四十四話 神力の魔道具
夕食に盛大な誕生パーティを開いてくれて楽しかった。
プレゼントも一杯もらって・・・・もらって・・・・・・傷ついた。
(俺なんてチートキャラでも何でもなかったんだ)
でも今の俺は違う! 今までの俺とは違う!
俺は新しい力を手に入れた。
覚醒ルークだ!!
パーティ後に残る荒んだ心を振り払って、フィーネとユキを呼び出して説明する。
「ってな訳で今日1回だけ神力を使えるんだけど、何をするべきだと思う?」
俺も考えてはいるけど、意見は多い方が良いので2人に聞いてみる。
2人とも俺の新能力を喜んでくれたけど、驚きはしなかったんだよな。神の力で驚かないって君らは一体どのぐらいの次元に居るんだ?
まぁ気を取り直して、今は神力の使い道だ。
「そうですね。私は恒久的に使用できる貯水ボックスが良いと思います」
なるほど現状でも活躍している貯水ボックスを改良するか。
もしかしたら塩だけを採取するなんてのも可能になるかもしれない。
「私は天候に強い食料ですかね~。魔力不足のせいでしょうけど作物が弱くなってる気がします~」
昔と比べて育ちにくくなってるらしい。
米なら割と全世界で育てられてるから良いかもな。こっちでも適応できるだろう。
「悩むな~。でも今日中に使わないと勿体ないもんな~」
「ルーク様はどのような考えだったのですか?」
「俺? 俺はアクアと協力しての塩作りだ」
フィーネの意見に近いけど、より大規模での製造による世界的ソルトブームを巻き起こす。
「良いじゃないですか~。たしかにアクアでの塩作りは原始的でしたからね~。不純物も多くて完成までに時間も掛かってました~」
ユキも知っていたらしい。
「俺はフィーネから聞いた話しか知らないけど、そこが魔道具で改善できそうなんだよな」
『人力』『自然に任せる』
今の塩づくりの改善点はそこだ。魔道具を導入すれば一気に効率的に出来るだろう。
「アクアでしたら領主との交渉は我々が行いますので、おそらく問題ないと思います」
たぶんユキが「やれ」って言えば即決だと思う。鶴の一声ってやつだな。
「ならそれで行くか!」
作る物は『貯水ボックス改(暫定)』に決定。
そのためには色々と準備が必要だ。
「なぁ、ユキが言ってた海底の魔獣の住み分けって詳しくわかる?」
「名前はわからないですけど、姿は覚えてますよ~」
「ならその階層で最強の奴から魔石を採って来るのお願いしていいか? 今日中に出来そう?」
「大丈夫ですよ~。何に使うんですか~?」
「給水ポンプに使いたいんだ」
俺のプランはボックスではなくパイプでの塩作りだ。
海底の方が純度が高いのはフィーネの塩作りで証明済み。
だから深海までパイプを伸ばしてそこから吸い上げて、あとは現在使われている揚浜式と同じで、乾燥させたり煮込んでろ過したり。
そこは神力を使った魔道具でどこまで作業短縮が出来るかの問題だな。
ポイントは吸い上げてる最中のパイプ内部で塩以外の不純物を取り除いて浄化する所。
神力の効果はわからないけど塩と水だけにはしたい。
もしかしたら塩だけを吸い出すのも可能かもしれないけど、そこは俺の魔力次第だろう。
パイプは深海まで伸ばして深層の海水を吸引する。
その時に各階層の魔獣がパイプに近づかないように魔石で強い魔獣の気配を漂わせる。ユキに取ってきてもらう魔石はここで使いたかったからお願いした。
「じゃあ行ってきま~す」
そう言ってユキが消える。
「俺達もやるか」
「はい」
ユキが作ってくれた2mほどの氷パイプに防壁と貯水ボックスと同じ魔法陣を刻み込んでいく。
「神力を使うのはどうやるんだろう? アルディア様、俺は神力を使いますよー!」
使い方がわからなかったので祈ってから魔力を流し込む。
合っていたようでパイプが光り出した。
(自分の魔力が目に見えるって感動するわ~)
今までも薄っすらとは見えていたけど、ここまで光り輝く魔力は初めてだ。精霊術の時と同じぐらい輝いている。
子供の時に風呂上がりの湯気を『闘気』とか言ってテンション上げてたのは俺だけじゃないはずだ。あれが中二病の始まりだった・・・・。
「ただいまです~」
数分でユキが帰って来た。
「早いな。もう集めたのか」
「いいえ~。お試しで浅瀬の魔獣のを持ってきました~」
気が利くじゃないか。丁度パイプの加工が終わったところだ。
失敗する可能性もあるからお試しは必要だよな。まぁ失敗したら一年間は作れないんだけど。
「ではブラックシャークの魔石を取り付けましょう」
ユキが持ち帰った表層で最強の魔獣はブラックシャークって言う名前らしい。
名称に興味のないユキは知らなかったみたいで「へぇ~、そんな名前なんですね~。見たまんまですね~」と言っている。
『ブラックシャーク』
その名の通り黒いサメで体長6mはある海面近くに現れる魔獣。
凄まじい速度で泳ぎ、皮膚が固いため突進や噛み付きにより船を破壊する船乗りの天敵。討伐が非常に困難なため、見かけたら逃げろと言われている恐怖の象徴。
遭遇確率は比較的高いが、海での戦闘と言うことで討伐難易度Sランク。ヒレ部分が美味しいらしい。
(ユキが数分で見つけて仕留めれたんだし、そんな強くもないんだろうな)
