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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四章 スラム

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閑話 レオの転入試験1

「じゃあ行ってくるね」


 レオが転入試験のため王都セイルーンへ行く日になった。


 実家を離れて王都で1人暮らしをするレオを送り出すため、オルブライトに住む全員で東部にある定期便乗り場へやってきている。


「気を付けるんだよ。護衛が居るとは言っても魔獣は出るからね」


 1日あれば移動できる距離にある王都までは交通量が多いので安全性は高いのだが、街中に比べるとどうしても魔獣や野盗に襲われる危険性はあった。


 レオは護衛付きの定期便に乗っていく事になっているが、それでも心配なアランが念には念を入れてオルブライト家からも護衛を連れていくようにしていた。


 ヨシュアからセイルーンまでは2日に1度、運送商会の管理する定期便が出発する。乗車人数によるが毎回竜車の数は客用が1台と護衛が1台、貿易品が1台の合計3台ほどである。



「レオは試験に集中すればいいのよ」


「です~。私が居ますから大丈夫ですよ~」


 試験の手続きや宿の手配などを行う母親のエリーナと、転入したら会いに行くためので場所を覚える目的と護衛を兼任するユキがレオと一緒に竜車に乗り込んだ。


 今回はオルブライト家以外に乗客は4人、そして護衛は3人、御者は3人を合わせて13人での旅だ。


 同じ竜車のクロで移動しても良かったのだが、今後レオが帰宅する際に定期便の乗り方がわからないと困るので今回はこちらを利用することにした。




「御者したかったです~」


 定期便が出発して東門を通り抜けると同時に、ユキが前方の御者を羨ましそうに眺めながら不満を口に出す。


「あら、ユキは竜が嫌いじゃないの?」


「だよね。僕もそう思ってた。いつもクロと喧嘩してるし」


「違いますよ~。あの鳥が生意気にも毎回喧嘩を売ってくるので買っているだけです~」


 ちなみにユキは前に御者をやったことがあるので、その巧みな手綱さばきを自慢したかったらしい。


 単純に手持無沙汰になるが嫌なだけなのだろう。すぐにレオの勉強道具で遊び始めたので、暇が潰れせればなんでもいいらしい。




 ユキが教科書に書いてある人物で『歴代有名人しりとり』をしていると、エリーナとレオが辛そうに話しかけてきた。


「やっぱり竜車は揺れるわね。早いから仕方ないんだけど、酔いそう」


「だね。勉強するつもりだったけど無理そう・・・・ユキはよく平気だね」


 竜車は馬車と比べて振動が激しいので、とても読み書きできる環境ではなかった。もちろんユキは乗り物酔いしない体質だが一般人にはキツイ旅路だろう。


「試験に影響あったらいけませんね~。これをどうぞ~」


 そう言ってユキがどこからともなく座布団を取り出した。


「ありがとう。でも持ってきてるのよ、意味はないけど・・・・」


「少しは楽になるかと思ったけど想像以上だったよ」


「これは水が入ってますから振動を感じなくなりますよ~」


 実はこの座布団、見た目は普通の布だが中身はユキの魔術で作り出した特製の水が詰まっていた。流体操作で流れ出ないようになっている。


「あら、すごいわね」


「これなら勉強できそう。ユキ、ありがとう」


「どういたしまして~」


 こうして2人は揺れや酔いとは無縁の旅を楽しむことができた。


 しりとりに飽きたユキは揺れを利用した遊びを始めている。




 ヨシュアを出発して4時間、昼休憩を取るために停車する。


「やっぱり外でもこれだけ人通りが多いと魔獣も寄ってこないんだね」


 4時間で一度も襲撃されていなかったのでレオが考えていたより安全な地域らしい。


「そんな事ないですよ~。3回襲撃ありましたよ~」


「え? 護衛の人たちが倒したのかな。気付かなかった」


「遠くから近寄ってきてたので私が追い返しました~」


 レオの予想に反して物騒な旅だったらしいが、護衛の目の届く範囲外でユキが処理していたようだ。


「そっか、ありがとう」


「フフフ~。立派な護衛役が出来ましたよ~」


 ユキが護衛をしている以上、例えドラゴンが襲って来ようとも竜車に傷一つ付かないだろう。




「お昼はルークさん特製のカツサンドですよ~。マヨネーズたっぷりの『ユキスペシャル』も作りましたー!」


 そう言いながらマヨネーズでベチャベチャになったサンドイッチを差し出してくるユキ。


「試験に勝つって言ってたね。美味しそうだ。

 マ、マヨネーズ多いね・・・・」


「相変わらずあの子の発想力は凄いわね~。どうやって思いつくのかしら?

 ユキスペシャルは人類には早すぎるからユキが食べなさい」


 カツサンドはユキが冷やした水と一緒に美味しくいただいたが、油が主成分のマヨネーズ増量品は子供や女性には厳しい食べ物だったのでユキ1人で平らげた。


「こんなにも美味しいのに~」





 食後もレオは勉強をする。


 明日には試験なので一刻も無駄にはできないのだ。合格する自信はあるが万が一と言うこともあるので空き時間を見つけては教科書を開いていた。


「ん~。私は役に立てませんね~」


「ウフフ、そうね。ユキの常識は試験には出ないものね」


 世界を知り尽くしているユキの知識は高校の試験では役に立たない。


 『世界は回っている』『魔石は精霊から生まれる』『魔獣の生態』など証明できていない事ばかりで、世界の真理を研究している学者達は感涙するだろうが、試験勉強をしているレオを混乱させるだけなのだ。



「じゃあ魔力の鍛え方を教えてよ」


 レオが気を使ったのか、ユキが役に立てる戦闘面の知識を聞いてくる。


 転入試験は勉学と体術、魔力、社交性の4種類あるので無駄にはならない。今後は魔術を使う機会が増えるので学んでおいて損はないだろう。


「むむっ! それは私の出番ですねー!

