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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四章 スラム

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閑話 レオの転入試験2

 護衛から絡まれ、息子をバカにされたエリーナが怒り、ユキが魔力をぶっ放した後、リーダーが震えながらレオ達に謝罪をしてきた。


「あ、あの本当に迷惑をかけました」


「いえ気にしてませんから」


 むしろ謝られて困った表情になるレオ。


 元々レオは怒ってなどいなかったので、エリーナとユキが勝手にやったことに謝罪されても困るしかない。


 何度も謝るリーダーがついで、とばかりに仲間の不機嫌な理由を説明し始めた。


「前の客に貴族が居たんだけど『最近のメイドはドラゴンを狩れるんだぞ。貴族の護衛するお前らならもっと凄いんだろ』と散々喧嘩を売ってきて2人ともイライラしてたんだ」


(スイマセン、そのメイドも僕たちの関係者です)


 フィーネの活躍が広まっているらしい。


 ルークが思っている以上にドラゴンスレイヤーの影響力は凄かった。



「エルフのメイドはウチの商会の会長ですよ~」


 エリーナから褒められ続けていたユキが傍に来て正体をバラした。


 ちなみにユキは開発部長。


 前にルークが言ったことを真に受けて部門も部署もないのに勝手に『部長』を名乗っている。


「『あの』ロア商会の関係者でしたか・・・・う、噂通りなんですね、ハハハ・・・・」


 彼らはロア商会を知っているらしい。ドラゴンスレイヤーでエルフの会長というのが利いているようだ。


(『あの』って・・・・悪名じゃないといいんだけど。ところでなんで敬語になってるの?)




 さらにオドオドし始めた護衛達からユキは詳細を聞き出そうとする。


「ちなみにどんな貴族だったんですか~? 会長の耳に入れておきますから~」


「あ、いえ。覚えなくても結構です。僕もよく覚えてませんから」


 喧嘩を売られた文言の中にメイドへの批判も含まれていたので、言えば確実に貴族は消されるだろう。さすがに客を売り渡すことは出来ない。


 もしかしたらさっきの魔術を街中でぶっ放すつもりなのかもしれない。


(((ロア商会、怖い)))


 竜車に乗っている客の共通意見だった。




 その後は地獄のような車内となった。


 客たちは誰も身動き一つせず、隅の方で身を寄せ合って静かにしている。


((僕らは石像、何も見なかったし聞かなかった))


 『ロア商会の関係者を不快にさせたら次は自分があの魔術を受ける』その一心で迷惑の掛からないように彼らは固まっていた。


 レオは勉強に集中していたし、エリーナは魔術が見れて大満足な表情で外を眺め、ユキは晴れたので屋根の上で日向ぼっこをしていたので静かな車内も気にならなかった。



 一番の被害者は御者だろう。彼は「車内が静かなのは自分の運転でロア商会の人を怒らせているからではないか?」と言う被害妄想で汗と涙と震えが止まらない。

 そして心の中で神に祈り続け、ヨシュアに残してきた家族への遺言を考えていた。




 暗くなる前に目的地である王都に到着したが、その時にはレオ達以外の人々は疲労困憊によって倒れる寸前だった。


 オルブライト家には一生逆らわないと心に決めて、無事に到着した達成感からお互い抱き合って喜びあう。赤の他人が道中で心ひとつとなり、完全に仲間意識が芽生えていた。


(うちの女性たちが本当にスイマセン。もう二度と母さんとユキの組み合わせとは旅しない)


 レオはこの旅で少し女性が嫌いになった。




 エリーナが手配した宿屋で1泊してから、レオは休日で生徒の少ないセイルーン高校内で転入試験に臨む。



 転入試験は珍しいのでレオと試験官1名だけの静かな教室で筆記テストを行う。


 例え王都とはいえ高校の試験はレオにとっては常識なのでスラスラ解いていく。


(山に生息する魔獣で最も警戒するのは立派な門になってるドラゴン・・・・じゃなくてワイバーン。海ならヒレが美味しかったブラックシャーク・・・・じゃなくてクラーケン。

 この魔獣の弱点は全身氷漬けに・・・・違う、首筋の痣だ。毒の治療法は腕の再生・・・・じゃなくてフレッシュ草の搾り汁)


 常識なのだが、とある人物によって謎の知識を植え付けられているので苦戦するレオ。



 午後は実技だ。


 試験官が放つ魔術に効果的な対応をする試験。


(よし、水の魔術。それなら氷の魔術で固めて、かき氷にして食べる・・・・違う! 次は土か。なら水の魔術をドラゴンの形にして地面に10mの穴を空ける・・・・じゃない。

 ユキお願いだから今だけ頭の中から消えてくれ・・・・お願いだから、後でマヨネーズパンあげるから)


