七百三十六話 バルダルフェスティバル完
『十四話 フィーネの居ない日々3』を修正しました。
……え? ペースが遅い? 1話だけかよ?
すいません夏は許してください。ノーパソが40度を超えるんです。
思っていた以上に大富豪イベントが長び……ゴホン! 盛り上がってしまったので忘れているかもしれないが、あれはカレー祭りのイベントの1つでしかない。
俺達のカレー祭りはまだまだこれからだ。
さて、ライブパートに力を入れ過ぎて肝心の学園祭の内容を覚えていないアニメのようにしないためにも、ここ等で振り返りといこう。
そもそもこの祭りは、国を代表する金持ち達がどのカレーが最も人気があるか、また美味しいかを決めるために開催したものだ。
よって順位は店舗ごとではなく種類ごとにつけられる。
エントリーナンバー1。サクサクの衣とドロっとしたカレーが絶妙なハーモニーを奏でだす『カツカレー』。ポーク・チキン・ビーフなど諸々含めたものだ。
エントリーナンバー2。牛乳や生クリームといった油脂が多い素材によって生まれるコッテリとした“とろみ”がクセになる『北インドカレー』。
エントリーナンバー3。暑い日にピッタリ。サッパリとしているのに激辛。さようなら夏バテ。さようなら拒食症。『南インドカレー』。
エントリーナンバー4。世界でもっとも有名なインドカレー。『バターチキンカレー』。
エントリーナンバー5。カレー風味の炒飯。『ドライカレー』。
エントリーナンバー6。カレー風味の炊き込みご飯。『カレーピラフ』。
エントリーナンバー7。魚介のうまみエキスがスープに溶け込む濃厚&ヘルシーな『魚介カレー』。
エントリーナンバー8。美容と健康にこだわる女性の味方。『野菜カレー』。
以上8つの派閥が、24の通路でしのぎを削っている。
しかしやはりその中でも一番を決めたくなるのが人間、そしてギャンブラー。
正直な話、『カレーライス』より『カレー味の何か(例えばカレーマヨネーズとかカレー風味のポテチとかのレトルトカレーとか)』の方が人気が出てしまっている。
たしかにプロの料理人が最高級食材を使って作るカレーは美味しいが、費用対効果や今後のカレー事情を考えた時、誰が作っても同じ味になるカレールーは最強だ。
数百という料理人が集まれば誰かその結論に辿り着くとは思っていたが、『その他』エリアが出来るほど結構な人数が実用化してしまった。
祭りが終わったら……いやもうすでに微妙に配合を変えたルーが量産体制に入っているかもしれない。
そのため、おそらく勝負は『その他』を除いた8つの派閥で行われる。というか司会も完全に別枠として扱っていたので間違いない。
「これが賭けを意識した配置だということは地図を見れば一目瞭然だ」
「……なんで公爵が同行者に加わってるんでしょうか?」
さも自分が説明しているかのような雰囲気で祭りMAPを懐から取り出したライヤー公爵。
それをする前もヒカリ達と大富豪を振り返って楽しそうに話していた。指令付きトランプの権利を譲ってくれって交渉もしていた。
アンタの出番、大富豪編で終わりじゃないのかよ。
「キミは何を言っているんだ? 大富豪イベントが押してしまったので急いで自分が最も気に入ったカレーの店舗へ向かい投票。祭りのクライマックスにしてメインイベントに間に合うよう中央ステージへ向かっている最中ではないか」
「終わるの!? マジで!?」
公爵の言葉に周囲の女性陣が一斉に頷く。
言われてみれば会場中が俺達と同じ方向へ歩いている。今からカレー祭りを堪能しようとしていた俺が馬鹿みたいだ。
まぁ投票したことすら忘れていた俺も俺だが……。
「うわぁ……開会式見ながらここに至るまでの苦労話して、皆で分けることで12種類ものカレーを食べて、仲間達と食べ歩きしながら雑談して、参加出来なかった友達とビデオ通話で会場の雰囲気伝えて、みんなでゲームしただけじゃねーか!」
「十分だよね」
「十分」
「むしろそれ以外に何をするつもりニャ」
「ユチさんは知らないようですが賭けにも参加していますよ」
……十分だった。メッチャ堪能してた。思い出いっぱい。
