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006話

006


 レインハルトは部屋に片足を踏み込んだ状態で固まっていた。私もレインハルトを見ながら固まっていた。

 私の手には口から何か液を――いや、回復薬を――垂らした美少年が抱かれている。

 恐れていた事態が起きてしまった。

 それも一番見られたくない相手に(←護衛騎士だから常に一緒に居ると言う意味で)

 客観的に見て、最早言い逃れは出来ない状況。

 何とも言えない沈黙が流れ、初めにそれを破ったのはレインハルトだった。


 「な、何のプレーですか!?」

 「プレーじゃね!!」


 私は息を吐き何とか落ち着きを取り戻すと、無い頭で必死に弁解を考える。

 流石に、気絶した少年を襲う悪女と思われるのは勘弁願いたい。

 最も考えても分からなかったので、事実をそのまま伝えることにした。


 「―――――斯く斯く然然でありまして・・・。分かりましたか?レインハルト?」


 レインハルトは数秒の沈黙の間、言葉をかみ砕くようにして、


 「・・・・・なるほど。そう言った事情でしたか。先程は取り乱してしまい申し訳ありません。エリザベータ様がついに一線を越えてしまったのかと思い、取り乱してしまいました。」


 レインハルトは、そこで言ったん息を吐くと真剣な面もちでエリザベータを窺う。


 「エリザベータ様。理由は分かりました。しかし、その者は外見は子供ですがS級犯罪者に名を連ねる極悪人です。生かしておいては危険です。殺すことを具申いたします。」

 「別に大丈夫よ――――」


 グランダルは典型的な近接戦闘キャラ。オリジナル武器さえ与えなければ大した脅威は無い。

 とは言え、これは全て前世の知識。言ったところで分からないだろうが・・・。


 「―――――貴方が居れば何の問題も無いでしょ?それともグレンダルには勝てないかしら?」

 「そんなことは、ありませんが・・・。」

 「なら、何も問題ないでしょ。」

 「し、しかし・・。御身は最早替えの効かない者。もしもの事があっては・・・。」

 「レインハルトは、もしも何て起こすつもり?」

 「―――――――はあ。分かりました。ですが、奴隷契約はしてもらいます。これ以上の譲歩は出来ませんよ。」


 強い意志を感じる瞳でエリザベータを見るレインハルトからは、本当にこれ以上の譲歩は難しいだろう。

 まあ、私も自分が安全になる分には問題ないわけだけど。奴隷契約ねぇ・・・。少なくとも前世の記憶ではゲーム内に「奴隷契約」なんてシステムは入っていなかった。

 もちろん現世のエリザベータ自信の記憶にも該当するものは無い。


 私は首肯で答えつつ、


 「それはそうと、奴隷契約ってどうやるの?」

 「奴隷契約は、専用の首輪や腕輪を使い、主人が契約するものに”二者の同意の元”付けることで簡単にできます。腕輪や首輪は屋敷の倉庫にありますので、そこについても問題ありません。」

 「まだ何も言っていないんだけど・・・・。まあいいです。同意の定義についてもう少し詳しく説明して。無理やり頷かせるとかでも大丈夫なの?」

 「全く問題ありません。」

 「そう、それなら面倒臭くなくて――――」

 「―――――エリザベータ様!御無事ですか!?」


 エリザベータの言葉は突然の闖入者の野太い声にかき消される。

 誰だ?と、思い、エリザベータがドアの方を見ると、


 「軍曹・・。私なら大丈夫よ。それより丁度良いとこに来たわ。貴方には残っている騎士を集めて、この事態の収拾の指揮を執ってもらいたいんだけど、頼まれてくれる?」

 「当然です。」

 「大きな目標としては二つ。まだ残ってる賊が居れば、その捕獲。難しいようなら討伐でも構わないわ。・・・それで、二つ目は炎の陳鐘、および他の脅威の除去ね。」

 「今すぐに取り掛かりましょう。―――それで、そちらの少年は?まだ生きているようですが、拷問室に運びましょうか?」


 この世界の人間は容赦がなさすぎる。

 エリザベータは頭を抱えたくなったが、何とか自制を利かせ、


 「レインハルト、説明して頂戴。」


 レインハルトにすべてを投げた。

      :

      :

      :

「軍曹、それでは後は頼みました。」


 エリザベータが笑顔を浮かべると、軍曹は恭しく礼をしてから、部屋を出ていった。

 その後姿を見送って、エリザベータは小さく息を吐く。


 (軍曹・・・か。何て名前だったけ?)


