閑話 子猫協奏曲
ヒカリとニーナは悩んでいた。
来週は命の恩人であるルークの5歳の誕生日。
ニーナはそれほど祝いたいわけではないが一応感謝はしているし、ヒカリが「どうしてもルークをビックリさせるパーティにしたい」と言うので協力していた。
しかしプレゼントと言っても自分たちは最近救われた力も金も権力も無く、知り合いすらいない無力な子供だ。
「ヒカリ。母さんかアリシアにでも相談しないと、わたし達だけじゃ何も決まらない」
「うぅ~。ルークを驚かせたいから嫌っ!」
相談相手に頼んで秘密にしてもらえば良いだけなのだが、ヒカリには譲れない何かがあるらしく断固としてプレゼントは自分たちだけで用意すると言って聞かない。
交渉力の乏しいニーナはオロオロするしかなかった。
しかし埒が明かないので結局諦めて母に相談することにした2人。
「なるほどニャ~。アタシ達に出来る事・・・・今は料理ぐらいしか無いニャ」
最近はリハビリによって体を動かせるようになったとは言え、魔獣退治するにはまだ不安なので運動と共に頑張って練習中の料理を作るしかない。
「料理、何を作るの? わたしは切って焼くしか出来ない」
「わたしが切るとどうしても繋がったままになるよ」
ニーナとヒカリは今後の成長に期待だ。
「思いつかないニャ~。アタシ達が作れる料理はルークの食べたことある物ばかりニャ。ヒカリが良ければエルとかフィーネ達に相談するニャ」
「む~。秘密なのに~」
「でもルークを喜ばせれない」
「それはもっと駄目!」
と言うわけで新作料理を思いつかない3人は料理人のエルに相談することにした。
「ならケーキですねっ! 私もルーク様から教えてもらったんですけど、あれは良いものですよ」
エルが以前、友人に送って絶賛されたケーキがオススメだと言う。作り方を聞くとハチミツが必要らしい。
「ハチミツ無いよ~」
食糧庫を確認したヒカリが残念そうに報告する。
オルブライト家にはハチミツが残っていなかった。
「私の時はユキさんにお願いしましたけど、今回は秘密なんですよね?」
「ヒカリ、諦めて」
「人生諦めが肝心なのニャ」
ニーナとリリで秘密を広まるのを嫌がるヒカリを説得する。
「う~。ドンドン秘密じゃなくなっていく~」
仕方ないのでユキも巻き込む。
すでにオルブライト家の半数以上が秘密のプレゼントの中身を把握していた。
「なるほど! そういうことなら協力しましょうーっ! ハチミツ以外に必要な物はありますか~?」
当然のようにハチミツを採ってきてくれると言うユキ。
「ケーキを作るのに必要な他の材料は揃ってますね!」
「でもケーキってルークも食べたことあるんだよね? わたしは驚かせたいの!」
オリジナリティを求めるヒカリ。
とても危険な発想だが、料理が上手なメンバーで作るため独特な素材を使ってもいい具合に調整してもらえるはずだ。
「ハチミツと合うのは果物」
「甘さが際立つニャ~。ケーキに入れても大丈夫なのニャ?」
エルに確認するとフルーツとケーキの相性は抜群だと自信を持ってオススメされた。さらに「自分は作ったことがない」と言うのでルークも食べたことのないケーキになるみたいだ。
全員一致でルークへのプレゼントは『フルーツケーキ』に決定。
「じゃあアタシ達で果物を確保するニャ!」
「「お~」」
プレゼントが決定したので猫一家は早速フルーツを買いに市場へとやってきた。
エルはパーティ料理をプレゼントにするため助言のみに止め、ユキは極上のハチミツを提供する。
つまり何もしていないヒカリ達が果物を集める必要があり、元々ヒカリが言い出した特製のプレゼントなので3人の果実探しにも力が入る。
