第一章 龍の巫女 1
魔法のある世界のとある国での占い師の日常の物語です
よければ読んでください
昔むかし、ある所にとっても意地悪な龍がいまし
た。龍は人々に力を与え、そしてひとつの雫を残して行きました…
_魔法の国クラシル
数百年前白龍によって魔法を与えられ、以来魔法によって栄えてきた魔法の国。この世界で最古の魔法の歴史を持つ国。
…なんておとぎ話が今なお息づくこの国は今日も今日とて変わらぬ日常を繰り返していた。
_そんな日常の中で今日も[導店]の1日が始まる。
「…かもしれない」
なんて脳内モノローグの続きを呟く死んだ目をした少女_エレノアは、今日も暇な1日を覚悟しのんびりと甘ったるいコーヒーを口に運ぶ。
肩口をくすぐる程度の白い髪、その髪と全く同じ真っ白な肌、その白くも可憐な顔に鎮座した紅の双眸(死んでる)
そんな一目見たなら忘れない儚くも美しい美少女(自称)、それがエレノアである。
そんな少女の耳に響くやかましい足音が突然の来客を告げた。
「あのっ!」
勢いよく木の扉を押し開け、一人の少女が息を弾ませながら飛び込んできた。
_ガタンッ!!
「ッ!!」
突然響く大きな音に少女はビクリと肩を震わせた。
「…あーあ」
対して、少女エレノアはその音を響かせた張本人である玄関から外れる床でぐったりと倒れてしまった木の扉に死んだ目を向けていた。
「…気をつけてください。ボロいからすぐ外れるんです。」
「えっ?…あっ、すみません…」
エレノアの言葉に頭を下げる少女を横目に、エレノアは懐から白い動物の骨の様な杖を取り出す。
「…えいっ」
気だるげな声と共に杖を振るうとぐったりとして動かなかった木の扉がスックと立ち上がりやたらコミカルな動きで元の位置まで戻っていく。
これが魔法である。超便利である。
「…わぁ」
定位置に戻り扉としての役割に戻った扉さんに来客の少女は口をぽかんと開けて感嘆の声を溢す。
「すごい…これが魔法」
少女は惚けた顔でいつまでも扉さんを見つめている。
…わざわざ声をかけるのもなんか面倒くさいので放っておくことにした。
エレノアは杖をしまい、再び朝のティータイムに…
「あのっ!!」
戻ろうとしたところで少女のやかましい大声が鼓膜を乱暴にノックした。
「私、その…仕事依頼しに来たんですけど…」
でしょうねじゃなきゃ何しに来たんですか?って感じです。
「この導店は、どんな問題や迷いでも解決してくれると聞いて…」
あーはい確かにそんな仕事をしてますけど…
ここでひとつ、私が生業としているこの[導店]がどういうものかを説明しよう。
ここはあらゆる悩みや問題を抱えた迷える子羊たちが龍の巫女たる私に救いやらアドバイスやら癒しやらを求めてやって来るのだ。
…まぁ、要するに占い屋さんである。
しかし、龍の巫女たるこの私の占いであるから、その占いの効果はもうすんごいのだ!
…ちなみに龍の巫女とは何なのかは私にも良く分からない。しかし、この国は龍の導きによって発展したという伝説があるだけに、[龍の巫女]と名乗っているとなんかもう神秘的でこの手の仕事にはもってこいの通り名だと思うのである。しかも超絶美少女に会えると来たもんだこれはもう行くしかないっ!
「あの…」
おっといけないお客さんを忘れてた。私としたことが…
「はいはい…お仕事の依頼ですね。何を占いますか?
今日の天気とか?」
「えっ?それ占う意味あるんですか?空見たら分かるし…」
あらやだこの子鋭い。
「あーはい、じゃあお話聞きましょうか。…はぁ、面倒くさい」
「あの今面倒くさいって言いました?」
「いいえ」
白々しく返すエレノアに少女はジト目を向けていることでしょう。見えないけど…
「あの、なんで今更ここなんですか?」
問いかける少女は今、協会の懺悔室のような一室でお互いの顔が見えない状態で向かい合っていた。
「プライバシー保護の為です」
「…今更ですか?」
「それは貴女がいきなり押しかけて来るからです」
「…すみません」
エレノアに言われ少女はしゅんとしたように俯いた…多分、見えないけど。
「では、お話を聞きましょうか」
「はいっ!お願いしますっ。あっ、私ミラって言います」
「…」
何名乗ってんすかこいつ…プライバシー保護っつてんだろ?お前の為でもあるんだぞバカか?
