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007

 007


 グレンダルの奴隷契約から一時間、あらかたの確認を終えた私たちは、主要人物を集めて、現状の確認と今後の行動について話し合う場を設けた。

 話し合いの場に選んだのは第四謁見室。

 第一から第三までの物と違い、かなり簡素な作りである。

 しかし、簡素とは言ったが、それは他三つが豪華なだけで、普通の平民は勿論、下級貴族からしてみても豪華すぎる調度がそろっていた。

 ちなみに、第一謁見室が王族や侯爵用、第二謁見室が貴族用、第三謁見室がそれのスペア、そして第四謁見室がスペアのスペアである。


 今この部屋に居るのは7人。

 軍部の統括をしている「軍曹」ことババローネ。

 アルバート家の抱える暗殺部隊の副長、「十闇」ノエル。

 メイドと執事が一人づつ。

 最後に屋敷の主である私とその後ろに従者のレインハルト、(髪を染めた)グレンダルがいる。

 グレンダルは私の命を救ってくれたレインハルトの友人と言うことで無理やり従者として認めさせた。

名前はグレン。年は12歳。平民の孤児と言う設定だ。


 エリザベータは四人掛けのソファーにゆったりと座りながら、目の前で直立不動に立つ4人の役職と名前を頭で整理する。

 そして、満を持して、口火を切った。


 「それでは被害報告から聞かせて頂戴。まずは軍部・・・ババローネ、頼みます。」

 「御意に。」


 アメリカ軍人風の色黒の巨漢が一歩前に出て、一礼をする。


 「軍部の被害ですが、かなり不味いですね。正確な数値は分かりませんが、残っているのは40人・・・多くとも50人と言ったとこでしょう。」


 アルバート家の抱える騎士は400人。それが50人になったのだ。ほぼ全滅と言っていいだろう。

 これは不味い。頭痛がする。

 こんな状況じゃ完ぺきな警備は愚か、並の警備すら難しい。


 「そこらへんについては後で考えましょう・・・。次は、ノエル。被害の報告を。」


 黒いローブを被った、仮面をつけた男?が前に出る。低身で細身と言う感じだ。


 「暗殺部隊の被害ですが、軍部ほどではありませんが芳しいとは言えません。今領内に残っているのが30人程度、他領に放っている者もいれれば50人はいくはずです。」

 「そう・・・。団長・・・エリメスさんは無事なの?」


 その言葉にノエルは悔し気に手を握る。


 「・・・・いえ、団長は敵の手に罹り・・・・」

 「・・・・そうですか。エリメスが・・・・。」


 軍部に続き、暗殺部隊も大きな被害を出しているということにエリザベータは再び頭痛に襲われる。

 昨日から思っていたが、この異世界転生は無意味に難易度爆上げしすぎだ。

 前世から神なんてものは信じていなかったエリザベータだが、流石にこれは「神」を呪わずにはいられない。

 頭の中で神に対する罵詈そうげんを一頻り終え、エリザベータは残りの二人に視線を向けた。


 一人は燕尾服を着た老年の執事―――デイル―――。白髪に、整った口髭のある穏やかそうな雰囲気の人である。元執事長で、今は引退して、別棟で老後を楽しんでいたらしい。

 もう一人はメイド服を着た壮年の女性。可愛らしいというよりは強そうな外見だ。

 

 「それでは最後に、デイル、ミランダ。被害の報告を。」


 デイルとミランダも他二人と同じように前に出て、恭しく一礼する。


 「メイドですが生存者は私と産休を取っていたアリアしかおりません。」

 「執事部隊も今のところ生存者は確認出来ていません。」

 「え?・・・」


 自分の耳が信じられない。

 アルバート家は伯爵位を持つ大貴族だ。当然執事やメイドも数もかなりいる。それが全滅。悪夢としか言いようがない。

 エリザベータは僅かな可能性にすがるように、聞き返す。


 「ご、ごめん。もう一回だけ言ってくれる?」

 「執事もメイドも私どもとアリアを除き、全滅に御座います。」


 答えたのはデイルだった。

 それはエリザベータの望んだ言葉では無かったが、彼の顔色を見るに、冗談や早計では無いことは明らかだ。


 認めねばならない。


 「・・・デイル、ミランダ。貴方達だけでも無事でよかったです。」


 エリザベータは重くなった空気を振り払うかのように、笑顔を作る。

 しかし、内心の不安が無くなる訳では無い。

 今の状況を一言で言ってしまえば「最悪」だ。

 アルバート家の兵力はほぼ崩壊と言っていいほどのダメージを受け、警備網は消えたと言っていいだろう。

 その上王国内外に敵はごまんといる。

 今襲われたら自分は逃げられるのか?

