序文 ― 十一月の物悲しい夜
目が覚めたのは、11月の夜に特有の急な冷え込みだけが原因ではなかった。
少し高めの家賃を払って入居した2DKの家。学生寮の中ではそれなりの広さであるとはいえ、あくまでそれは『寮としては』の話。夜中に物音がすればすぐに気付ける。
独り暮らし。就寝前に玄関の鍵は確認済み。作業部屋に改造した隣室もきちんと片付けてある。
ならば、今し方聞こえた何か質量のあるモノが落ちたような音は?
「………」
意識はすぐに覚醒した。隣室には大事な作業道具と我が子のような発明品が置いてあるのだ。勘違いだとしても放置は出来ない。
ベッドを抜け、辺りを見渡し武器になりそうな物を探すが見つからない。仕方なく精神防御の護符だけを胸ポケットに入れ、寝室を出る。
しんと静まり返ったダイニング。やはり勘違いだったのだろうか、と思ったその時。
――ごとっ。
作業部屋から、ただ小物が転がり落ちたと思うには明らかに不自然な物音。やはり今、この家には自分以外の誰か――あるいは何か――がいる。
意を決し、ドアノブに手を掛ける。後になって思えば家を出て官憲に通報するという手段もあっただろうが、それを思い付かなかったあたり、この時点でもう『運命』という歯車は動き出していたのだろう。
そして――そこで、何よりも美しいモノを見た。