激動の一日
004
アルバート家の本邸の東には縦横200メートル高さ20メートル程の木造の直方体構造物がある。その外景は普通の酒場などと比べれば多少豪華であるが、逆に言えばその程度。本邸と比べれば人とミジンコほどのゴミクソさである。
その建物には毎日多くの騎士が出入りし、時にはメイドや執事の出入りも見える。
一体何の施設だと思うかもしれないが、それは中を見れば一目瞭然だ。
中にあるのは大きな運動場のような更地。
部屋のいたるところには木偶人形のような人を模したサンドバックがあり、その全てに無数の剣筋が残っていた。
中には今日も多くの兵がおり、ある者は木偶人形に向かい剣を振るっており、またある者は一心不乱に一人で素振りをしていた。中には集団戦を予想して5人~6人がペアとなり模擬戦を行っている者もいる。
いずれも、この施設では日常の光景だ。
つまるところ此処は兵を育成・修練する「兵舎」である。
兵舎の更衣室に今二人の人影があった。
一人は銀色の髪に左右、青色と赤色の目をした異眼の優男。フランス人風の顔立ちであり、その美しい銀髪は腰あたりにまで届いている。
レインハルト・レオパルト。
アルバード家が抱える若き剣豪である。
もう一人はアメリカ軍人風の黒人の男。人間ダンプカーと言うような盛り上がった筋肉は、銃弾すら跳ね返しそうなほど完成されている。スキンヘッドにサングラスを身に着け、前頭部には戦士の誇りたる大きな十字傷が刻まれていた。
二人は滴る汗をタオルで拭うと、白い騎士服へと裾を通す。
その汗の量からは今の今まで相当ハードな訓練が行われていたことが伺えるが、二人に息切れや疲労感は見られない。相当な手練れである。
「レインハルト。今日はすまなかったな。姫様の護衛が忙しいのに、兵共の修練にまで付き合わせて。」
「問題ないですよ、軍曹。俺もいい練習になりました。」
「練習か。どの口が言うのやら。」
謙遜するレインハルトに軍曹は苦笑いを浮かべる。
どう甘く見ても、練習相手になるような騎士はいなかった。
最盛期の軍曹ならばあるいは、相手を出来たかも知れないが、今はもうとても付いていけない。
こうして練習の手伝いを頼むほど、軍曹は年を取っていたのだ。
「とにかく今回は助かったよ。」
「軍曹ももう年なんですから、早く跡取りに席でも譲ったらどうです?」
「そうしたいのは山々だが、グルービースに不覚を取るようじゃあ、まだまだだ。」
グルービースは大きな二つの牙を持つ、日本狼を一回り大きくしたような外見をしている推定危険度B+の高位モンスター。
―――――――B+。
それは、修練を積んだベテラン冒険者パーティーが万全の準備をして挑んでも、一瞬の油断で命を取られかねない程の力を持っているということだ。
個人で戦えると言うことがそもそも凄いのであって、褒められるならまだしも、まだまだと言う評価は多少、
いや、かなり厳しい。
今度はレインハルトが苦笑いを浮かべ、やれやれと肩をすぼめる。
「少しは認めてあげてもいいと思いますよ?」
「だめだ。彼奴はすぐに調子に乗る。下手に褒めると後が面倒だ。」
「そうですか?」
「そうだ。」
まあ、軍曹には軍曹の考えがあるのだろう。それに他人の家の教育に首を突っ込のは好きではない。もともと他人に興味を持てない性分も多分に関与しているが、
「それじゃあ、お先に上がらせてもらいます。」
そう言い、レインハルトは剣を腰に掛け、慣れた足取りで玄関まで歩く。
屋敷とは違い簡素な構造なので迷いようがないと言えばそれまでだが・・・・。
暫く歩き、目的の玄関までついたレインハルトは、ゆっくりとそのドアを開き、
「な!?――――」
絶句した。
レインハルトの瞳に映るのは赤い紅蓮だ。
煌々と燃え上がるそれは、まるで意志を持ったかのように揺らめき、白露で塗られた豪華な本邸を監獄のように包んでいた。
