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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五章 アクア編

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五十二話 ルークの力

 俺は神様から「楽しいスローライフをしていい」って言われて転生した。


 しかし今まさに物語はバトル編に突入しようとしている。


 学校へ通うと授業と称した暴行を受けて怪我をする。怪我をしないためには今から暴行されないといけない。


 魔道具での強化はダメで、学校へは通わないという選択肢は存在しない。


 八方ふさがりだ。


「フィーネ、何でも言う事を聞くからヨシュア学校壊せない?」


「すすすす、す、すぐやりましょうっ!!」


「やめなさいっ!!」


 チッ、母さんに止められたか。


 『学校に行きたかったけど無くなってるなら仕方ないよね』作戦失敗だ。そもそも学校じゃなくても戦闘訓練は出来てしまうから無駄か。


 フィーネ・・・・ハアハア言うの止めて。



 逃げ道ないじゃんかよ。


「うぁ~。やるしかないのか~」


 地球育ちのニート舐めんなよ。怒鳴りつけられただけで土下座する生物だぞ? 殴り合い、切り合いなんて出来るわけないだろ。


「そうですよ~。頑張りましょう~」


「あ~。嫌だな~。命のやり取りとか怖いな~」


「冒険者じゃなければ~。そこまでやりませんよ~」


「へ~。そうなんだ~。なら何のために戦いの授業をするんだよ~」


「なんでアンタ達は同じ喋り方してるのよ? そんなの自分の身を守るためでしょ」


 アリシア姉がやっとツッコんでくれた。ボケをスルーされるのが一番辛いからな。


「ルーク、実は余裕ある?」


 ニーナ、それは言っちゃいけない。わりと何とかなるんじゃないかって思ってるけど、怖いのは本当なんだからさ。



 こんな世界なので街中でも魔獣の襲撃や強盗などの危険はいくらでもあり、そんな時最後に頼れるのは自分だけ。強くなければ生き残れないのだ。


 それ以外にも周囲へのアピールになるので、ランキング上位者はモテると言う。


「つまりレオ兄がモテモテなのはランキングのせいか!?」


 レオ兄は戦闘では学年6位、勉強では4位と文武両道。さらに顔も性格も良く、子爵家長男、トークも出来る超有望株なので当然モテた。


「レオは本当に度々先生方から褒められて鼻高々だったわ~。オルブライト家の評判も良くてね~」


 母さん自慢の息子らしい。俺達は?


「そうなの? 私は先生から『手加減を覚えてください』って言われるだけで、全然褒められないわよ」


「・・・・レオは本当に優等生で、将来は学者か王国騎士かって期待されてたわ~」


 ねえ俺達は?




 母さんがレオ兄を褒めちぎってるけど、ランキング上位者は間違いなくモテる、つまり。


「まさかアリシア姉もモテる!?」


 戦闘能力と顔だけ見れば優良物件だ。その他の要素のせいでマイナスに振り切っているけど、親しくならないと内面なんてわからないだろう。


「え? なんでモテないといけないのよ」


 アリシア姉は「は? 恋? 訳が分からない」「モテる必要があるのか」という顔で聞き返してくる。


(あ、大丈夫だ。絶対にモテてないわ。強くなる事しか考えてない)


 もしかしたら告白された事があるかもしれないけど、相手にしなかったんだろう。


 もしくは「私に勝てたら付き合う」みたいな宣言をしてて、寄ってきたハエを捕食するハエトリソウになってるとか。『アリシアの通った後には屍しか残っていなかった』的な。




 俺が物騒な想像をしてると、アリシア姉の恋愛事情についてニーナが補足してくれた。


「アリシアの近くに居るのはレナードだけ」


 ニーナは学校へは行ってないけど、それ以外の時間はアリシア姉と一緒に居るのでその辺の事に詳しかった。


「レナードってあの冒険者志望の?」


「そう、強い」


 平民だから卒業後は冒険者になる予定の男の子で、何度かウチに遊びに来たこともあるから顔は覚えている。


 ちなみにアリシア姉の今の目標は彼に勝つことらしい。


「だからこんなに戦闘したがってるのか。実践で差をつけようって事か」


 学生で実践経験をする人は少ない。ましてやフィーネやユキが厳選した魔獣だから、実力に見合った相手との無理のない戦いが出来て戦果は大きい。



「わたしの目標は母さんに勝つこと」


 ニーナも目標があると言う。


 実はリリが予想外に戦えた。マリクに引けを取らないレベルで、最近ではマリクの方から誘いに来るほど有意義な訓練が出来ているみたいだ。石化病にならなかったら冒険者として中堅ぐらいにはなっていたのだろう。


 そしてニーナは、その中堅相手に勝つのが目標だと言う。


「そっか、頑張れよ」


「母さんに勝てたら次はユキ」


 うん、そっちの応援はしない。たぶん無理だから、ドラゴンで我慢しなさい。




「じゃあ俺も頑張るか~」


 みんなライバルが居て、目標に向かってそれぞれに頑張っている。俺もレオ兄との約束もあるし頑張らないとな。


「おー! ルークさんがやる気ですよ~」


「では最初はそこに居る『メタルフィッシュ』と戦ってみましょうか」


 いきなり中堅冒険者が相手にするレベルの魔獣を指名された。


「なんでだよ! アリシア姉とニーナの2人掛かりで負けたんだろ!?」


 こちとら初陣どころか初めての戦闘訓練なんだぞ。100%負けるわ。


 今までやった運動は木刀を振る、アリシア姉に殴られるという2つだけだ。


「大丈夫です。腕輪の結界がありますから、ルーク様は攻撃するだけですよ」


 そうか! 俺にはチートアイテムがあった!