「それに今から運命の投票もしますよ~。あなたの1票が勝負を分けるんですよ~。意味ないなんて言っちゃダメですよ~。ちゃんと自分の意思で決めましょうね~」
ユキに至っては何か別のものを彷彿とさせる。
どうでもいいけど、俺、浮動票の方が増えたらどんな選挙になるのか見てみたかったんだ。まぁ生きてる間に実現しなかったけど……。
浮動票ってのは、毎回投票する政党や候補者を変える未確定な票のことをいうんだけど、政治に無関心の若者とかがまさにそれ。
今でこそ規則に違反しないように後援会を作って地元の懇意にしてる組織のメンバーの票を集めたり、企業の上層部が支持する候補に従業員全員投票させる組織票によって得票は安定している。
かく言う俺も、ホームセンターで働いていた頃は食事休憩中に投票するべき候補者の名前を覚えさせられたし、両親から『誰に入れれば良いの? 会社で応援する人いるんでしょ?』と聞かれたりもした。
が、ぶっちゃけ浮動票がどれだけ集まっても動かないらしい。
まぁ流石に全部2位に集まれば変わるんだろうけど現実的じゃないからな。
しかし、それが『メンドクセェ』の一言で断るような連中ばかりになったらどうなるか、気になるじゃないか。
代々太いパイプで繋がっている企業なんかは盤石としても、最近の若者は『親が支持していたから』なんて理由じゃまず動かない。何かしらメリットがないと。
あ、特定の業界団体や利益団体のために法律作成や政策の調整をしたり、各省庁に口利きをしたりする族議員なんてのも居たな。表に出ていないだけで間違いなく今も居るんだろうけど。
(……まさかそいつ等が面倒臭がりを動かすだけの何かをするのか? 浮動票を減らす目的で法律変えて?)
異世界のことをいくら考えても答えが出るわけがなかった。
ともかく! 政治とは汚い社会の縮図だが、このカレー祭りの投票は違う!
「投票したお店が上位入賞すれば参加費が還元されるんだよね。割引券とかタダ券とかで」
「それと忘れちゃいけないのは掛け金が増額するってことニャ! お祭り公式のイベントで稼いだお金がさらに増えるのニャ!!」
「ああ。この国の人間は皆生まれついてのギャンブラー。組織票で利益を得ようとする愚か者は居ない。己の勘、戦略、味覚で勝利を勝ち取る」
ってわけ。
ある意味鎖国して正解な気もするけど、こういう連中は周りが何を言おうと自分の信念を曲げることはないからやっぱり開国してもらいたい。
なんかこの国が凄く良い場所に聞こえるけどそれは気のせいだ。
欲に塗れた連中が実は後々のことまで考える狡猾な奴等で、目先の利益に手を出さないってだけの話だからな。
「本当にダメそうなら空島フレンズと対策してくださいね。国籍持ってないと投票できないようにするとか精霊チェックを入れるとか」
「心配無用だ。我々に任せてくれ」
ライヤー公爵を知っている人達から言われた『淡泊』とは無縁の力強いお言葉だった。
ま、こんな小僧に言われるまでもないか。
彼等は現役実業家。金持ち。権力者。今の地位を守るために色々苦労してきたはずだ。
「では商談も終わったことですし、すべての賞が発表される前に中央ステージへ急ぎましょう」
「いつ終わったの!? ってか商談って何!?」
突然フィーネから飛び出した驚きの発言。
「ルークさんもう忘れたんですか~? 大富豪の賞品のことですよ~。優勝したフィーネさんも、準優勝したヘルガさん……じゃなくてイブさんも、公爵さんも、香辛料の普及という1つの目的のために手を取り合うことを決めてたんです~」
「なんかハッピーエンド!?」
普通こういう場合って主人公が間に入るもんじゃないの? もしくは『やるべきことはやった。後のことはお前等に任せるぜ』的なセリフや心理描写をしておくもんじゃないの?
なんで蚊帳の外なの?
「やるではないか……」
「そちらこそ……」
「やはりわたくしはトンカツカレーが一番だと思いますが、それぞれに色があるからこそ光り輝くのですわ」
しかも中央ステージに到着したら、発端となった評議会の連中がガッチリと握手して和解していた。
なんだこの無駄に綺麗な終わり方……。
これが後に世界最大の食の祭典となる『バルダルフェスティバル』の記念すべき第一回のあらましである。




