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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四章 スラム

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四十六話 初めての旅行

 ガラガラという音を立ててクロが竜車を引いている。


「ルーク様、あれがガルムですよ。生きている魔獣を見るのは初めてですか?」


「フィーネさん、餡子と果実汁はもう無いんですか~。かき氷なんて素晴らしい食べ物をなんで今まで考え付かなかったんでしょう、不覚ですー!」


「本当に私はパーティに出席しなくてもいいのよね?」


(・・・・なんでこうなった)




「ニーナ! ガルムを倒しに行きましょう!」


「竜車を出たら追いつけないから、わたしは嫌」


(・・・・・・俺はどこで間違えた)


 俺以外は全員が楽しそうに会話している。




「おやおや~。ルークさんテンション低いですね~。酔いました~?」


「お薬はこちらに。クロもっと静かに走りなさい」


「グルー(姉御スイマセン)」


(・・・・・・・・何が起こっているんだ)


 俺は己の悲劇が幕開けた2日前の出来事を思い返すことで現実逃避した。





 それはレオ兄が旅立った直後の話。


 レオ兄を送り出した俺達は帰宅したんだけど、皆の心にポッカリと穴が開いたように元気がなく広間は静まり返っていた。


 そこで俺が「いつまでもしんみりしている訳にはいかない。レオ兄だって頑張るんだからな!」と皆を元気づけて、落ち込んだ時こそ楽しい将来の話をするべきだと、ロア商会の今後について話し合いを始めた。


「さあ! 切り替えていこう! ユキ、塩づくりの交渉はどうだ?」


 転移の使えるユキがアクアとの懸け橋になって進めている計画があり、俺はその進行状況を確認する。


「この前、領主さんに会ったら詳しい話が聞きたいって言われましたよ~」


 これで領主様と現場が納得すれば本格的にロア商会の塩作り工場が稼働することになるな。


 今はユキが塩を採ってきてくれるけど、流通の事を考えたら絶対に大量生産する方法が必要になるので、水の都であるアクアに工場設立の依頼をしていたのだ。



「なので私達とルーク様、エリーナ様でアクアへ行こうと思います」


(あれ?)


 俺はフィーネとの会話の中に違和感を覚えた。




 しかし俺の心配など知る由もないユキは会話を進める。


「私とフィーネさんはロア商会代表ですから~」


「アランはヨシュアを離れられないみたいだから、私が代理で行くことになったのよね」


 ロア商会幹部のユキとフィーネ、そして出資者として母さんが話し合いに参加すると言う。



「責任者と出資者の意見は必要だと思うし、そこは良いよ。

 その前になんて言ったんだよ」


 俺は自分の聞き間違いかと思い、全員に確認する。




「えっ、母様達アクア行くの? 私も行くわ。行きたい!」


「アリシア様は学校がありますから無理ですよ」


「アリシアが行くならわたしも」


 しかし俺の質問は完全にスルーされたまま、姉たちの参加について話し合いが進む。



「ねえ。なんで誰も疑問に思わないの? アリシア姉やニーナが参加するかどうかの前に、話し合うことがあるんじゃないの?」


 もちろん誰も触れてくれない。




「わたしはお留守番・・・・ルークについて行きたかったのにっ!」


 ヒカリは非常に悔しがって地団太を踏んでいるけど、足を動かす度に揺れる尻尾が俺のパトスを刺激する。


 そしてやっと俺の話題が出たよ。



「誰か俺について触れてよ。なんか俺も一緒に行くとか言ってなかった?」


 

