礼かと思ったが、決して最後まで言わせること無く言葉を遮る。

 皆の命と儂の命を守るため、仕方ない選択なのじゃ。

 お嬢様の料理は視線を彷徨うほど不味いのだ。


 その後何とかお嬢様を説得し、勝利を勝ち取ることが出来た。



 さて、長話もこのぐらいにしておこう。

 はやく収支報告をまとめなければならないしの。

 先程仕事を頼んでおいた騎士の来訪に、動かしていた手を止める。


 「それで、どうであった?」

 「デイル様、やはり収支報告書も無くなっております。修復は不可能かと。」

 「そうか、ご苦労。」


 儂は部下の兵士を退出させ、ふうと溜め息を吐いた。


 (やはり、アリアに聞くしかないかのぉ。身重と聞いていたから心苦しいが・・・)


 アリアはアルバート家に仕えるメイドの一人。

 先月出産したばかりと言うことで、別邸で産休を取っている若妻である。勿論儂のじゃないぞ!


 セバスは別棟に住む、子持ちメイド―――アリア―――の元に足を運んだ。

 本邸から徒歩30分。子育てのために作られた、チャイルドハウス。その3階にアリアの部屋はある。


 「アリア殿、暫しよろしいか?」

 「あら、デイル様。お久しぶりです。」


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