 フフフ。これさえあれば・・・・。



「シールド全開ィィィッ!!

 さあ『メタルフィッシュ』どこからでもかかってこい!」



「投げますよ~。へい、パ~ス」


 ユキに投げられたメタルフィッシュが真っすぐ俺に突進してきた。


「やっぱ無理っ!」


 しゃがみ込んで回避するが、敵も方向転換して俺と激突する。


(メタルって金属だろ、その体当たりって痛そうだな。いや絶対痛いんだ・・・・アレ? なんか走馬燈みたいだぞ?)



ズドンッ!



 凄い衝撃が来ると思ったけど大きな音だけが響いた。


 俺が目を開けて確認するとメタルフィッシュが潰れて死亡している。


「え? なんで?」


「腕輪の結界はメタルフィッシュの体当たり如きで破れませんから、全力の攻撃で自爆しましたね」


 あ、そんな凄い結界なんだ。本当にチートアイテムなんだな。


『テレレレッテッテッテ~♪ ルークのレベルは2上がった』


 なんか頭の中に声が聞こえたけど・・・・アルディア様か? そのBGM、ゲームのやり過ぎだろ。


『まぁレベルなんてありませんけどね~。悪しからず』


 くそっ! ムカつく。

 ちょっと期待したじゃないか。魔獣を倒していけば能力が上がると思ったじゃないか。


 この世界では運動や魔力を使って鍛錬する事でしか強くなれないようだ。経験値なんて存在しないって言われた。




「どうしました?」


 フィーネが不思議そうな顔で俺を見ていて、周りも同じような反応なので俺以外には聞こえてないらしい。


「いやなんでもない。でもこれって戦闘訓練になるか?」


 回避する必要もないとか、緊張感の欠片もないんだけど。


「まずは攻撃の仕方と魔獣の攻撃を見るのでいいんじゃないですか~? 学校では結界使えませんし~」


 なるほど、攻撃魔術の習得か。筋力レベルを上げて物理で殴るってのも出来るか。




「あ、ああ・・あああ・・・・うあああぁぁぁーーーーーっ!!!

 ななななな、なんで先に倒すのよぉぉーーーーっ!? なんでっ!!」


 弟の初戦闘を静かに見ていたアリシア姉が叫び出した。


 俺がメタルフィッシュを倒した後も黙っていたのは、あまりのショックから喋れなかったようだ。


「っ!? ビックリするな~。なんだよ急に」


 アリシア姉は俺に掴みかかりながら叫び続ける。


「アンタなんで倒しちゃうのよぉぉーーっ!!

 話聞いてたでしょ!? アレは私達の獲物だったのよっ!」


「折角のリベンジが・・・・」


 ニーナも悲しそうだ。


 そう言われればそんな話をしていた気がする、スマン、スマン。


「ごめんって。あ、ほら。まだメタルフィッシュ居るじゃん。アレを倒せばいいよ」


 他にも海中にはたくさんの魔獣が居る。別に同じ魔獣なら力の差はほとんどないだろし、俺が倒したメタルフィッシュ以外でも構わないだろう。


「そういう問題じゃないのよ! 倒そうと思ってた相手を弟に先に倒される気持ちわかる!?  しかも初めての戦闘で圧勝された姉の気持ちがわかるっっっ!!?」


 なんかもう泣きそうだ。


「昨日の夜、2人でたくさん相談した」


 ニーナも泣きそうだ。


 たしかに夕食中も「こう飛んでくるから、そしたら避けて」とか「魔術を使うタイミングは私が合図するから」とか「たぶん後ろからの攻撃に弱い」とか楽しそうに作戦を練っていた。


 俺が寝た後も散々話し合いをしたんだろう。



(俺は間違えたのか・・・・彼女達を悲しませてしまったのか)


 家族の気持ちも考えず、自分勝手な行動で傷つけてしまった。


 どうやって詫びればいいのかわからない・・・・。


 もう俺は生きていけない・・・・・・。





 なんてことはもちろんない。むしろ被害者はこっちだ。


「じゃあなんで戦わせたんだよ!

 どうせ負けるから、その後で自分達が倒して自慢するつもりだったんだろ!?」


「「ぎくっ!」」


 『ぎくっ』じゃねぇよ。


「年上のプライドとか、姉の威厳とか邪な感情があったんだろっ!!」


「「ぎくっぎくっ!!」」


 凶暴な魔獣と戦闘なんてどれだけ怖かったと思ってる。猫相手ですらビビる男だぞ。



「なら徹底的にやってやるよ! ユキ、近くに居る一番強い魔獣連れて来い。コイツ等の前で無傷で倒してやるよっ!!!」


 結界があれば俺は無敵だ。攻撃は通らないだろうけど自滅を待てばいい。


「やめてっ! 私達が悪かったから、これ以上イジメないで!」


「立ち直れなくなる」


 俺の装備が予想外に強くて自信を無くしそうだと言う。なんて身勝手な姉達だ。


「なら自分がされて嫌な事を人にするんじゃない!」


「「ごめんなさいっ!」」


 すぐに仲直りできた。


 俺は彼女達の威厳を守ると約束して、2人は実践を強要しないと約束した。





「ルークさ~ん。『サーペント』連れてきましたよ~」


 ユキが居ないと思ったら、すでに大型の魔獣を連れてきていた。


 手遅れだったらしい。仲直りが遅すぎたんだ。


「あの・・・・返してきてもらえる?」



 ゴメンね、サーペントさん。強制連行されて驚いたよね。


 俺達もう仲直りしたから巣へお帰り。

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