―――――――――火事。いや・・・・・
これが只の火事なら問題はない。屋敷には常にベテランの使用人が両手両足で数えきれないほどいる。
不測の事態と言えども万が一などと言うことは起きない。アルバート家の警備網はそれほどまでに完成していた。
しかし、それは人為的な妨害が無ければの話だ。
揺らめく炎は逃げ場をなくすように屋敷を囲んでおり、自然発生的に起きるとは到底思えない綺麗な円形だ。何より、炎が発する強い魔力の奔流は、明確なる悪意を物語っていた。
人為的な災害。
しかも、これ程の規模での魔術となると必要な触媒も魔導士の数も10や20で足りるものではない。
手間と言う点から考えても、かかる経費から考えても、個人が出来る範囲を逸脱している。つまり、それが意味するところは―――――――
―――――――――国家規模の後ろ盾を持ってると言うことですか。
レインハルトは此処までの思考を一瞬で終わらせ、
体感としては、ドアを開けた瞬間にその一歩を踏み出した。
瞬間、ドゴンと言う重厚な固形物がぶつかり合う異音が響く。
それが何なのか、もし他の第三者がここに居たら分かったはずだ。
それは、レインハルトの足が地面を蹴り飛ばす音。それが尋常ではない速度と威力を持って行われたのだ。
異常な音とともに行われた助走はレインハルトに、――――常人ならば消えたと錯覚するほどの――――高速をもたらす。
数秒と掛からぬうちに1kmは離れていた本邸の玄関まで辿り着くと、炎の防壁を剣圧のみで抉じ開け、その勢いのまま鉄扉もろとも切り伏せて、滑るように屋敷に入り、
再び絶句した。
――――――――――ぐちゃり。
嫌な音が足元から聞こえる。
若くして戦場を駆け巡ったレインハルトすら戦慄を禁じ得ない「惨状」が、そこには広がっていた。
「な・・・んだ、・・・これ・・は・・・・」
酷い異臭。執拗に切り刻まれた肉塊。
そんな中一つだけ原形をとどめた死体は、酷く強くレインハルトの目を引いた。
その死体はまるでどこかに置き忘れたように頭部がすっぽりと無くなっている。
残った胴体には指輪や腕輪、ネックレスなどの装飾品が多少過多とも思えるほど身につけられ。もともと白かったろうローブは赤黒く変色し、その胸元にはアルバート家の紋章たる二重螺旋の刻まれたバッジが付けられていた。
ただのバッジでは無い。
アルバート家をアルバート家たらしめる称号。
この世界で、それを付けることを許されたのはたった一人しかいない―――――
「――――――――御屋形様!」
どうして、誰が、何があった。疑問の言葉が次々と生まれ、はじけていく。
今の今まで、―――――アルバート家ならば大丈夫と、――――――どこか楽観視していた自分の甘さが雪崩のように瓦解していく。
つい数刻前まで普通に話していた同僚が、主が、先輩が、無残に殺された。
戦場でも見たことが無いほど恐ろしい死に方でだ。
レインハルトはこの時あまりにも多くの者を失い過ぎた。
思考が定まらず、不快な吐き気が胸を焼く。
――――――――なんだ、これは?・・・
――――――――――――――どうすれば・・・・・
その時、―――――――
「ああああああああ#$%&%$!!!」
二階から言葉にならない悲鳴が響いた。
その悲鳴が切っ掛けとなり、レインハルトは正気を取り戻す。
剣を握る手に力を入れ、階段を十段飛ばしで駆けあがる。
床が悲鳴を上げるほどの脚力で、恐ろしい速度を出し、目指す場所はただ一つ。
曲がり角を二回三回と曲がり、その扉を視界にとどめ、
「くそっ!」
自身の主のいるはずの部屋。その重厚な扉の下からは一目で重体と分かるほどの血が流れ出ている。
怒りと後悔の感情をぶつけるかのように、レインハルトは鉄扉を叩き切った。
005
「はいは~い。」
陽気な声を出しエリザベータは鉄扉を開ける。