 オルブライト家に住む精霊はレオの高校入学を期に自分の知識を教え込んでいた。


 もちろん悪気などなく全て良かれと思っての行動だったが、今まさに大事な試験に挑むレオの精神を蝕んでいるのは間違いない。


 果たしてレオは脳内に居座るユキに打ち勝つことが出来るのか。





 そんなレオの苦労を知る由もない精霊は、レオを高校に送り届けて暇になっていた。


「エリーナさ~ん。試験が終わるのいつ頃でしたっけ~?」


 レオの転入試験は6時間、さすがにずっと宿に居るのも暇だったエリーナとユキは王都に繰り出すことにした。


「ユキは王都に来たことあるの? 良いお店を知ってたら教えて」


「前に来たのは5年前らしいので、たぶん色々変わってますよ~。人が多い場所に行った方が間違いないですよ~」


 『らしい』というのはフィーネから「セイルーンの王国祭は5年前」と言われたからで、ユキ本人で王都にいつ頃来たのかは把握していない。




 結局ユキの助言通り、人が多い場所なら観光の名所だろうとやって来たのは商店街。


「最初にお土産買うと荷物になるわよね。ここは試験終わりにレオと来ましょう」


「優雅にウィンドウショッピングって大人の女性っぽくないですか? 珍しい物があるかもしれませんよ~。散策しましょうよ~」


 行きたい場所があるわけでもないので、2人は人々で賑わう商店街へと歩き出した。



 早速エリーナの目に入ったのは貴族向けの防具店。


「ねぇ、大金貨100枚のダイアモンド鎧だって! 誰が買うのかしら?」


「純度低いですね~。これじゃすぐ壊れますから、置物としてしか使えませんよ~」


 貴族向けなので実用性より見た目重視の店で、並んでいる商品は軒並み大金貨数枚はする高級な物ばかりだった。


「鎧よりは服の方が喜ばれるか。君、珍しい魔法陣が入った服はどれかね?」

「お客様も例の件ですか? でしたら・・・・」


 高級店にも関わらず繁盛しているので、今も数人の貴族が店員から商品説明を受けている。



「ユキから見て良い商品って無い? 大金貨なんてもちろん持ってきてないけど、見る分にはタダよね」


「無いですね~。普通の鎧や服に高価な素材を付けただけって感じです~」


 もちろん庶民からすると全て良い商品なのだが、目が肥えているユキ基準になるとガラクタばかりのようだ。


「おっほん! いらっしゃいませ。何かご入用で?」


 そんなユキ達の会話を聞いていた店員が飛んできて、暗に「店の評判落とそうとしてるんじゃないだろうな?」と忠告する。


 さすがに居心地が悪いので退散する2人。




 次にやってきたのは素材専門店。


「クラーケンの触手が金貨10枚!? たっか!」


「前に倒した大型なら何百枚ですかね~。やっぱり海から離れると価値が上がるみたいですね~」


 ユキなら転移で一瞬だが、通常の貿易商は運搬による付加価値で利益を得るのだ。


 ここも高級店らしく貴族が多かった。


「ワイバーンの爪1つで金貨30枚・・・・本当に買うのか?」

「お父様! 大切なプレゼントですのよ。ケチケチせずに買ってくださいませ、さぁ!」


 ユキ達の隣でワイバーンの爪を購入しようとする貴族の親子も居るので、貴族同士のプレゼントにも最適な店なのだろう。



 貴族として審美眼は必要になるので、良い素材は見ておきたかったエリーナは店内で一番高い素材を探す。


「さすがにドラゴンの素材は無いのね」


「王都でも『出会えたらラッキー』ぐらいな素材らしいですからね~。強い冒険者さんか軍隊ぐらいしか倒せませんし」


 そんな素材が不用心に門として使われている石鹸工場が異常な場所なのだ。



「ユキが知らない素材ってあるの? もしくは貴重な素材」


 世界中を旅したユキが知らないなんて、珍しい素材に間違いないので把握しておきたいエリーナが尋ねる。


「フッフッフ~。誰に言ってるんですか~? 全部知ってるに決まってるじゃないですか~。

 貴重な素材は・・・・無いですね~。今すぐにでも取って来れる物ばかりですよ~」


 『超貴重! 歴史上でも類を見ない完璧なフェンリルの牙』と書かれたショーケースの前でエリーナに返答するユキ。


 当然周囲の客にも聞こえる声で話しているので「少女が取って来れる素材ばかりなの?」「この店大したことないのか?」など客同士で店への疑惑を持ち始めた。


「お客様? な、に、か?」ピクピク、ギリギリッ


 頭に血管を浮かばせ歯軋りする店員が話しかけてきた。今度の店員は先ほどの店と違い怒りを隠そうともしていない。


(接客態度としてどうなのかしら?)


 エリーナの当然の疑問は置いといて、またもや店から退散する2人。




 結局ロクな店も商品も無いので広場で休憩することにした。


「王都って人は多いし店も一杯あるけど、あんまりヨシュアと変わらないのよね~。良い領地なのに、なんでみんな都会に行きたがるのかしら?」


「エリーナさん、それレオさんの転入も否定してますよ~。目的があって人口が多い土地に住む人も居るんですから~」


 王都へやってきた目的を全否定するエリーナをユキが注意する。どうやらエリーナは都会に良い思い出がないようだ。


「そ、そうよね。(まさかあのユキから注意されるなんて・・・・) 私にはわからないだけで王都でしか出来ないことも沢山あるわよね。

 でもロア商会が大きくなって王都進出する事になっても絶対転居はしないわよ」


 元々ロア商会の拠点はヨシュアなのでどこへ進出してもオルブライト家には影響がないのだが、エリーナは何度も確認する。


「大丈夫ですよ~。あの家はレオさんが居る限り安泰ですから~。あ、そろそろ試験終わるんじゃないですか~?」


 ユキ達が高校入口に行き、少し待っているとレオが満面の笑みを浮かべながら出てきた。


 元々優等生なレオにはむしろ簡単な試験だったのだろうが、上々な出来だったことが一目でわかる。



 こうしてエリーナの王都嫌いが悪化しただけで、レオ達の王都への旅は終了した。



 試験を終えたレオと共に商店街でお土産を買い、田舎で何も名産がないヨシュアへと帰還した。


(うん、試験は会心の出来だった。絶対合格してる! 途中からユキが頭の中から居なくなったお陰かな。あ、いやユキのせいじゃないよね、ゴメンよ)


 レオが再び王都へ来る日も近そうだ。


 その時は間違いなくエリーナは同行しないだろうが。

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