「大勢行っても迷惑になるからニャ。家も人手不足になるニャ」


「なので私とマリクさんも残りますよ!」


 せっかくヒカリが俺の話題を出したにも関わらず全く触れる事なく、リリとエルがヒカリを慰めつつ話題はドンドン逸れていった。



「ちょっと! 話題変えないでっ!!!」


 スルーされ続けた俺は渾身の力を込めて叫んだ。


 全員あまりにも無視するので、自分の声が小さくて聞こえないのかと思ったからだ。




「では今日、明日で準備して2日後に出発と言うことで」


「了解です~」


「「「はーい」」」



 結局、俺を置いて次々と計画が進んでいき解散した。


「なぁ俺、見えてるよね? 声、聞こえてるよね?」


 誰からも相手にされないので不安になり、唯一話題に出してくれたヒカリに確認してみた。


「え? 大丈夫だよ。ルークはいつも通りだよ」


 理由はわからないけど、どうやら全員が意図的に無視しているらしい。だとすれば後はひたすら意思表示をするだけだ。



 まずは解散して各々が広間を出て行こうとするのを引き留める。


「待てい!! 俺は不参加だぞ! 行かないぞ!!」


「いいえ。ルーク様の同行は決定です」


 やっとこちらを振り向いて会話を成立させたフィーネは、5歳になる俺にもっと世界を知ってもらいたいと言う。


 山と海に囲まれたアクアでの観光は楽しいと、街の外に居る魔獣の危険性も知るべきだと、領主と知り合うのも必要だと語る。


 たしかに言ってることは正しい。


「それで母さんも許可したわけか」


「アクアの温泉って美肌効果あるらしいのよ」


 それフィーネから聞いた?



「フィーネ・・・・正直に言ってみな? 俺と離れるのが嫌なだけだよな?」


 ちょっと怪しかったんだよ。交渉は我々がします? フィーネの足でも往復で2日は離れる事が確定しているのに何故行きたがる?


 答えは簡単。俺を連れていけば旅行になるからだ。


 大方『離れるのが嫌なら離れなければ良いじゃない』理論で、ロア商会の話し合いって事にして俺を拉致しようと考えたんだろう。



「もちろん離れるのは嫌ですよ。しかしこれはルーク様の見聞を広めるためにも必要な旅です。いずれは街から出ることになるでしょうし、ちょうどいい機会ではありませんか? むしろ魔道具開発者として未知なる世界への興味があるのではないですか?」


 俺に追及されたフィーネは本音を隠すことを諦めて正直に話してくれたけど、俺との旅行については一切譲る気はないらしい。


 無限のコミュ力と人生経験を持つフィーネに口で勝てるわけがなかった。


 


 ここは切り口を変えて、交渉が出来そうなやつを仲間に引き込むべきだな。


 ユキ、君に決めた!


「なぁユキ、俺ついて行かなくても大丈夫だよな? ちょっと新しい魔道具の構想が浮かんできてさ」


「本当ですかーっ!? じゃあ仕方ありませんね~。私達が帰ってくるまでに作っておいてくださいよ~」


 よし! 俺の分までユキが頑張ってくれれば現在の引きこもり生活を脅かされずに済む。



 しかし俺の蛮行をフィーネが許すはずがなかった。


「ユキ、以前作った『かき氷』ですが、私の風魔術と組み合わせると・・・・」


「・・・・ほほぅ~」


 納得しかけたユキに近寄り何かを耳打ちしだす。


「さらに果実や餡子を乗せると・・・・マヨネーズを隠し味として・・・・・・」


「な、なんと!? つまり私の作る氷をさらに・・・・・・」


「何をコソコソ話してるんだ!?」



 少しして話し合いが終わったようだ。


「ルークさん、ごめんなさい~。やっぱりルークさんも一緒に行く必要がありそうです~」


「フィーネ!! ユキに何を吹き込んだ!?」


 絶対に闇取引があっただろ!


「いいえ、何も吹き込んでおりません。

 ただ新しい料理を思いついたので今度作ってみようかと思い、その試食をユキにお願いしていただけです。美味しい料理を増やすことも大切ですからね」


 なにがなんでも譲る気はないらしいな。



「わかったよ。参加するよ・・・・」


 フィーネ、君の勝ちだ。一緒に行くよ。


「そうですか。楽しい旅になりそうですね!」

(計画通りですね。ウフフッ! ルーク様との旅行!)