貴族の令嬢の寝る場所とはいえかなり頑強に過ぎる作りであるが、それはこのアルバート家の二つ名を知れば当然の警戒である。
――――――「国王の番犬」
アースラーン王国の闇を牛耳る狂犬であり、国王の命の元、王国のあらゆる膿を武力を持って取り除く権限を与えられた存在。
番犬の前にはあらゆる法は意味をなさず、あらゆる罪は事故として処理される。
その前では王国警察の総司令官と言えども、目をつむるしかない。
そんな闇の中枢にあるアルバート家を快く思っていない存在は王国内外に五万といる。
暗殺者や刺客が遊びに来るのは日常茶飯事。
しかし、それでもアルバート家の警備は崩れない。
敵として本邸の床を踏んだ者など、アルバート家300年の歴史で只の一人も存在しないのだ。
いわんや、二階にあるエリザベータの部屋に賊が入ることなどあるはずがない。
――――――ガンガンガンガン。
「ああ、はいはいはいはい。今行くっていてるでしょ。」
全くの遠慮なしにならされる呼び出しに、流石にエリザベータも嫌気がさしてきた。
適当に話を聞いたら寝よう。そう固く決心する。
――――――――ガチャリ。
扉を開けた。
「は――――――――?!」
驚愕とも絶句ともつかない声が出る。
目に入ってきたものは全身を赤く染めたまだ幼い少年だった。
少年の右手には大きな斧が握られ、そこから滴る液体は美しいとは程遠い濁った不純さがある。
それが何なのか、考える必要も無い。
少年の左手に握られた生首が雄弁にその解を謡っていた。
「お、・・・お父様?・・・・」
「じゃあ、お姉さん。お休みだ。」
斧が振り下ろされる。頭がそれを理解するのに数秒の時を要した。
故に、これは理解しての回避ではない。
言うなれば体に染みついた習慣。
達人と呼ばれる剣士が寝ながらに刺客を切り捨てるように。意識を失ってなお、ボクサーが相手を殴るように。
エリザベータもまた少年の顔を見た瞬間に、無意識に体が動いていた。
何度も見た、そして何度も殺しあいを演じた敵の顔だ。
故に敵の手札も、敵の制空圏も分かっていたから・・・
「――――――グランダル。」
ポツリと呟くように言葉が漏れた。
グランダル―――――――――――――
ガンガンソードの初期に出てくる中ボスの一人。わりと倒すのは簡単で、ネットなどではやられキャラ認定されていた。理由は簡単。グランダルには致命的な弱点――――遠中距離攻撃の手段の欠如――――があるからだ。距離を詰められることなく銃殺できればクリア―のイージーゲームである。
実際前世では幾度と無くほおむってきたし、ナイフのみの縛りでも普通に勝てた。
負けるはずのない戦いだ。ゲームなら―――――。
でも、これはゲームじゃない。現実だ。
さらに悪いことに、今は防具も無ければ、装備も十分とは言えない。持っているのは護身用の銃が二丁。何より自分の体は鍛えぬいたキャラクターでは無く、傲慢な貴族の小娘である。
「――――――詰んでるでしょ。」
プレーした瞬間に中ボスが来るとか、そんなクソゲー作った日にはそのゲーム会社炎上するよ。物理的に。
エリザベータは引きつりそうになる頬を何とか抑え、余裕の表情を作る。
意図的にそれを作るならいいが、本能的に感じる恐怖や不安を表に出して場が好転することなどまずないのだ。
―――――九年間の闘病生活で身に着いたスキルがこんな形で役に立つとはね―――
エリザベータは嬉しいのか、虚しいのか、何とも言えない気持ちになった。
「ふう、・・・相手になればいいのですけど。」
勝つとは言わないまでも、助けが来るまでの時間稼ぎは出来てほしい。そんな願望を込めた言葉が漏れる。
それをどう勘違いしたのかグランダルは目を瞬かせ、ニヤリと笑みを作った。
「余裕だね、お姉ちゃん。もしかして結構戦える人?」