 仮に敵が来なかったとして、父も母もいなくなった現状でどうやって生きる?

 止めどもない不安がエリザベータをどくろのように渦巻いていく。

 もっと早く気づいていたら、この悲劇は起きなかったかもしれないのに。

 15年・・・なぜ自分は思い出せなかったのだと後悔が募る。


 ―――――はあ、今考えても仕方ないわね。もっと建設的なことを考えましょう。

 そう自分に言い聞かせ、顔を上げると、4人の部下の身体を震わせていた。


 (え?なになになに!?もしかして不味いこと口走ってた?)


 エリザベータは内心の焦りを感じさせないように、努めて冷静な声を心がける。


 「皆さん、現状把握は終わりましたので、次はこれからどうするかについて検討しましょう。今日は無礼講です。意見がある方は遠慮なしに言ってくださいね。・・・それではレインハルト。先程調べたことを皆に教えてあげて。」


 レインハルトはエリザベータに一礼すると、真剣な面もちで話し出した。


 先程調べたことと言うのは勿論グレンダルに聞いたことだ。


 今回の首謀者は誰?・・・・A.分かりません。

 直接の依頼者は?・・・・・A.ファームと呼ばれている集団です。

 目的は?・・・・・・・・・A.分かりません。

 アルバート家にはどうやって侵入したの?・・・・A.ある偉い方の手引きで。

 他の暗殺者はいる?協力者は?・・・・・・・・・A.フリーの暗殺者が数人、後は統率の取れた兵が複数。

    :

    :

    :

 「――――――と、以上です。」


 レインハルトは言い終わると軽くお辞儀をして、再び元の位置に戻った。

 話を聞いていた四人は一様に難しい顔をしている。

 僅かな沈黙が流れ、口火を切ったのは老年の執事、デイルだった。


 「ふむ、手引きした偉い方ですが心当たりがありますね。」

 「ほお、と、言うと?」


 ババローネが相槌を打つ。


 「ええ、知っての通りアルバート家の警備は頑強です。いかに兵力を用意したとしても、屋敷に掛けられた魔術結界をどうにかしなければ入ることすら出来ません。そして、我々すべてに全く気付かれずに結界を解くことは不可能と言えるでしょう。」

 「だから、それは手引きがあったんだろ?」

 「その通りです。しかし、ここで問題となるのはアルバート家の魔術結界は一ヵ月に一度変更されると言うことです。つまり、分かりやすく言えば、この一ヵ月の間にアルバート家へ複数回訪れた人間の可能性が高いと思われます。」


 私は成程!と驚きの声を上げる。

 そして、内心アルバート家の警備の厚さにも驚きの声を上げていた。


 ―――――――――『魔術結界ドーム


 ガンガンソードの世界でSSRのアイテムとして多くのプレーヤーを救ってきた便利アイテムである。

 かなり希少なアイテムで、エリザベータもガチャ出だすのに何回ガチャを回したものか・・・・。

 しかし、それをやるだけの価値はある超アイテムである。

 効果は単純。味方プレーヤー以外の侵入を制限すると言うものだ。

 そしてこの縛りがかなり強い。

 設置できる場所が決まっている代わりに、設置してしまえばほぼ不落の要塞となる。

 もしかしなくとも、これで二次災害の心配は無くなった。


 まあ、内心の感動はさておき、話を戻そう。


 「デイル、一か月の間に訪れた回数と理由は分かるかしら?火事で書斎が燃えてしまったのだけど・・・。」

 「問題ありません、全て記憶しております。」

 「そう、流石ねデイル。では、説明してくれる?」

 「畏まりました。まず、この一ヵ月に・・・正確には20日ですが、アルバート家に複数回来られた方は4人おられます。一人はレーヴェン子爵、回数は2回、理由は事業の拡大に当たり、資金の融資。二人目はコレーレル男爵の令嬢、回数は4回、理由はエリザベータ様の陣中見舞い。三人目はノーべル伯爵、回数は2回、理由は、こちらもエリザベータ様の陣中見舞い。最後がノルワルゼ商会、回数が3回、理由は商品の納入ですね。」


 レーヴェン子爵に、コレーレル男爵、ノエル伯爵、ノルワルゼ商会、か・・・・


 うん、分かってはいたが、一人も分からん。

 エリザベータの知識は異常に少ないのだ。

 参ったぞー、と思い内心頭を掻いていると、それに気づいてレインハルトが耳打ちしてくれた。


 (レーヴェン子爵は事業に成功して、子爵ですがかなりの財を築いていると聞いております。旦那様との関係も良好だったと・・・)

 (事業の融資って言ってたけど、アルバート家は直接関係してないの?)