しかし3人の買い物は早々に難航することになった。
「た、高いニャ・・・・」
「高級なリンゴ1個が銀貨50枚」
「え~と、買えないの?」
計算が出来ないニーナとヒカリは会計担当の母に確認する。
「使えるお金は銀貨20枚ニャ。つまり全然足りないニャ」
もちろん妥協すれば果物がたくさん入ったケーキを作れるだろうが、折角のプレゼントを妥協したくはなかった。
散々探したが結局、果物の購入を諦めた3人は自力で山の中から探すことにした。ルークの誕生日は明日に迫っている。
「やっぱり新鮮な方が良いニャ」
「もぎたてフルーツ」
「新鮮果実!」
森の中ということで魔獣も出没するが、ヒカリの千里眼によって回避は可能だったので順調に集めていく。
「魔獣は倒す」
「果物は集める!」
ヨシュア領から離れて自然の中を満喫しつつ探索していると子供たちが歌い出した。ずっと同じ言葉を繰り返していたので耳に残ったらしい。
「魔獣は倒す~」「果物集める~♪」
「ガルムは倒す~」「リンゴを集める~♪」「ニャ~」
途中からリリも参加して親子3人仲良く散歩でもするように楽しむ。もちろん歌っている間も果物は確保している。
良し悪しは帰ってからエルに確認してもらう予定なので、今はひたすら数を集めることに専念する。
「もっと奥に行かないと珍しい果物ないよね!」
集まっている果物は食べたことのある物ばかりで種類も少ない。どうせなら色取り取りなケーキを作りたいので3人はドンドン山奥へ入っていった。
たまに進路上に回避できないガルムなど弱い魔獣が現れるがリリ1人で瞬殺していく。
「お母さん強い!」
「ムムム」
「ムフ~。これでも昔は野山を駆けて魔獣退治したものニャ~」
初めて子供に尊敬され調子に乗るリリ。ニーナはライバル視と尊敬する気持ちの半々らしく、複雑そうな表情をしている。
今までの時間を取り戻すように3人は一緒になってはしゃいでいた。
「魔獣に囲まれたみたいだよ」
今まで戦闘は極力回避していたが、ヒカリの千里眼ではまだ広範囲を一斉に把握できないので、気が付いた時にはすでに魔獣たちの縄張りに入ってしまったようだ。
この戦闘は避けられそうにない。
「ガルム?」
「ガルムと別の魔獣の2種類。ガルムは多いし、もう1つは強いよ」
「逃げられないならガルムの数を減らしてから全員で戦うニャ」
リリが作戦を立てて3人は迅速に行動を開始する。ニーナはもちろん、千里眼を使いこなすヒカリも十分な戦力だ。
「ビッグベアだニャ。危険だニャ」
リリが気配を殺して正体不明の魔獣を確認すると、大きな魔獣が森の中をゆっくりと徘徊していた。まるでガルム達の縄張りにわざと侵入し、餌にするため襲ってくるのを待っているかのようだった。
どうやら彼女はその魔獣の危険性を知っているらしく退避を提案する。
『ビッグベア』
その名の通り凶暴なベア族の中でも大型の魔獣。
厚い皮膚と毛皮によって物理攻撃は効きづらく、破壊力のある切り裂き攻撃は危険。食用には向かないためとしては人気が無い。魔術耐性が低いため討伐難易度はCランクだが、魔術師が居ない場合は逃げるべき魔獣である。
魔力は身体強化にしか使えない獣人の天敵と言える魔獣で、現状ビッグベアに効果的な魔術を使える人間は居ない。
「相性が悪すぎるニャ。ガルムも縄張りだとしたら応援を呼ばれるニャ」
「ならわたしがビッグベアを倒すよ!」
「わたしは応援を呼ばれる前にガルムを瞬殺する」
それぞれが内緒にしていた特訓の成果を見せるときである。
「じゃあ行くよ~」
ヒカリは獣人の運動能力と千里眼を使い、ビッグベアに近距離戦闘を挑む。
ガァーーッ!!