という訳で気楽に加工したパイプに取り付ける。
「見た目は普通の2mパイプになったな・・・・ちょっと井戸で試してみよう」
我が家の井戸は深さが10mほどあるので当然届かない。
「伸びましたね」
「伸びましたね~」
魔力を込めるとパイプが伸びた。イメージは収縮棒だったので、これは成功。
「なんかボタン出てきたんだけど?」
手元に表層、中深層、深海層というボタンが現れた。その横にはよくわからないメモリが付いている。
「おそらくその場所まで伸びるのではないでしょうか? 海専用と言うことでルーク様の深層心理が影響したのでは?」
なるほど、つまり深海層のボタンを押したら1000mぐらいは伸びるかもしれないと。
たしかに「深層水って美味しいのかな?」とか「水深で塩とか水の味は変わるのかな?」って考えてたかもしれない。
ここで試すのは無理だな。
フィーネの予想通りなら深海層ボタンを押したら最後、このパイプがヨシュア領を貫いてシャレにならない大惨事になるかもしれない。
「ユキ、海で試してきて」
「イエッサー」
ついでに給水可能か見てもらう。
「凄いですよー! 私ビックリしました、アンビリーバボーですー!」
ユキが凄いテンションで帰って来た。
「何があったんだ? 説明求む」
「深海層ボタンを押すじゃないですか~。一瞬で海底まで伸びるじゃないですか~。
海水を吸い出したらあら不思議、メモリの調整で成分が分解されて出てくるんですよーっ!」
海に刺さると言うより新しい空間を作り出したらしい。なので下に何があろうと、誰が居ようと問題ないと言う。空間を作るのでズレるんだとか。
(神力チートすぎるだろ!)
「つまり塩は作れるって事?」
「余裕ですね~。現状の1割の時間で作れますね~。もちろん100%塩ですよ~」
吸い出した海水を水魔術で分離するだけなので、コツを掴めば不純物ゼロの海水なら確実に塩が分けられるようになると言う。
揚浜式で海水を撒いている魔術師なら絶対できるらしい。
「後は中深層と深海層の魔石かな」
「そうですね。パイプを破壊する魔獣が居るかもしれません」
「じゃあ採ってきます~」
またユキが転移したので、俺達は使用したパイプに不備がないか慎重に確認して時間を潰す。もちろん問題なかった。
「採ってきましたよ~」
そう言いながらユキは5mぐらいある巨大な魔石と小さな宝石を渡してきた。
「大きすぎるんだけど! 何これ!?」
「クジラさんですよ~」
「正式名は『キングホエール』です」
『キングホエール』
クジラの王様、体長は40mを超えるアルディア最大級の魔獣。
巨体特有の防御力が桁違いで、海流を操る魔術を攻防一体で使用するので討伐は不可能と言われている。
極まれに海面に姿を見せるので存在が確認されているのみで、被害も少ないので討伐対象にはなっていない。
「クジラの肉って食べれるんだよな?」
「美味しいですよ~。水神はこのクジラの亜種でしたし~」
「クジラの魔石だから大きかったのか。肉は近々食べよう」
ユキが氷漬けにしていると言っていたから保存は完璧みたいだ。でも水神みたいに魔力増幅効果は無いらしいけど別にいらないから美味しかったら問題ない。
ルークは知らないが広範囲を氷漬けにしたため海面に突然氷山が現れて大騒ぎになっていた。さらに海流が変化して海辺で取れる魚介類は別地方の特産物、という異変が各地で起きるのはきっと誰のせいでもない。
「珍しいですね。リヴァイアサンの雫ではないですか」
フィーネは大きな魔石より、宝石の方に興味を示していた。
(なんか海の魔獣の代表みたいな名前が聞こえたけど・・・・)
「魔石寄越せ~って言ったら、これで勘弁してくださいって渡されました~」
リヴァイアサン喋るの? なんで脅えてるの?
「好戦的な種族のはずですよ。以前に何かしたのではないですか?」
「3回しか会ってないですけどね~。
最初に海を全部氷漬けにしたのがダメでしたかね~?
それとも次に会った時に海底を掘って火山を爆発させたからですかね~?」
君は何を言ってるの? そして何をやってるの?
「しかし良かったですねルーク様。この雫なら魔石よりも効果絶大ですよ」
一応、目標達成。
俺は何も聞かなかったことにして魔石と雫をパイプに取り付けた。
そして初めて神力を使った魔道具
『魔道パイプ』の完成だ!
「おめでとうございますルーク様。あとはアクア領との交渉だけですね」
達成感はないけどチートキャラってこんな気分なのかもしれない。
「ありがとう。ユキ、本当に交渉は任せても大丈夫か?」
「Yes I do」
なんでだよ。
英語どこで覚えた? たしかにたまに英語っぽい発音は存在する。共通言語の他に古代言語や方言もある。でも正確な英語発音はありえないはずだ。
とにかく自信はあると言うユキ。
「私とユキでもう一度アクアまで走るので問題ありません。
場所と従業員の確保ですね。開発はロア商会ということで宜しかったでしょうか?」
さすがフィーネ、今後の計画も完璧そうだ。
・・・・ん~。なんか引っかかるけど、わからないし大したことじゃないよな?
俺の出る幕はもうないかな。
今度は大人達が頑張る番だ。