 (その筈です。)

 (それじゃ、コレーレル男爵の令嬢は?)


 なぜかレインハルトの表情が強張る。

 その顔からは負の感情が見受けられるが、明確にそれが何なのかはエリザベータには分からなかった。


 (レインハルト?聞いてますか?)

 (え、はい。聞いております。)

 (どうしたの?歯切れが悪いけど?)

 (お嬢様・・・本当に憶えていらっしゃらないのですか?)

 (え・・・・・)


 なんだろ?覚えてないと不味い人だったのか?

 コレーレル、コレーレル、・・・・。どっかで聞いたことあるんだけどな~。

 だめだ。分からん。


 (ごめんなさい。熱のせいか記憶があいまいで・・・)


 私は、それらしい顔を作って、雰囲気で押し切ろうとしたが、

 なぜかレインハルトは、見ていられないという風に顔をしかめた。

 そして、幾何かの沈黙の後、


 (・・・・コレーレル男爵はレオナルドのクズ・・・もといカスの婚約者に御座います。)

 (レオナルドのクズ・・・もといカスの婚約者?)


 え?そんなにクズなの?!

 自分と名前が似ているから、同族嫌悪とか?

 そこでふと思い出す。

 どうして今まで忘れていたのかと言うほど鮮明に。


 そう、もう忘れている人もいるかもしれないが、レオナルドは私の”元”婚約者だ。

 つまり簡単に言うと、昔の女と今の女と言うことだ。

 なるほど、これは言いにくい。


 (大丈夫よ、レインハルト。あの人の事ならもう吹っ切れているわ!)


 実際は吹っ切れてるというよりは、考える余裕が無いというほうが正しいが・・・。

 それにしても、昔の女のところに陣中見舞いとか、何を考えてるんだコレーレルさんは。

 いや、今は良いか。


 (話を戻しましょう。レインハルト、ノエル伯爵はどういった方で?)

 (ノエル伯爵は旦那様と旧知の仲にあらせられた方です。爵位も年齢も同じと言うことで、昔から仲が良かったと仰られていました。―――――ノルワルゼ商会については大丈夫でしょうか?)


 私は返答に困った。

 エリザベータの記憶にもそれらしいものはある。何回もあってきた。

 しかし、エリザベータの認識では商会は自分の欲しい物を持ってきてくれる便利アイテムぐらいでしかないのだ。


 (ん~、一応聞かせて頂戴。)

 (ノルワルゼ商会はこのアースラーン王国の二大商会の一つ、主に家具や調度品を扱っている大商会です。)


 私は、ありがと、とレインハルトに相槌を打ち、レインハルトを下がらせる。

 その後は、エリザベータは時折相槌を交えながら、四人の議論に耳を傾けるだけに努めた。

     :

     :

     :

 約一時間後。

 あらかたの現状を把握し、議論も煮詰まりだしたので、エリザベータはパンと手を叩き皆の注目を集める。

 この一時間で大方の頭の整理とこの後の計画について、エリザベータなりに決めることが出来た。

 エリザベータは「今回はこのくらいで良いでしょう。」と、終わりの指揮を執り、4人を見回し、


 「それじゃあ、これからの事について伝えておくわ。

ノエル、貴方は「影」を使って、レーヴェン子爵、コレーレル男爵、ノーベル伯爵の3家の周りを調べ上げて頂戴。」

 「畏まりました。必ずやご期待に添う情報をお持ちします。」


 「期待してるわ。―――次は、軍曹。貴方は市井に騎士団員募集の触れ込みと、その準備をしてくれる?募集人員は300人程度、種族や出身の規定は特には設定しなくていいわ。」

