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「こんにちは。急な呼び出しに応えてくれたこと、感謝しているよ」


 教授用の研究室、その一つで。

 チャーリーとメアリーは、机を挟んで座る男性を無言で睨んでいた。


「そう怖い顔をしないでくれたまえ。君たちを害するつもりはない」

「わざわざそう言うってことは、『害されると警戒する』理由に、思い当たることでも?」


 学生(チャーリー)の問いに、男は意味深な笑みで答える。

 モンターギュ・ドルイト教授。チャーリーたち学生にとっては『魔術学概論』の講師。

 今、彼の右手は包帯で首から下げられている。


「遠回りするのは苦手なのでね、率直に言おうか。君が追っている怪異(フォークロア)墓場の王(ノーライフキング)の正体は私だ」

「やっぱり……」


 あの日、カダスを使い撃退したチャーリーを挑発するかのように語られた余談。そして決して軽くない腕の負傷。

 決定的なのが彼の研究分野。それは『魂の分割による魔導器との同期・同調』

 偶然にしては状況証拠が揃いすぎている。


「しかし、どうして自分から暴露を? 自首がしたいのであれば警察(ヤード)にするべきでは?」

「無論、自首が目的ならそうしよう。しかし、生憎と今回の要件は違うのだよ」


 そう言って椅子から立ち上がり、窓の外を眺める。


「端的に言えば、君たちには私の協力者になってもらいたい」

「……は?」


 唐突な申し入れにチャーリーは理解が追い付かない。


「可能であれば研究に協力して欲しいところだが、そこまで望むのは贅沢だろう。私を監視したり攻撃しないという消極的協力で構わない」

「やはり、気付いていたのですね」


 ここ数字、チャーリーはドルイトの動向を気にかけ、時に尾行もしていた。素人なりに努力はしたつもりだったが、見破られていたようだ。


「……それを聞いた僕らが、素直に引き下がると?」

「思わない。が、こちらとしても円卓を相手しなければならないところに、君たちに茶々を入れられるのも困る」


 邪魔ではあるが、あくまで本命は円卓。そう遠回しに言われてむっとするが、実際誰に訊いても「円卓の方が脅威」と答えるだろう。


「それにまぁ、事前に手は打ってある」


 ドルイトは左手で懐をまさぐると、掌に収まる大きさの水晶を机に置いた。


「投影晶石? そんなものに何が……」


 特殊な加工によって映像を記録する魔導器を指で弾く。それによって僅かに架空燃素(フロギストン)が流し込まれる。

 すると晶石が輝きを帯び、記録されていた像を空中に投影した。


「っ、サナエさん!?」


 目の前に立つ男に助手として付き従っていた女学生。

 それが今、映像の中で気を失ったように力なく項垂れ、両の手を天井から吊るされた鎖で縛り上げられていた。


「まだ生きている。それについては安心してくれ」

「……人質のつもり、ですか」

「保険と言って欲しいところだが、ね」


 悪びれることなく切り返すその顔には何の感情も見られず、チャーリーは同じ無表情でも従者のそれとは違う気味の悪さを覚えた。


「しかし――迂闊、いえ場当たり的ですね」


 そう言ってメアリーは臆することなく一歩前に出る。その足元からは影が這い上がり、鋭利な先端が複数の急所に狙いを定めている。


「確かに彼女は顔見知りでこそありますが、友人と呼べるほどの間柄ではありません。彼女の安全より貴方の排除を優先するとは考えなかったのですか?」

「あぁ、君がそう言うだろうとは考えた。そして、お人好しな君の主人がそれを止めるところまで」


 赤いメイドの威嚇をものともせず、ドルイトはチャーリーを見やる。


「……メアリー、一旦引いて」

「――畏まりました」


 微かに不服な様子で、しかしメアリーは主の指示に従い影を引き戻す。


「そういうわけだ。改めてゆっくり話そうじゃないか。今後について」

「く……」


 反抗的な態度は崩さず、しかしそれ以上のことはチャーリーに出来なかった。

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