 フィーネは満面の笑みを浮かべながら小さく体の前で両手を握るという、まさかのガッツポーズをとった。




 どうせ行くなら精一杯楽しんでやるさ! 人生初の旅行で、観光地で有名なアクアに宿泊する。


「あれ? 考えたら凄くテンション上がる!」


 俺はなんで頑なに断ってたんだろ? 何か見落としている気がするけど。




 2日後、竜車をクロに引かせて出発。


 クロは賢いから手綱を握る必要もないらしいけど、一応建前で御者としてフィーネが座っている。


 知らない人が単独で荷台を引くクロを見たらトラブルになりそうだからな。


「楽しみね!」

「うん」


 しれっと2人の少女が乗り込んでるけど、きっと頑張って交渉したんだろう。


 乗車人数には余裕があるし、食料や飲み水も問題ない、絶対に大人数での旅の方が楽しいからむしろ歓迎するべきかな。



 クロの竜車がヨシュア領北口の門をくぐると目の前には平原が広がっている。


「ついに魔獣はびこる大地へと出陣かー!」


「ルーク、ルークッ! 私、魔獣倒したことあるのよ!」


「わたしもある。ケーキ作った時に襲われた」


 アリシア姉とニーナが自慢気にその時の話を始めた。アリシア姉は何度も聞いたけど、ニーナの魔獣討伐は初めて聞いたな。


(ケーキを作った時って、ヒカリに危険な事をさせてないだろうな?)


 マイエンジェルに何かあったらその魔獣は種族ごと全滅させてやる。フィーネとユキがな!



 領内から出るとクロが速度を上げて疾走していく。5日ほどで到着する予定だ。


 フィーネとユキが居れば安全だろうし、外の世界楽しみだな~。


 俺がワクワクを抑えきれなくて落ち着きなく辺りを見渡していると、ユキが荷物の中から父さんからの誕生日プレゼントのスーツを取り出した。



「領主さんが盛大なパーティ開きたいって準備してましたよ~」



「・・・・これ、パーティに出ろってこと?」


 両親から闇の深い、汚れた大人社会などと言われる貴族パーティに出るの?



 来るんじゃなかった。



 そして後悔しつつ今に至る。


「ねえフィーネ。私たちガルム倒してくるから休憩にしましょう」


 アリシア姉はガルム討伐経験があり「凄く楽しかった」と興奮しながら語っていたので、今一度その快感を得るために遠くに見えるガルムを狩りに行くと言う。


「そうですね。昼食にしましょうか」


「やった! ニーナ行くわよっ!」


「わかったから引っ張らないで」


 クロが停車すると同時にアリシア姉とニーナ、ユキが飛んで行った。

 

「フッフッフ~。私の見事な保護者っぷりに驚くが良いですよー!」


 お前、暇なだけだろ。まぁ何があるかわからないし、護衛としてついて行った方がいいのか。


 俺はフィーネが作っている昼食の手伝いしようかな。




「この鳥は無意識でやってますけど、こうやって足の裏に魔力を溜めて爆発させたら素早く動けます~」


「こうかしら? 違うわね・・・・こうっ!」


「ユキの方が少ない魔力なのに早かった。こう?」


 ガルムを7匹倒して魔石も回収せずに帰って来た3人は食後の運動をしていた。



「あれ何やってんの?」


 食後の休憩でまったりしていた俺は、傍にいたフィーネにユキ達がやっている特訓について尋ねる。


「高速移動術『縮地』の訓練ですね。ルーク様も覚えておくと便利ですよ」


「早く走る技か~。使うかな~?」


「学校に入ったら戦闘訓練もするんだから覚えておきなさい」


 母さんやアリシア姉からも進められたので、どうせ暇な俺は一緒に練習をしてみた。



「ははーん。さてはルークさん、運動苦手な人ですね~」



 うっさいよ。5歳児に運動能力求めんな!

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