「風よ『ストーム』! いっけー!!」
ビッグベアの足元から竜巻が発生した。
ヒカリはユキの治療によって身体と魔力が変化して魔術を扱えるようになっていた。
さらに覚醒した魂は精霊に好かれたため精霊魔術も会得、獣人特有の身体能力と合わせて『獣人は魔術が使えない』という常識を打ち破る史上初の万能猫人族となっていた。
ビッグベアを仕留めた『ストーム』にしても精霊術と魔術を組み合わせたものだ。
一般的な『ストーム』は、手元から発生する竜巻を相手に向かって飛ばすものだが、ヒカリの『ストーム』はビッグベアの真下から突如発生させるものだった。
「ヒカリ凄いニャ」
「負けられない」
密かに訓練していた魔術によって強大な魔獣を瞬殺したヒカリに負けていられないと張り切る2人は瞬く間にガルム10体を殲滅させる。
ヒカリほどではないがニーナも獣人として十分な戦闘力だった。
ガァーーーッ!!
「ッ!」
魔獣を全滅させたという安心感から誰も木の上に居たビッグベアに気が付かずニーナが襲われ、ニーナの腕から血が流れ出る。
(怪我・・・・わたし死ぬの? 帰れない? ルークともう話せない?)
嫌だった。
ルークと話すのは楽しかったし、一緒に遊ぶのはもっと楽しかった。
(嫌、イヤだイヤだ。イヤッイヤッ! イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ!!)
『生き残ってルークに会う』
その一心でニーナは必死に動いた。
ヒカリと同じくユキに治療された肉体と、封じ込めていた感情と、神から授けられた本来の力が噛み合った瞬間、ニーナは覚醒した。
「わ、わたしに・・・・サ・ワ・ル・ナ」
今まで出したことのないような冷酷な声と共に全身から魔力が噴き出し、ニーナの世界が止まった。
襲い掛かろうとするビッグベア、慌てるリリ、魔術を放つヒカリ、全てが遅く感じる。
自分でも驚くほど冷静になり、コマ送りのような空間でニーナだけが思い通りに動けた。
(ビッグベアの爪を弾いて、腕を切り裂いて、頭を殴る)
魔術以外は効かないと言われたビッグベアは驚くほど柔らかな肉だった。
魔獣の息の根を止めたことを確認すると同時にニーナは気を失った。
そして意識を手放す寸前に気付いた。
(わたしはルークの事が好き。ずっと傍に居たい。
神様が言ってたのはこの感情だったんだ・・・・)
「あ、ニーナが起きたニャ。大丈夫ニャ?」
リリに背負われたニーナが目を覚ましたのは、果物探しを終えて帰宅する途中だった。
魔力強化によるものなのか、魔獣に切り裂かれた腕の怪我も治っていた。
「凄かったね! お姉ちゃんが素早すぎてほとんど見えなかったんだよ!」
あの時ニーナの周囲が減速したのではなく、ヒカリの千里眼を以ってしても捉えきれないほど加速していたらしい。感覚が研ぎ澄まされたため自分以外が遅くなったと錯覚したのだ。
「ルークともう会えないって考えたら周りが遅くなって・・・・」
ニーナは自分に起こったことを全て話すと、ヒカリは嬉しそうに抱き着いてきた。
「良かったね! わたしと一緒! ルークが大好きなんだねっ!」
「それが怒りや悲しみ、楽しさや好きっていう感情ニャ。ルークから知らない間に教えられていたのニャ」
「好き・・・・うん、わたしはルークが好き。でも秘密」
決してルークに知られてはならない。ルークは絶対に調子に乗るだけだから。
こうして猫達の果物探しという名の冒険は終わった。
この山での出来事は家族の秘密として誰にも話さなかったが、帰宅してからニーナとヒカリの様子が変わったことに全員が気づいたので、秘密に出来ているのかは定かではない。
「お姉ちゃん、もっと強くなって一緒にルークの役に立とうね!」
「うん」
「あの~。クーさんからハチミツ貰って来たんですけど~。当然試食は私が責任を持ってしますので早く作りましょうよ~」
確実に成長していく2人、そして変わらないユキ。