そう言い、グランダルは大斧をクルクルと回しながら、「さっきも良い反応だったしね。」と付け足した。
「・・・・買いかぶり過ぎですよ。私は只の貴族令嬢。生まれてこの方一度も銃を触ったことも無いんですよ。」
そう言い、エリザベータはビリビリと自分のスカートを破る。
「?何してるの?」
「この格好動きにくいんですよ。」
「ムフフ。目的の為なら手段を択ばない。やっぱり君は普通の令嬢とは違うね。」
「所詮血塗られた番犬。礼儀も作法もありませんよ。」
「あれ、怒っちゃった?褒めたつもりなんだけど?」
「そうなんですか?」
「そのつもりだよ。」
一頻りの軽口を終え、二人の間に沈黙が流れる。
エリザベータは出来ればもう少し時間稼ぎをしたかったが、粘りすぎて先制攻撃と言うアドヴァンテージを失くしたら元も子もない、と思いそれ以上口を開かなかった。
――――さて、どうしたものか・・・。
そうエリザベータはが悩んでいると、
「お姉ちゃん、銃は抜かないの?いくら貴族の令嬢でも護身銃くらい持たされてるよね。」
うずうずとエリザベータを楽しげに見る殺戮者。
もっと普通の出会いをしていたら、いや前世の記憶が無かったら・・・子供の可愛らしい素振りに見えたかも知れないが。前世の知識を持つエリザベータには、グランダルがもう殺人衝動が限界をきているのが分かってしまう。
(やるしかないか・・・・。)
「・・・・先ほども言いましたが、私は拳銃すら撃ったことが無いんですよ。殺し合いなんて一度もしたことがありませんの。だからまあ、―――――」
エリザベータには極めて無表情を貫き通す。
「―――――貴方じゃ勝負にならないわ。」
直後。
銃声が響いた。
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「―――――――っ!」
グランダルは驚きに目を見開いていた。戦闘中相手の技巧に驚くなどいったいいつ以来だ?そんな感慨が浮かばない程今グレンダルは驚愕の中にいた。
グレンダルの青眼に映るのはエリザベータの右手。そこには先程までは無かったはずのシルバーモデルの銃――――S&W M500――――が握られている。
(一体いつ・・・。)
目を離したわけじゃないんだが、気が付いたら拳銃が手にあり、銃声が聞こえていた。
間違いなく命中していたらそこで終わっていた攻撃。
しかし、攻撃はグレンダルに当たることなく明後日の方向に飛んでいた。
(これ程の早打ちが出来るものが、ここまで外すなんてことはあり得ない。つまりこれは・・・わざと外した。・・・・僕程度何時でも殺せると言いたいの・・・・え―――――)
グレンダルは今度こそ何が起きてるのか分からなかった。
突然自分の視界が真っ赤に染まり、頬に冷たい感触が伝わる。
そして気づいた。自分が床に倒れていることに。
え?何が―――――。
訳が分からず、それでも早く立ち上がろうとグレンダルは体に力を入れ、
ゴボボ―――
吐血する。
はっ?――――――。
グレンダルはそれが何なのか直ぐに理解できなかった。
(まさか・・。跳弾!?周囲の配置を利用して、正確に胸を・・・。)
理解と同時に彼の体に嘗て無いほどの激痛が襲う。
「ああああああああああ$&&%&&%&‘!!」
痛い痛い痛い痛い――――――――。
「――――――あなたの負けです。グレンダル。」
酷く冷たい声が響いた。しかしもうそれはグレンダルの耳には届いていない。
血を流し過ぎた。
急速に体の力が無くなっていき、身を焼くほどの痛みも嘘のように消えていく。
真っ暗になった視界の中で、残るのは気が狂いそうな不安。
感覚も、過去も、未来も。自分と言う存在がどんどん消えていく。
グレンダルの瞳からポタポタと涙が流れた。
「死にたくない。死にたくない。死にたくない。・・・・」
初めから分かっていたことだ。他者を殺したところで何にもならないと。