「…まぁ、いいでしょう」
「何がいいんですか?」
「いえ何でもありませんよ。ではお話を」
エレノアが先を促すと少女_ミラは自身の胸中の深刻な悩みを打ち明け始めた。
「実は私、今年で十七になるんですけど…」
私より一つ下ですね。個人情報どんどん漏れてきますね。
「私の家はずっと魔道具を作ってて、私も家の手伝いをしてたんですが…」
ちなみに魔道具とは魔力を使ってる使用する便利な道具である。
「職人だった父が先月、急病で倒れてしまって…」
ははぁ…それは大変ですなー。
「父も母ももう歳だし、これ以上迷惑かける訳にもいかなくて…私、ちゃんと働こうって思ったんです!」
ほほぅ立派なことで…
「でも、何度仕事を探しても雇って貰えなくて…」
ははぁ…よくあるやつですな。正直言って一番面倒くさいやつです。
「龍の巫女様…私としたことがどうしたらいいんでしょうか?」
…
「頑張ればいいんじゃないかな」
熟考の末にエレノアは返した。
「いやそうじゃなくて…」
「そうじゃないとは?」
「もっとこう、為になるお告げとか…そういうのは…」
エレノアはミラに気づかれない程小さなため息を吐いて頬杖をついていた。
「そう言われましても…こればっかりは貴女の問題でしょう?」
冷たく突き放すエレノアにが半泣きになった…気がした。見えないけど。
「そんなっ!ここはどんな問題でも解決してくれるんじゃないんですかっ!?」
そう言われましても…
「ううっ、そうか…私はとうとう白龍様にも見放されたんですね…」
隔てた壁の向こうで彼女は泣いていました…多分。見えないけど。
流石の白龍様も彼女の就活まで面倒は見てくれないみたいだった。だって何のお告げも聴こえないし…聴こえた事なんて無いけど…
「ちなみに、何回失敗したんですか?」
「…十四回」
壁の向こうで涙声のミラが言った。うわぁ。
「うう…私、就職向いてないのかな…?もう就職しない方がいいのかな?」
いや向いてなくてもしろよ。ニートになる気か?
「言っときますけど働かずに食べて行けるほど世の中は甘くないですよ?」
「じゃあどうしろってんのさっ!」
壁の向こうでこえを荒らげるミラ。よっぽど精神的に追い詰められているのだろうか物凄い勢いで泣き出した。顔みてないけど分かる。
「…」
何だか流石に哀れすぎて可哀想になってきた。しかし、自分に出来ることなど無い。
「まず、何がダメだったのか、それをキチンと明確にしましょう。なぜ失敗したのか分からないまま繰り返しても同じ事ですよ」
自分に出来ることなど、耳障りの良い言葉を並べて相談者の気持ちを持ち上げるくらいしかない。後は当人達の問題なのだ。
占い師なんて所詮その程度の存在だ。その程度の存在に縋り付くしかないほど追い詰められた人々が助けを請うのだ。そしてそんな人間は今の世の中そういない。だから私は万年金欠なのだ。
「ぐすっ…それが出来ないから苦労してるんです。」
「でしょうね」
「…実は今日も魔道具店に試験を受けに行くんです」
あらまぁ。
「だからここに来て、お告げを貰おうと思ったんです…ぐすっ」
「お告げは無いです」
にキッパリと告げるエレノアに壁の向こうでミラが恨めしそうに顔をしかめた…気がした。見えないけど。
「やっぱり、龍の巫女なんて嘘っぱちだったんですね…」
なにおう?
「そうですよね…貴女見たいのがお告げなんて聞けるわけ無いですもんね…目が死んでるし…」
…なにおう?
相談に乗ってやったのになぜこんなに不快な思いをしなければならないのか?ムカつきます。プッツンです。
「すみませんねぇお役に立てなくて」
「いえ…最初からアテになんてしてませんでしたから…」
皮肉を込めたエレノアにそんな言葉を返してくるミラ。
なら来んじゃねえよ。
「では、相談料金貨一枚頂きます。」
と壁の僅かな穴からてを伸ばし料金を請求するエレノア。それに対し
「え…?」
と壁の向こうで首を傾げるミラ。
「え?」
「どうしてです?」
「どうして、とは…?」
「いや、役に立たなかったのにどうしてお金まで払わなきゃいけないんですか?」
なにおう?そんなモンこっちが商売だからに決まってんだろ?慈善活動じゃねぇんだよシメるぞ?
「だから、相談料です。」
「だから、貴女役に立たなかったじゃないですか!」
…このガキ死にてぇのか?
エレノアの中でフツフツと黒い感情が芽生えだす中ミラは続ける。
「ここはどんな問題も解決してくれるんじゃなかったんですか?これじゃ詐欺ですよ!」
いやそんなこと一言も言ってねぇし。
「私怒ってるんですよ!私の就職が上手く行かないならお金なんて払いませんよ!」
…こいつが就職出来ない訳がわかった気がする。
ふざけたことを吐かしてぷんぷん怒るミラに対してエレノアはフツフツと湧き上がる怒りとか色々を抑えられなかった。