 「ほ、本当に宜しいのですか?」

 「宜しいわよ。色好みしている余裕なんて私たちにはないでしょ。」


 ニコリとほほ笑むと軍曹は渋々ながら納得してくれた。


これは別に軍曹が差別偏見を持つ人間という訳では無い。特権階級にいる人間は身分や出で立ちを気にするものなのである。

逆に、こう言ったことを気にしない人間はこの世界の貴族社会では前衛的に過ぎる。

そのことを苦慮しての言葉だ。

 最も、300人も身元確かなものを直ぐに入れるのは不可能であるが・・・。


「それじゃあ、デイル、とミランダだけど・・・デイル・・・」

 「お気遣いは無用です。この状況で一人余生を楽しむなど、そのような事をすれば儂の神経が擦り切れてしまいます。」

 「くすっ、そう。それじゃあ、遠慮なく働いてもらうわ。デイル!ミランダ!」

 「「御意」」

 「多分今回の事で私は近いうちに王都に呼ばれると思うの。だからその時のためにミランダは礼儀作法を教えて頂戴。デイルは私の補佐を頼みます。」

 「「畏まりました。」」


 私はそれに鷹揚に頷いて、再び4人を見回した。

 初心表明演説では無いが、意気込みを口に出しておくのは大切だと思う。

 


 「――――最後に一つだけ。今回の事件で父は死に、母は7年前に亡くなっています。思う所はあるかもしれないけど、これからは私をアルバート家当主として考え、私の――――――――」


―――――――言葉はアルバート家当主の言葉と思い行動してください。・・・


そう続くはずのエリザベータの言葉は、突然開かれ、転がり込むように入ってきた兵士の叫び声に打ち消された。


「エリザベータ様!ミ、ミカエル・グレンフォード様がお見えになられました!」


*************************************


 ミカエル・グレンフォード。

 アースラーン王国の4侯爵の一つ、グレンフォード家の出身にして、国王ユーリー・ロンゲルゼ・F・F・デ・アースラーン24世の護衛騎士も務める壮年の男性。王国最強の剣士でもあり、まさしく国王の懐刀と言う存在だ。


 どうしてそんな人がこんなとこに・・・・。

 てか、今来なくてもいいだろ!

 内心、怒りと驚愕が去来し、どんどん顔色が悪くなるエリザベータ。

 しかし、どんだけ内心で怒ろうと、驚こうと、相手は侯爵家、出迎えない訳にはいかないのだ。


 「デイル、謁見室に通しておいて頂戴。粗相のないようにね。ミランダ、侯爵家に会うのにふさわしい服を見繕って。他の人たちはさっき言った事を始めといてくれる?」


 一通り伝えることを伝え、エリザベータは席を立つ。

 向かうのは自室の化粧室。

 貴族と会うのだ、連日の高熱で碌に身整理など出来ていない。流石にこの状態で合う訳にはいかないだろう。


 エリザベータは足早に屋敷の中を走り、自室へと入る。

 ぐるりと部屋を見渡して化粧机を探し、急いで化粧を済ませよう化粧棚を開けて、何が何やら全く分からないことに気付いた。

 親に甘やかされて育ったエリザベータは着替えも、化粧も全てメイドにやらせていたのだ。


 「参ったな、無駄に種類が多すぎる。」


 2、3個なら良かったのだが、棚にぎっしりと並べられている。これでは試しに見てみようなどしたら日が暮れてしまうぞ。


 「しょうがない。これもミランダにやってもらいましょう。」


 自分の無知さにほとほと嫌気がさすも、仕方ないと早々に割り切って、ミランダの到着を待つことにした。


 数分待っているとミランダが2つのドレスを持ちやって来た。

 一つは漆黒のドレス――いわゆるゴスロリファッションのような物。もう一つが深紅のドレスだ。両方とも裾が長く、襟、背中、胸元の露出が多い。

 前世で読み漁った知識が正しければ、イブニングドレス(女性の夜間(18時以降)の正式な服装)と言うものだろう。

 まあ、正式だから持ってきたというよりは、エリザベータは自分のスタイルに並々ならぬ自信を持っていた故、体のラインを強調する服を好んで着るのだ。


 「エリザベータ様、どちらがよろしいですか?」


 「右の方でお願い。」


 エリザベータが選んだのは漆黒のゴスロリ風のドレス。

 赤いドレスが嫌いという訳では無いが、親が死んだばかりなのに派手なドレスを着る気にはどうしてもなれなかった。


 「それじゃあ、後はお願い。」


 その後、ミランダに着替えと化粧をしてもらい、レインハルトとミランダを連れて、第一謁見室へと向かった。

 扉を開けると一人の男がソファーからスッと立ち上がる。


 「やあ、突然すまない。私はミカエル・グレンフォードだ。」



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