それでも、何か理由が欲しかった。
「殺し」と言う忌むべき罪過に理由が必要だった。
そうでもしなければ彼の心はボロボロに壊れていただろう。
―――――――仕方なかったんだ。
孤児であるグレンダルに選択肢など無かった。貴族に金で買われ、残虐なショーの演者に選ばれたグレンダルに残された選択肢は自分が死ぬか相手を殺すか。
そして彼は後者を選んだ。
主人に飽きられぬようなるべく残虐な殺し方を・・・・。
「―――――――あなたの負けです。」
聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。
後悔と絶望の中、グレンダルの意識は闇に落ちる。
*************************************
「~~~~~~。本気で死ぬと思った。」
エリザベータは今さら震えだしてきた手足に力を入れ、血が滴る斧をグランダルの手の届かない場所に置く。
流石にもう暴れることは無いと思うが念のためだ。
それが終わるとエリザベータは再びグレンダルに近づいた。
虫の息。まさにその言葉通りの惨状だ。
「・・・・・・」
エリザベータは前世の知識でグレンダルの過去を知っていた。だから、少しの哀れみもあったのかもしれない。
けど、多くは打算によるものなのだと彼女は考えていた。
グレンダルには生きて聞かなければならないことがある。今回の首謀者は誰なのか?何が目的だ?誰が絡んでいる?
そう言ったもろもろの事態の把握。
そして、もう一つ・・・。
エリザベータはガサゴソと懐から10cmほどの小瓶を取り出す。半透明のピンクの瓶。それに、透明の液体が入っているようだ。
ポーション。
ガンガンソードでの回復アイテムで、薬草などを調合して自分で造ったり、コインと交換することで簡単に手に入る。効果のほどから順に下級・中級・上級・超級・伝説級・神級に分かれており、今彼女が出したのは上級回復薬だ。
ゲーム内ではかなりの効果があるんだが、はたしてこの世界で有効なのか?
そもそもどうやって使うのか?
ゲーム内ではボタン押すだけで回復したので、飲む物なのか、患部に流して使うのか。それが分からないのである。
「では、実験に付き合ってもらいましょう。」
エリザベータは瓶を少し傾けて、患部にポーションを少し流した。
変化は無い。
「やっぱり飲むタイプか。しかし、問題はこの子どう見ても気絶してるってことだよね。」
漫画やアニメで読み齧った知識を使うなら、”口移し”だ。
しかし、流石に抵抗があった。
前世含め、エリザベータにはキスと言う経験が片手で数える程しかない。それも全て相手から。
如何に相手が子供と言えど、自分からすると云うのは大きな抵抗があるのだ。
(だって、もし誰かに見つかったら………………完・全・に、私変態じゃない!(←寝ている子供の口を奪う痴女))
顔が真っ赤になるほど恥ずかしいし、少なくない罪悪感を感じたが、所詮は子供と自分に言い聞かせ、ポーションを口に少し含み、
「ゴクゴクゴク」
なるべく水が漏れないように、頭を上げて、唇と唇を重ね合わせた。
瞬間。
グツグツグツと一種悍ましい音が聞こえ、グロテスクな回復がおこる。
銃丸により焼き爛れた筋肉が微生物のように動き出し、摂理を無視した超回復を開始。
エリザベータは若干顔を引きつらせながらも、効果があったことに安堵の息が吐きく。
「いけないいけない。ほっとしてる場合じゃないよね。」
ボーっとしてた間に息絶えていたじゃ笑い話にもならない。
エリザベータは今度は先程よりも多めに口に入れ、再び少年へと流し込む。
その時――――――
(部屋の)鉄扉が開かれた。と言うよりは真っ二つにされた。
「エリザべ・・・・・!!!」
声に顔を上げたエリザベータの瞳には、埴輪のように固まるイケメンが映っていた。