 浮かびかけた疑問を即座に消して、レインハルトに向き直る。今は軍曹の名前そんなこと考えている暇は無いのだ。


 「レインハルト、私たちも始めましょうか。」

 「御意に。こちらをどうぞ。」


 差し出されたのは銀色の腕輪。表面には何やら文字が掛かれており、それが魔術的な細工であることは疑いようがない。


 ―――――隷属の腕輪。


 その中でも比較的高価なものであるらしい。

 エリザベータは出された腕輪を手に取り、数回角度を変えてみた後、顔を上げ、部屋の隅で縛られている少年へと目を向ける。


 「叩き起こしてちょうだい。」

      :

      :

      :

 (グランダルSIDE)


 それは、グランダルにとって寝起きのいいものとは掛け離れたものだった。

 素直に言えば、酷い寝起き。

 全裸で冬の川に突き落とされたような、と言うのが一番近いだろうか。

全身を襲う体の芯まで凍らせるような衝撃に、グレンダルの意識は強制的に覚醒させられる。


 「~~~~~~!!」


 声にならない悲鳴を上げ、飛び跳ねるように起き上がり、再び倒れる。

 手足が縛られており、安定が取れなかったのだ。

 肩に伝わる鈍い痛みを苛立たし気に感じながら、グレンダルは目線を上げる。


 目に映るのは一人の令嬢とオッドアイの騎士風の男。

 オッドアイの男が誰なのか、グレンダルは分からなかったが。金髪の令嬢はよく知っていた。

 先程、神がかり的な絶技を見せたガンマーだ。

 そして、今自分は手足を縛られている。

 グレンダルは自身の状況を冷静に把握し、最悪の状況にあることを理解した。

 この世界で捕虜となることがどういう意味を持つのか、それが分からない程グレンダルは恵まれた人生を歩んでは来なかった。


 「おはよう、グランダル。私はアルバート・A・エリザベータと言うものです。」

 「・・・・・・・。」


 何を答えるべきか分からずに、沈黙を貫いていると、隣にいた騎士風の男が物凄い睨んできた。

 僕にどうしろと言うんだ。そもそも捕虜に自己紹介するのが可笑しいんだ。

 あと、グランダルじゃなくてグレンダルだ。


 「では、グランダル。貴方にはいくつか聞きたいことがあるのですが、私たちは貴女を信用していません。ですので、まず奴隷契約をしてもらいます。」

 「奴隷契約・・・。」

 「そ、私の問にすべて「はい」で答えればいいだけ。簡単でしょ?」

 「――――――っ!」


 何と無しに言い切るエリザベータに、グレンダルは頬を引きつらせる。

 奴隷にとって、契約時の規定は文字通り命よりも重い。

 契約の内容如何によれば、人をおもちゃのごとく扱うことも可能。無論生殺与奪権すら遊びに含まれる。

 そんなこと子供でも知ってる常識である。

 それを、慈悲をうかがわせる顔で言い切るエリザベータにグレンダルは底知れない恐れを感じたのだ。


 その沈黙をどう受け取ったのか、エリザベータは悩まし気に眉を寄せる。


 「・・・やはり、奴隷と言うのは抵抗がありますよね。私もどうかと思っていたんですよ。けど、・・・・・受け入れてくれるなら、私は貴女を従者として雇ってもいいと思ってるんですよ?」


 「「は?!――――」」


 何を言ってるんだ、この女は。

 正直に理解が出来ない。

 まず、自分の耳を疑った。

 だってそうだろ?自分を殺しに来た人間を従者にするって、極悪人も真っ青な懐の深さだよ。

 グレンダルは思わず自分の立場も忘れて、驚愕の声を上げる。


 「「な、何を言ってるんですか?!」」


 またも声が被った。

 そしてすごい睨まれた。僕にどうしろと。

 従者にしようなんて考えがそもそも可笑しいのだ。


 しかし、オッドアイの男の慌てぶりから見て、エリザベータの独断専行らしい。

 エリザベータは二人の男を驚いたように見回し、どうして驚いているんだという風に首をかしげる。


 「奴隷契約をするのだから問題ないでしょ?」


 ((無いわけがないだろう!!))


 二人の内心は重なったが、別に嬉しくない。


 レインハルトは僅かな沈黙の後、諦めた様に首肯した。


 「エリザベータ様の中では決定事項なのでしょ?ならば私はエリザベータ様のお言葉に従うしかないです。」


 は?何言ってんだこのイケメン?

 そこはお前止めないといかんだろ!

 いや、止めても無駄なのか?そこまでなのか?


 グレンダルの中でエリザベータと言う存在がどんどんとんでもないものになっていった。

 それから根掘り葉掘り情報を聞き出され、気が付いた時には僕は従者に祭り上げられていた。


 これからどうなるのか、正直僕には予想が出来ない。


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