 では人差し指を伸ばして、そこに魔力を集中させてください~」


 ユキが張り切って指導し始めた。暇だったのだろう。


「こう?」


 レオが伸ばした指にユキも合わせる。


「行きますよ~。ドーン」


 ユキが合図した瞬間、レオの腕が押し返された。


「うわっ! え? 何?」


「体内の魔力操作ですよ~。使ったのはレオさんより弱い魔力ですけど、圧縮させたらこれぐらいは出来るんです~」


 ルークは無意識でやっている事だが一点に集中させた魔力は強く、魔道具を作る時に凝結させれば長持ちするようになる。


 圧縮した魔力を一気に放出したので弾かれたらしい。


「色々と役に立つので練習してみてください~」




 別の練習方法も教える。


「レオさんはどのぐらいの火が出せます?」


「えっと、これくらい」


 そう言って詠唱すると、人の頭ほどの大きさの火球が生み出される。


「じゃあコレを小さくしてみましょう」


「小さく、こう?」


 魔力を減らして小さくした。


「違いますよ~。全力で魔力を込めて、それを圧縮するんです~」


「・・・・どうやるの?」


 頑張ってみたけど無理そうだ。


「まだ難しいですかね~。じゃあ魔力減らしても良いんで葉っぱが燃えないようにしてください~」


 そう言ってレオの手のひらに葉っぱを乗せる。


「こ、これは・・・・むっ、無理っ・・・」


 数秒で燃えてなくなった。火を出すと燃えるし、燃えないようにすると火が消えるので微調節が難しい。


「練習すればできるようになりますよ~。頑張りましょうね~」




 ユキ先生による魔力操作の授業は昼休憩の間ずっと続いた。



「おいおいっ! 最近の貴族様はファイアもまともに出せないのかよ!」



 レオが圧縮の訓練をしていると護衛が絡んできた。


「こら、ムント止めないか。俺達の役目は護衛だ。乗客にチョッカイをかけるんじゃない」


「だってよ~。いくらなんでも弱すぎるだろ! こんな貴族が増えるなんてお先真っ暗じゃねぇか! ガッハッハッ!」


「まぁ確かに弱いよな~。ヘヘへッ!」


「モックまで・・・・慣れない旅で疲れてるんだろ。

 すまないな、最近嫌な事があって荒れてるんだ、気にしないでくれ」


 護衛をしている3人の内、2人から馬鹿にされてしまった。


「いえ、大丈夫ですよ」


 レオは大人な対応を見せる。


 貴族たるもの怒りに身を任せた発言、行動をしないようにと散々教えられた。


(大丈夫・・・・大丈夫・・・・よし落ち着いた)


 リーダーらしき人が2人を遠ざけていき、この場は落ち着いたかに思えた。




「待ちなさいっ!!」


 

「母さん?」


 エリーナが激怒していた。


「誰の子供が弱いって!? どこが将来性が無いって!? ふざけんじゃないわよっ!!」


(なんで僕が我慢したのに母さんが怒ってるんだよ)


 レオに強い精神を持つように教えた張本人がぶち切れている。


「ユキ!! 本物の魔術ってのを教えてやりなさいっ!!」


「え~。目立つの嫌いなんですけど~」


 エリーナが焚きつけてくるが、拒否する姿勢のユキ。基本的にユキは誰かと関わろうとしないので、当然魔術の使用は極力控えている。


「いいから! 愚か者には鉄槌を!!

 後でマヨネーズあげるから!」


(いや鉄槌はダメだよ。なんでユキを焚きつけてるのさ)




「じゃあ派手なのを行きますよー!」


 大好物のマヨネーズを持ち出されたユキが乗り気になってしまった。


(もう僕は知らないよ・・・・)


 『あの』ユキが派手と言っている魔術だ。


 レオは全てを諦めた。


「曇りより晴れが良いですよねー。水の精霊が空に集まってしまってますー」



バチバチバチッ!



 ユキの右手に凄まじい魔力が集まって音を立てている。


(あぁ・・・・もうダメだ。なんで母さんはキラキラした目で見てるの? やっぱりアリシアは母さん似だ)


 これから起こるであろう現象にテンションが上がるエリーナ。その姿は間違いなくアリシアの母だった。



「やぁー」


 迫力の無い掛け声と同時に、光り輝く魔力が空へと飛んで行った。




ブワァーーーーーッ!!!!




 ユキが放った魔力が爆発すると、一瞬で空を覆っていた雲が消し飛んだ。


(あぁ、いい天気だ)


 おそらく都市一つ消し飛ぶ威力の魔術が炸裂したのだろう。見渡す限りの青天になる。



「アーーッハッハッハッ! 見た!? 天候を変えるぐらいしかできない魔術師が指導中だったんですけど何か? ウフフフフー!」


 エリーナのテンションは最高潮だ。


(やめてもう煽らないで。僕は静かに試験勉強したいんだ)



 絶大な威力の魔術を目の当たりにした護衛達が腰を抜かして倒れている。


「ムント君とモック君って言ったわね? どうしたの? ほら、弱いでしたっけ?

 まだ文句があるならオルブライト子爵まで言いなさい! 受けて立つわよっ!」


「「調子乗ってましたっ! スイマセン!!」」


 土下座しながら謝ってきた。


(大の大人の土下座・・・・見たくなかったな)



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